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諦め切れない人
しおりを挟む本当に覚とこの先を考えるなら、知っておいてもらう方が良いと思う、俺の過去。
春兄が今後、また現れないとは
限らないし、顔の事も…。
話す事で辛かった事を追体験してしまうかもしれないけど、整理も出来るんじゃないかとも、思う。
「春兄との出会いは俺が産まれて直ぐだったって聞いてる。」
そうして俺は話し始めた。
両親は俺が赤ん坊の頃に今の家に引越してきた事。
2歳上の春兄とは近所で、兄弟同然に育った事。
バース性がわかる前から俺は彼に守られて生きてきた事。
その流れで、一緒になる未来が当たり前だと甘えていた事。
高校入学時から始まり、春兄が卒業した後から酷くなったストーカー行為の事。
そして、そのストーカーが犯人じゃないかと思われる、この顔の火傷の事。
その事がきっかけで、全てが狂い出した事。
…別れを切り出された事。
別れて1年後に、知人のSNS経由で春兄に番が出来たのを知った事。
それがきっかけで、番を探す事にした事。
そして今日、春兄に会ってしまった事。
言われた事。された事。
俺は話すのが下手くそで、要領も悪い。
けれど、覚は先を促す事もせず、しっかり聞いてくれた。
本当に忍耐強いんだな…。
「そっか…。」
一応の全てを聞いた覚は、頷いた。
顎に手を当て、情報を咀嚼しているようだった。
そして、口を開いた。
「彼は、緋夜を諦め切れないんだろうね。」
「いや、別れたいって言ってきたのは春兄だよ?」
逆ならわかる。俺が春兄を諦め切れないってんなら。
でも現実は、俺が春兄に捨てられてるんだ。
春兄にとって俺は只の弟だった。だから、俺だって恋じゃなかった、親愛だったって思わなきゃ気持ちの折り合いがつけられなかった。
じゃなきゃ、惨めで。
恋愛感情が無かったなんて、嘘だ。
「それでも、だよ。
時間が経ってから後悔するって事、あるだろ?」
「後悔…。」
春兄が呟いた、噛んでおけばよかったという言葉。
思い出してもゾッとする。
そして気づいた。
ゾッとすると思うくらい、俺は春兄の事を吹っ切れてたのか。
別れた直後なら、嬉しいと思っていただろうに。
そう思えるようになったのは覚のお陰かも、と思い、ニヨニヨしてしまう。
「あ、でも…、春兄、番いるんだよ?なのに何で今更…。」
「俺もそこが気になってるんだけどさ。」
覚は俺の方に身を乗り出して言った。
「その番相手が気になる。
もしかして彼、相手と上手くいってないんじゃない?」
「それは…わからないけど、少なくとも番にはなってる訳だし…婚約だって…。」
そう答えると、覚は、
「それなんだけどね。
本当に彼、相手と番成立したのかな?」
と言う。
え、どういう事…?
「番ってさ、運命の番と言われてる場合以外は、成功率がその個人のメンタルの状態に左右される事があるらしいんだ。
何方かの心に激しい拒否感がある場合、数日内に拒否反応が出て咬印が消えたりっていうのも、稀にあるって聞く。」
「え……そう、なの?」
「そうなの。笑」
覚は笑って俺の頭を撫でながら言った。
「でも、通常は成立する筈、なんだけどねえ…。」
俺は両脇を持ち上げられて覚の膝に乗せられた。
「でも俺 彼の気持ち、わかるなあ。」
「何?」
「こんなに良い匂いのする可愛い緋夜、手放したらそりゃ後悔するよね。俺なら心臓潰れちゃうな。」
「……大袈裟…。」
俺を柔らかく抱き締める覚。首元にかかる吐息がこそばゆい。
こんな状況でも、覚は勝手に噛んだりしないって、俺 安心しきってる。
「…だからって、絶対許さないけどね。」
そう言って、俺の左頬の火傷跡に唇を押し当てる覚。
…こんな事、できるんだ……
覚って、本当に…。
胸がじんと熱くなる。
「緋夜。
噛まれたくなったら、何時でも言ってね。
きっと俺達は、上手くいくから。」
「……ん。」
額、首筋、鎖骨。
マーキングするように降ってくる唇。
幸せだな、と俺は目を閉じて覚と唇同士のキスをした。
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