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17 恋しいのは心か体か。(※R18描写あり)

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とある家の前に着いた。
 
古い家だ。


二階建てではあるがそんなに大きくもない。だが小さな庭がある、木製の小さな門扉に守られた家。

中に人の気配はない。

案内してくれた背の高い若い男性が玄関の鍵を差し入れて扉を開けると、少し澱んだ匂いがした。


「如何ですか?築年数は少し古いですが、水周りもリフォーム済みですし、窓が大きいので日当たりが良いですよ。ハウスクリーニングは先週済んでるんですが、お庭は…前の方が出られて少々経ってますから、少しお手入れは必要でしょうが…。」


リビングらしき部屋の大きな窓から見える庭を見ながら説明してくれるのは不動産屋の営業マンだ。

(聞かれもしないのにわざわざマイナスポイントを自分から言うなんて馬鹿正直な人だな。)

所謂営業スマイルというやつかもしれないが、人たらしな笑顔が少し藤川に似て居るように思った。

思い出してしまって、ふ、と少し唇の端が上がってしまい、直ぐに表情を戻した。

(いけない、一生懸命仕事をしている人の事を笑っては。気をつけなければ。)

「御家族で住んでらして、転勤になられたそうで。小さなお子さんがいらして…ありゃ…痕跡がありますね。」

そう言われた先に視線をやれば、部屋の窓の隅には子供が好むようなキャラクターの小さなシールが貼ってある。
剥がしたような跡もあるから、これは剥がし忘れだろうか。

営業マンは少し慌てた様子で困ったように笑ったので、今度は俺もつられて少し笑ってしまった。

「ほんとだ。賑やかだったんでしょうね。」

俺が笑ったので、営業くんは安心したらしい。

リビングは説明通り、とても明るい。

3人家族だったんだろうか。それとも、4人?

ここにある家族が暮らしていたという事に、何となく温もりを感じる。

庭は少し雑草が伸びているが、ガーデニングでもしていたらしい跡もあり、状態は悪くない。

2階は部屋が2つ。 高台だから窓からは遠くに海が見えて、景観も良い。
この窓辺に仕事机を置けば、気分転換に景色も見られるだろう。

(…十分かな。)

家賃も相場だと思う。


「ここにします。」

俺がそう言うと、営業マンは意外そうに目を瞬かせた。

「良いんですか?まだ1件目ですが…。」
「良いんです。ここが気に入りました。
ここに決めます。」
「ありがとうございます。」

営業マンは嬉しそうに笑って頭を下げた。





一人暮らしで物はそんなに無かったとはいえ、本は別だ。
とにかく俺の荷物の9割は書籍類だった。

引っ越して来て、本棚を新たに買い直して、整理するのに結構な時間を費やした。
体に負担がかかるので無理は出来ない。
ゆっくりやっていくしか。

緩い坂を降りた所にはささやかだが商店街もある。
バスに乗れば、隣町にバース専門外来のある病院もある。 
通院する為にそこは重視した。


取り敢えず、生活する上での環境は悪くは無い。


ここは空気が良い。

そして何より、ここには俺の事を知る人がいない。


ビルと喧騒に近い場所はもういい。
人の多い場所も、疲れた。
海と山の見えるこの土地で、ひっそり暮らそうと思っている。



移り住んで来て暫く経つと、すっかり荷物も片付いた。
世話になった営業マンの彼は、実際聞いてみると23と本当に若かった。
庭の雑草だけでも手伝わせて下さい、と、草刈りに来てくれてから、雑談くらいはするようになっている。
この街の生まれ育ち。
真面目で明るくて、普通の好青年。

そんな彼の名は、南 晴人君というらしい。


こんな風に生まれてたら、きっと生き易いのかも知れないな…と思うほど、彼は普通の青年だ。
その内、結婚して子供を作って、絵に描いたようなあたたかい家庭を築くのだろう。

藤川にも、そんな風に幸せになって欲しいと願う。






夜になると熱が出る。
頭痛ではなく、身体中が熱を持つのだ。

南と会った日の夜は、特に。

南が、というより、彼は藤川を思い出させるからだ。


ベッドに入っても寝られる訳もなく、おさまらない熱い体を持て余して、10代の頃ですらした事の無い自慰をするようになった。

ヒートとか、そこまでのものではない。

藤川に拓かれて、馴らされてしまった体が疼くのだ。
 
こんな歳になってもどうすれば良いのかやり方に詳しくないから、取り敢えず藤川が弄ってくれていたように乳首をまさぐりペニスに指をかける。

藤川が俺の、快感に震えるペニスの先端から涙のように滲んだ透明な滴を舌先で舐め取ってくれた時。
ねっとりと裏筋を舐め上げてくれた時。優しくその全てを口に咥え込まれて、次の瞬間からは濡れた唇と舌とでジュポジュポと激しく摩擦された時。
足の付け根の内側(鼠径部)に舌を這わされ陰嚢をゆるゆると唇で食まれた時の羞恥と倒錯的な快楽。
記憶を反芻するだけで俺は身悶えてしまう。

あの長い指と舌の熱さが忘れられなくて、先走りに濡れた手指で必死にペニスを擦ると徐々に腰がじんじん痺れてきた。
  
困るのは、後ろだ。
触るだけでは足りない。
舐めて欲しい、尻たぶを両手で押し開いて、唾液をたっぷり絡ませた肉厚の舌をそこに差し挿れて、こじ開けて。ふやけてとろとろになって、あの大きな‪α‬のペニスを難無く受け入れられるようになるまで…。



(……あ…ふじ…っ……ンッ…)


右手を速めて擦りながら藤川の激しい挿抜を生々しく思い出す。

力強い腕で片足を掴まれて、片方の腕ではしっかり腰を固定されて、強すぎる快楽が辛くて 泣いても怒っても聞いてくれない、逃がしてもらえない。
この時ばかりは、いつも意地悪な微笑みで、でもどこか必死な表情で立川を追い詰めてきた、優しい藤川の、荒々しい側面。


 そして 最後には、藤川に滅茶苦茶に唇を吸われながら胎に射精されてイく。

達している最中、逃がさないとでも言うように俺を抱きしめ、ダメ押しのように腰を打ち付けて、最後の一滴まで搾り取らせようとするマーキングのような行為が 藤川の独占欲をあらわしているようで、好きだった。


藤川を思って自分を慰める時、自分がどうしようも無く淫乱になったように思えて、果てた後にはすごく虚しくなる。

そして混乱する。
  

ここ最近の俺が藤川を恋しく思うのは、俺が藤川に愛情を抱いているからなのか、それとも‪α‬を求めるΩの習性なのか、一体どっちなのだろう…。


記憶の中の藤川は、最後に別れた時に見た、寂しそうな微笑みをうかべている。



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