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草鹿セキュリティシステム

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入学して半年。俺はすっかり環境に適応していた。

常に気は張っているつもりなのだが、平穏過ぎて知らず緩んでいるかもしれない。

ここは安全だ、と気が大きくなっている自覚はある。
だって、セキュリティ以前に草鹿が思いの外、凄かった。

実を言うと、2ヶ月前くらいに俺はショッピングモールの一角で1人になった事がある。

草鹿もいたのだが、店の会計で部屋と実家に配送手配をしてくれていて、俺が暇潰しに周囲の店を見ようとそこを離れた、ものの数十秒。

俺は目隠しをされ数人に抱えられ、男子トイレに運び込まれた。
あっという間の出来事だった。

ちょっとした部屋のような個室に連れ込まれ、シャツを剥ぎ取られ、ズボンに手を掛けられた時に草鹿がドアを蹴破ったのだ。 
それから鮮やかにその場にいた不埒者3人をのした。
なんと言う草鹿GPS。

しかも速い。そして1発でドアを蹴破る脚力。

草鹿が優秀なのはわかっていたが、そこ迄強いとは知らなかった俺は、ポカンと空いた口が塞がらなかった。

自分が男3人に襲われそうになったってショックよりも草鹿がカッコ良かった事の衝撃の方が凌駕してしまい、恐怖心が綺麗さっぱり記憶から消えてしまったのだ。凄い。草鹿凄い。

以来、俺は草鹿に全面的な信頼を置いているのである。
もう一生草鹿と暮らしたい。(切実)

俺なんかを狙った犯人は、一般の貴族の子息達3人。

…遠目からしか見る機会の無かった俺が、いきなりショッピングモールに1人でいたので魔が差した。顔さえ見られなければ捕まらないと思った…。


…馬鹿である。

ショッピングモールのみならず、学内には、個室以外のあらゆる場所に監視カメラがある。
異変があれば直ぐにセキュリティが発動する。

個室内で行われている事はわからなくても、そこに至る迄の状況は把握出来るのだ。

直ぐに追跡される。

草鹿の場合は草鹿自身が直ぐに異変に気づき、俺のスマホと靴に仕掛けてあるGPSから即時追えたが、そうでなくても学園のセキュリティは優秀なので時間の問題ではあった。

只、救い出されるのが被害に遭う前か後かは、また別なのだ。
その点で言えば、俺には草鹿がついていて幸運だった。
付き人無しの一般生徒なら、被害に遭ってしまう可能性は高いだろう。 


その事件は迅速な解決で俺に被害は無かったが、犯人の生徒3人は退学処分になった。

腐っても和皇国皇太子の許嫁である俺を襲ったのだ。

この事はクソ殿下の耳にも入ってるだろうし、退学だけでは済んでいないんだろうな…と思うと、俺に何一つ出来なかったのにと気の毒にもなってしまう。
俺なんかをなあ…よりによって、俺なんかをどうこうしようなんて思ったばかりに…。
クソ殿下以外にも、俺をそういう対象に思える連中がいた事も、驚きだったわ。


ともあれそんな事件があって以来、草鹿は更に過保護になり、周囲のクラスメートや先輩達もそれ迄以上に気を使ってくれているのか、やたら優しくして貰って まことに申し訳無い。

皆が思う程には ダメージを受けていないんだけど…と言うと、悲しげな顔をされ、そっちの方が辛いぞ…。

そして、更に困っているのが。




「岩城、教務室迄運ぶの手伝ってくれないか。」

笑顔で頼んでくるのは奇跡の激マブイケメン、クレイル先生である。眩し~い。(棒)

「…良いですけど、力仕事なら他の…」

クラスを見渡すと、こんな時に限って皆既に帰っている。
つい先刻 授業が終わったばかりなのに、早くない?

「……お手伝いします。」

「ありがとう。」

何故か草鹿もクレイル先生にはガードが緩く、ニコニコしながら見守りスタンスである。

他の教師相手には手伝いを頼む事すら許さない圧があるのに、クレイル先生にはどーぞどーぞ、みたいな。

2人が特に言葉を交わす事は無いんだけど、妙に信用してるような節がある。不思議だ。



授業で使った教材を入れた箱を持とうとしたら、何故か俺には先生の数冊の教科書とかタブレットの方を持たされる。
そして、大きな箱は先生が持つという…。何これ?

俺の意味ある?

そして教務室迄は5分ほど。

中の机の上に本を置いて振り向くと、丁度先生も箱を台の上に置いた所だった。

「では、俺はこれで…。」

と礼をして帰ろうとしたら、手首を柔らかく掴まれて呼び止められた。

「岩城、ありがとね。」

手のひらにキャンディを握らされる。
(子供じゃないんだから…。)

と思うが、ご好意なのでありがたくいただく。

「ありがとうございます。」

ぺこり、と頭を下げて見上げると、先生は何故か困った顔をして、次には俺の頬にキスをする。

……無。


最初やられた時には、何のセクハラかと思ったんだけど、先生の母国では感謝の意を表す時にはこれが普通なんだとか。

半信半疑で寮に帰ってから草鹿に、どう思う?って聞いてみたら、

「…そう、ですね。確かにそういう風習がある国の事は…聞いた事がございます…。フ…」

「……そっか。草鹿が言うなら、そうなのか…。」

草鹿が横を向きながら細かく肩を震わせて笑いを堪えていた事を、俺は知らなかったのだった。
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