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伴侶の紋、入りま〜す。

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「さて、我が愛しの后、リクよ。」

「……えっと、その后ってのはもう確定なんでしょうか?」

一応……一応、無駄だろうが抵抗させてくれ…。
一縷の望みを懸け、俺は最後の確認をしてみる。


「当たり前だ。リク、手を。」

「はぁ。」

ですよね、と内心ガックリしながら差し出されたモリオン様の右手に左手をお手する。

「愛い。」

俺の額、左手首、左手の甲、薬指 と順にその唇でマーキングするように吸い付くモリオン様。

何をしているのかと思ってたら、唇で吸われた部分が何だか熱くなり、徐々に模様のようなものが現れた。
黒紫の紋のような、花のような。

左手首や薬指は荊棘のようなその模様から、まるで装飾品のように見える。

もしかして額にも、模様が出ているのか?と手指で額をさすってみるが、触感ではわからない。

そんな俺の様子を見ていたモリオン様が スルッと自分の着衣の肩の部分を外すと、ぱさりと衣擦れの音を立てて黒衣の片側がはだけた。
モリオン様の素肌の胸が露になる。

その左胸、つまり心臓部分の表皮には俺に浮き出た紋様と同じ黒紫が。


「これは我のもの、という証である。永き生の内、我が一族の者が伴侶と定めた者に紋を分け与えられるのは 只一度のみ。」

「一度だけ?!」

「隷属させる為の紋とは違うゆえな。」

伴侶の紋を分けられるのは、一度だけ……。
今更ながら、何かとんでもない事になってしまったんじゃないのか、これは。
もしかして、これって…

「俺も、魔族に?」

大事な事は確認しておかねば。

「この紋は我の生命を共有する為のものだ。つまり、そうする事で人間であるリクの時間をかなりゆっくりにしたという事だな。我と同じ時を歩めるように。」

「そんな…。命を、だなんて…。」

魔族と言えども、不死でないというのなら、命や寿命を分けると言う事は、自分の命が縮むって事なんじゃないのか。


「そんな大切なものを、俺なんかに…良いのですか?」

正直、その辺にゴロゴロいそうな凡人と永い時を共にするって、飽きるんじゃないのか。

あれ…モリオン様に飽きられたら俺って…?


先刻迄はどうやって逃げられるか考えていたのに、紋もらった途端に捨てられないか心配するって 俺の情緒は忙しいな。

でも、命とか……そんな大切なものを分けてくれるとか、共に生きるとか、そんな事された事も言われた事もないんだもん。
こんな俺なんかに、そこ迄…って、正直絆されかけてるよ、俺。

勝手に連れて来られたのにな。
チョロいのは俺の方では。



「リク、お前からすれば、突然の事で驚いておるだろう。」

少し黙り込んだ俺が気になったのか、モリオン様が静かに言う。

「しかし戯れでここ迄はせぬ。強引であった事は詫びよう。
だが、もう帰してはやれぬ。」


そうだろうな。魔王様にここ迄させてるんだ。
もう人の世界に帰れる希望は捨てるべきだろう。


「……すまぬ。

勝手をした事、許すと言うてくれ。
我はそなたを想う心を捨てられぬゆえ、、、。」


目を伏せ、俺の手を握るモリオン様の肩や手は、少し震えていた。
魔族でも震えたりするんだな。

ふと、ある疑問が湧いて質問してみた。


「モリオン様、今迄他に好きになったお方は?」

モリオン様はキョトンとして答えてくれた。

「リクが初めてで、最後である。」

「マジすか…。」


これは責任重大だ。

魔王様の初めてを捧げられてしまった。
こんな事あんのか。あんだな。
いや俺ですら子供の頃に初恋の一つや二つ経験済みなんだけど?
魔族ってもしかしてこんな感じなのか。それともモリオン様が特別ぴゅあっぴゅあなのか?



(仕方無い……。)


「わかりました。
末永くよろしくお願いいたします。」



俺は覚悟を決めた。
どっちにしろこんな紋入れられちゃ逃げられない。
つか、先に聞いて欲しかったけど…。
まさか逃げられないようにって計算だったのかな?


まさかな…。



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