141 / 274
第三章
141話目
しおりを挟む「酒といえば……次は商業ギルドか……」
思い出されるのは商業ギルドからの報告書。
基本的に商業ギルドが行うことはこちらからは報告を受け取るだけだ。 特に今のギルド長になってからは査察をしても問題は見受けられないので差し止めはしない。
にしても今まで渡り人に対し一定の距離を置いていたオーフェンがなぜ。
この国にとってこのネーアの街は特殊な場所だ。
この街というか森が。
年に数回やって来る渡り人のほとんどが何故かこの森に出現する。
この国の者にとって渡り人は注視すべきものだ。
特に貴族にとっては。
この国の物にはない固有の魔法、見たこともない持ち物。
それを自分の手に入れたことを自慢の種にしている者が階級が下になればなるほど多くなる。
高位貴族は過去の渡り人の事件を詳しく教え危険性と有用性、取り扱い……接し方について学ぶ。
下位貴族は人数も多く、成り上がった者、新興貴族も大勢居る。 平民から貴族に上がる故に学がなく渡り人の危険性を知らずに珍しい物に目が眩む者が多い。
故に傲慢で無体な行動を起こしがちだ。
そんな下位貴族と渡り人の諍いは大抵渡り人の魔力暴走というそこに住む者を巻き込んで終結することが多い。
欲深い者がここを統治すれば、金のなる木の渡り人はそれこそ来たそばから捕らえられ、欲しがる貴族に売り渡されるだろう。
売られた渡り人は権力闘争の道具に使われ、戦いの道具にされ使い終わったら捨てられる。
そうして渡り人の怨みを買い滅びた国が歴史にはある。
それを学んだからこそ、ここを統治する者は渡り人の扱いには慎重になる。
歴史から学んだ渡り人の取り扱いは、必要以上に干渉せず自由にさせること。
客人として来て時期が来たら帰る。
稀に素行が悪く危険な者が来れば秘密裏に処理する。 稀に化け物がいるが。
自ら渡り人に関わりに行ったりはしない。 そう代々伝えられて来たしそうするつもりだ。
そしてこの地は王名により任じられた。 だからいくらこの地が欲しかろうと簡単に手にすることはできない。
代わりにそう言ったものの矛先になる代表が商業ギルドだ。
いち早く異世界の物が持ち込まれるのが商業ギルドだからだ。
貴族の手先になりこの地のギルドマスターに就きたい者は多い。
手先ではなくとも物珍しい物が持ち込まれ、それが高値で売れる。
欲深い者ほどここのギルドマスターの地位が美味しく見えるはずだ。
そんな者達に狙われるオーフェンの立場は危うい。
だが、オーフェンは狙う者達が多いのを逆手に取り、渡り人とは線を引き、ここに集められた異世界の物を王都に送ることで他の者がなるよりは……と言う心理を上手く使い数十年という長い間ここに君臨している。
渡り人に対する姿勢は我が家と通ずる部分もあり好ましく思っていた。
そんなオーフェンとは時候の挨拶はすれど互いに干渉しない。 そんな関わりを続けて来た。
だが、ここに来て橋沼桜に入れ込み始めた。
……話を聞くか。
一人で考えても限度があるかと考えることをやめた。
「お前は監視の者に指示を出して来てくれ。 代わりにイネスを寄越せ」
「分かった」
ソファーから立ち上がりドアの方へ行く長谷川がふと立ち止まりこちらの方を向いた。
「そういや感想聞いてなかったな。 ……あっちの世界はどうだった?」
あちらの世界の事と聞き思い出されるのは先ほどの景色。
外との隔たりを感じさせないガラス、光の海に立つ美しい景色。
美味い食事に心地の良い音楽。
「長谷川」
「なんだ?」
ニヤニヤ気持ちの悪い顔をしている長谷川に疑問をぶつける。
「あれが……あちらの王都なのか?」
「いや? あれは……うん。 地方都市だぞ」
思っていた事と違うことを聞かれたらしく小首を傾げる。
アイテムボックスからカタログギフトを取り出しペラペラページをめくり先ほどの飲食店のページを見せてくる。 いや読めん。
「地方都市?」
「何ていうか……こっちで言うここみたいな場所だ」
地方都市? この街と同じ? アレで?
……アレで?!
「冗談……ではないんだな」
凄まじいな。
「んで、どうだった?」
「……素晴らしい、素晴らしいが王都はアレよりも凄いのか……とんでもないな」
「だろ!!」
私の感想に満足したらしく、長谷川は珍しく鼻歌交じりに部屋の外に出て行った。
しばらくしてイネスが来たらしくドアをノックする音が聞こえた。
入室を許可すると
「失礼致します。 ……お疲れですね、メイドにお茶を用意させましょうか?」
「いやいい、それよりも王へ緊急で報告事項ができた。 通信の魔道具を使用するから準備を頼む。 それと商業ギルドのギルドマスターへここに来るよう連絡をいれてくれ」
「かしこまりました」
15
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです
新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。
おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる