昔抱いた後輩がヤ〇ザの愛人3号になっていた

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再会

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 (あっ...)
  
 社会人2年目、ゴールデンウィークを目の前にした、4月のある週末。
 退社後、セフレ以上カノジョ未満の女との待ち合わせの為、家とは逆方向の電車に乗って繰り出した繁華街。夜に活性化する飲食店が犇めく賑やかな通り。そこで俺、水村蒼樹(みずむらそうじゅ)は、この3年、喉に刺さりっぱなしだった小骨と再会した。
 すぐにわかった訳ではない。その"小骨"は、見ない間にすっかり様子が変わっていたからだ。

 落ち合った女と腕を組み、まずは食事をと予約したレストランに向かって歩いていると、一目で堅気ではないとわかる眼光鋭い男達が数人、向こうからこちらに歩いて来るのが見えた。30代半ば過ぎと思しき、長身で凄みのある強面の男と、その隣を歩く細身の青年...という2人を囲むようにして。俺は彼らから視線を逸らし、女の肩を抱きながら道の端に避けて、男達が通り過ぎるのを待った。俺だけでなく、周囲を行き交う人々も似たり寄ったり、さりげなくその集団を避けている。畏れと好奇心の入り交じった瞳で、チラチラと一瞥しながら。
 飲み屋も多く、一本裏通りには各種風俗店も乱立するこの街では、そんな男達を見る事は特段珍しい事ではない。だが、集団の中のトップであろう男に腰を抱かれているのが、女ではなく男である事が、人々の好奇心を刺激しているのは明らかだった。
 青年は、光沢のある黒いシャツの裾をひらひらとたなびかせ、それは色白の肌によく映えている。黒い細身のパンツに包まれた足は、そこらのキャバ嬢よりも美脚だ。夜風に遊ばれ、白く細い襟足にかかる艶やかな黒髪。小さな輪郭に収まる、控えめながらも整った目鼻立ち。色白の肌に、やや厚みのある唇の赤み。男だとわかっているのに、それらが醸し出す色香に思わず視線を奪われて、ハッとした。それら全ての特徴に、見覚えがある。
 雷に一閃されたような衝撃。

(そんな、まさか...)

 俺の視線を感じ取ったのか、はたまた只の偶然か。青年はピンポイントで俺を一瞥し、一瞬目を瞠った後、唇の右端を上げる特徴的な含み笑いをした。過去、一度だけ見た事のある、妙に蠱惑的な笑み。

( ――ビンゴ、だ...)

 あの唇に唇を重ねた事がある。せがまれるままにあの細い肢体を組み敷いて、一夜を共にした事がある。たった一度のセックスの記憶を、何度も反芻して自分を慰めた事がある。
 
 青年の微笑みは、俺を易々とあの頃に引き戻してしまった。
 


 "彼"...花瀬 汰生(はなせ たき)は大学時代、同じ旅行サークルに所属していた一年下の後輩だった。
 派手で遊び好きでフットワークの軽い連中が集まっている中、地味で物静かな印象で、最初は少し浮いていた花瀬。しかし印象が薄い故に場に溶け込むのも上手く、数回の旅行を経て後期が始まる頃にはすっかり馴染んでいた。とはいえ、俺は花瀬とそう親しかった訳ではない。サークルの皆で集まって旅行の計画を立てている時や飲みの時にほんの数回言葉を交わした程度の、そんな仲。気が合って可愛がってる後輩は他に何人も居たし、何ならあまり自分から話さない花瀬は苦手な部類の人間だった。
 だから、あの日。
 二限目の講義が終わり、昼休みを学外のカフェで取ろうと歩いていた俺を、花瀬が追って来た時。そして、背中から呼び止められた時。俺はとても意外に思った。

「水村先輩、今日はお一人ですか」
「え?ああ、えぇと...」
「花瀬です」
「ああ、そうそう、花瀬!」

 自分の名前を覚えていなかった事には特に気分を害した様子も無く、いつもの淡々とした様子で答えた花瀬に、ほんの少し気まずかったのを覚えている。その頃の俺ときたら、高校時代に引き続き人間関係がちゃらんぽらんで、顔と名前の一致しない、名ばかりの友人知人がとにかく多かった。口説いた女の子の名前だって、セックスが終わってベッドから降りた途端に忘れていたくらいだ。
 それでも別に不自由は無かった。名前なんか覚えていなくても遊ぶ時に盛り上がれさえすりゃ良いし、ルックスは悪くないから抱かせてくれる女だって、一人に拘らなくたっていくらでもいた。
 不誠実?でも、そんなもんだろ?学生の時分なんて。...まあ、狙ってた大学に落ちて入った滑り止めの私大だったから、自棄になってた部分もあると言えばあったけれど。
 ともあれそんな感じだったから、俺が花瀬の名前を覚えていない事は、俺自身にも周りの人間にとっても、特に珍しい事ではなかったのだ。花瀬もそれをわかっていたのだと思う。

 ともあれ花瀬に捕まった俺は、彼と一緒に行きつけのカフェに向かう事にした。カフェと言っても目立つ場所にある洒落た店ではなく、路地を入ったところにある、目立たない穴場的な店。どちらかと言うと、喫茶店と言った方がしっくり来るような。なのに客がそれなりに入っているのは、数年前に祖父から店を引き継いだという若いマスターが、やたらとイケメンな所為かもしれない。当時はコーヒーの味の善し悪しがわからなかった俺の判断材料なんて、それくらいなものだった。

 そしてその路地奥の古いカフェで差し向かいに座った花瀬の口から、俺は想像もしていなかた言葉を聞いた。

「水村先輩。申し訳ないんですが...一度きりで良いので、僕を抱いてもらえませんか」
「...は?」

 コーヒーの湯気の向こうで、花瀬の無表情な顔が歪んだ気がした。




 
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