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7 好きだから知りたい (藤川side)

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番婚。‪


簡単に言うと、番関係になった‪α‬とΩが 法的な婚姻関係も結ぶ事を言う。

大体の番カップルのゴールでもある。
そこまで行くと、魂までもがガッチガチに結ばれて、文字通り死がふたりを分かつまで、って感じになって離婚などは先ず出来ない、と言われている。番が通常の婚姻関係よりも断然絆が深いと言われている所以だ。
(俺はこれ狙い。)

しかし‪α‬によっては、‪α‬だけに与えられた特権を行使して、番は番のまま関係継続して、別の相手と婚姻関係を結ぶ‪α‬もいる。

政略結婚とか色々事情を抱えてる場合もあるんだろうが、まるでΩは‪α‬の所有物扱いだなと嫌な気持ちになる。

国というか、大昔から世界的にそういう事になってる訳で、不貞行為にはあたらない。あたらないが、人間関係的にはすっごく面倒臭そう。
骨肉の争いの火種になるよね絶対。
違法ではないってだけで、心情的には重婚じゃねえかと俺なんかは思うんだが、そこは本人達同士で解決していくしかない問題なんだろうな。


勿論俺は前述の通り、番になるなら結婚まで、と決めている。

そういう、俺のような考えを持つα‬がΩの項を噛んだ場合、その時点で番になると同時に 婚約関係もほぼ成立してしまう。

相手のΩ本人にその気が無かったとしても、その意はほぼほぼ汲まれないと思って良い。
だって本気の‪α‬のプレッシャーにΩは抵抗できないし、‪例えば心ならずも番にされた、という場合でも、‪α‬を怒らせて番解除になったら、Ωにはそれ迄よりも遥かにデメリットだらけの人生が待っている。
全てを失って、次の番も持てない。なのにヒートの苦しみだけは変わらず訪れる。
孤独な生活困窮者の出来上がりだ。お先真っ暗だ。

だからこそ、意に沿わぬ番関係を強要されようと、多くのΩはそのままその‪α‬の元に留まる事を選ばざるを得ないのだ。

ぶっちゃけΩにとっては相当理不尽な制度だと思うよ。






「何をしようってんだ?」

協力を持ち掛けると、榊は胡乱な目で俺を見た。
俺が何か頼み事をする時、ヤツは毎回こういう顔をする。
それでも結局、助けてくれるんだよな。

榊は執拗く纏わりつく連中を追い払う時のダミー彼氏としてうってつけなので度々お世話になっていた。
見た目がまあまあ可愛いのに胆力があり、見かけによらず空手の段持ちでもあるので、例え修羅場になっても動じない、まさに適役のダミーなのだ。
解決時の報酬としては、主に香織ちゃん希望のレストランのペアでの食事代となっている。


「あのさ」

俺は今考えている事を躊躇いながら口にする。

「俺の恋人って事にして、あの人に会ってくれないか。」

榊が怪訝な表情になる。

「どういう事だよ?」
「そのままだよ。あ、でもあの人は番だから…、」

最も重んじられる番という関係。
それを解除する理由と言えば、

「俺の、運命の番が見つかったって事にする。」
「…は?本気?  好きな人を騙すの?」

榊の眉が吊り上がり、声に苛立ちが混じる。
カノジョ一筋で一本気なこいつとしては、想定内の反応だ。

「騙すというか、」

一呼吸。

「俺は、あの人の反応が見たいんだ。
あの人の中に少しでも、俺に対する気持ちがあるのかが知りたいだけ。」
「…聞けば良いだろ、本人に。」
「聞けるもんなら聞いてる。」

一緒にいても、どれだけ体を重ねても、何度愛を囁きながら彼の熱い胎内に注ぎ込んでも。
体はいくらでも好きにさせてくれるのに、本当の意味で彼の内側に踏み込めてない。やんわり一線引かれてる。応えてはくれるのに、そこには柔く優しい壁がある。
暖簾に腕押し、って言葉があるけど、そんな感じ。 
微笑んでありがとうと言ってくれても、俺の言葉を本気にしてはくれない…。


「最初から、俺とあの人の気持ちには温度差がある。」


わかってた事なのに、言葉にすると泣いてしまいそうだ。
冷静に話そうと思っているのに、俺は今、下唇を噛みしめている。漏れ出しそうな感情と言葉を必死に堰き止めている。
そうしないと涙が出てきそうなのだ。
そんな俺の様子を見て、榊も様子が変だと感じたのか、口調が幾分和らいだ。

「どんなカップルだって最初はそんなもんだろ。大概はどちらかが好きになって、から始まるんだしさ。
最初から両想いで始まるなんて滅多にねえじゃん。」
「だけど俺と洸さんはもう5ヶ月以上付き合ってる。」
 
もうすぐ、半年だ。

榊が あーね、と返答にこまりながら、

「コウさんって言うんだな。」

と呟いた。

思わず名を口にしてしまったが、協力してもらえる場合はどうせ名前だけじゃなく顔も知る事になる。

「…俺、あの人に好かれてるって気がしないんだ。つーか、関心を感じない。」


例えていうならば、子供の気紛れに付き合ってくれているだけのよう。

「ただ、知りたいんだ。
少しでも、俺に、気持ちがあるのか。」


もし、いつも澄まし顔のあの人が。

顔色のひとつも変えてくれたら。
動揺する素振りでも見せてくれたら。

それだけで俺はきっと、もう少しだけでも自信が持てる。




薬指の白銀の鈍い光が涙で滲み続るので、俺は静かに目を閉じる。





















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