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後編 (※後半R18描写あり)

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ずっと目をつけていた、というと聞こえが悪いだろうか。
彼を見つけた日から、ずっと見守ってきたと言えば、どうだろう?

もう、2年近くになる。



音平 蘇芳は、今年27歳になった。
すらりと伸びた身長に、服を来ていてすらわかる均整の取れた体、やたらと造作の整った美しい顔。西洋の宗教画に描かれている青年の姿をした天使のようだと、彼を見た者達は噂する。

頭脳明晰、実家もそれなりの資産家だが、蘇芳は大学在学中から起業して、それはそれなりに成功を収めていた。言うなれば青年実業家、という訳だ。
常に趣味の良いオーダースーツに身を包んだ美貌の青年が、モテない訳もなく。
美しく有能な蘇芳に群がる人間は絶えなかった。それこそ、老若男女問わず。
だから、蘇芳はその時の気分で気に入った人間を選んで適当に遊びもした。相手になるのは何時もβで、一夜だけの付き合いと限定して。
だが、いくら先に言い含められても、寝てしまうと執着してくる人間もいて、面倒になってきた蘇芳は25歳を境にお遊びを止めた。
どうせ幾らβを抱いても、この飢餓感が癒える事は無いと気づいた事も理由の1つだ。性欲は解消される。でも、求めるものは満たされない。

それは、神がかって美しいこの青年がΩだったからだ。  

Ωの飢えも乾きも、‪α‬でなければ満たしてもらえない。
わかっていた。だがプライドの高い蘇芳にとっては、それはとても屈辱的な事に思えた。だから、敢えて‪α‬を避けた。
抑制剤を服用して、自分のバース性を表に出さなければ、人は勝手に蘇芳を‪α‬だと認識した。だが、中には鋭い‪α‬も居て、何度か執拗く誘われた事もある。けれど、蘇芳が靡く事はなかった。
目にするどの‪α‬も、蘇芳の趣味では無かった。描く理想にも、遠く及ばない。

ヒートを一人で乗り越えなくてはならないのは辛い。
でも、適当な‪α‬に身を任せるのも嫌だった。

それでも、年々Ωとしての飢餓感は強くなっていく。自分だけの‪、理想のα‬を求める気持ちが高まっていく。


そんな時、蘇芳は見つけてしまったのだ。まだスーツも初々しい、素直そうな可愛い‪彼を。


彼を最初に見たのは、出先からの帰りの車の中からだ。渋滞を避けて、常とは別ルートでの帰途だった。蘇芳は後部座席のシートに凭れ、頬杖をつきながら、何時もとは違う風景の流れる車窓を眺めていた。信号待ちで車が停まったちょうどその位置に居た、7、8人のスーツの集団。彼は同じような出で立ちの中にいて、目が惹かれた。頭一つ抜けて長身だったからかもしれない。でもその彼は、なかなかに精悍な顔立ちをしているというのに、何処か自信無さげな目をしていた。精一杯虚勢を張って自信ありげに胸を張り、なのに少し潤んだその真っ黒い目が人懐っこい仔犬のようだ、と車の中で蘇芳はくすくすと笑った。
もう日も暮れかけた時間。直ぐ傍のビルから出て来たらしい彼を含めた一団は、同じ方向に歩いて行く。皆で食事にでも行くのか、飲みに行くのか。全く気が進まない、と素直過ぎる目が言っている。

「僕ならもっと楽しませてあげられるのになあ。」

そう呟いた時、信号が変わって、車は動き出してしまった。蘇芳は後部座席のリアウィンドゥから後ろを振り返って迄彼の姿を追ったが、じきに見えなくなった。

(残念…。あの辺の会社の子、かな。)

自分の興味を引いたその彼の事は、その後暫く蘇芳の頭の片隅を占領した。

次に彼を見たのは、それから2週間も経ってからだった。
その時は、左手に女を絡ませていて、彼は少し嬉しそうに見えた。それを見ると、蘇芳は何だかつまらなくなった。
そうか、女が好きか。それはそうだな。蘇芳だって女も抱いていた。自分の事を棚に上げて、名も知らぬ若者のお楽しみに苛立ちを覚えるなんておかしな話だ、と蘇芳は彼らから目を逸らした。

それから2ヶ月程して、やはり同じような場所で見掛けた彼は、少し消沈しているように見えた。長身の背を少し丸めて、心做しか肩が落ちて。

おもむろに、抱きしめたいと思った。
別に、彼がその時本当に消沈していたのかはわからない。わからないけれど、長身で肩幅もあり、広い筈の背中が、何故か頼りなく見えたのだ。
後ろからこの腕の中に閉じ込めて、甘やかして、慰めて、優しく蕩かせてやりたくて堪らなくなった。

『彼の名を知りたい。』

蘇芳はその時、強く思った。



それからはあらゆる手段を使って彼の事を調べた。

飯嶋 茜太 バース性 ‪α‬。

その表示を目にした時、胸が震えた。
‪α‬。彼は、‪α‬なのか。
‪あんな、寄る辺ない風な目をした‪α‬は初めてだ。
今迄周りに居た、または知り合ってきた、自信過剰で傲岸不遜な‪α‬達とは明らかに違う。でも、それが良い。好ましい。
学生時代の成績、現在の業務成績。決して悪くはない。けれど、‪α‬として見たならば、それはあまりに凡庸と言えた。そこに、彼の言い知れぬコンプレックスを感じる。

飯嶋 茜太は、蘇芳が思い描いていた理想的な‪α‬だった。世間的に求められるような、リーダーシップ溢れる‪α‬とは違う、危なっかしくて支えてやりたくなる‪ような繊細さを持つα‬。‪ 

蘇芳は彼に深い愛しさを感じた。
飯嶋 茜太は‪自分の‪α‬だ。そう思った。


突き止めた会社の近くを、意図的に通る事が増えた。運転手付きの車ではなく、自分で運転する車で。
行動パターンも大体把握した。どうやって彼に近付こうか、シュミレーションするのが楽しみになった。
彼を手に入れたその時の為の準備を着々と進めながら、彼を見守るのは至福だった。


そして、その日は訪れた。
蘇芳が茜太に接触を図ろうと決めたその日は、蘇芳に間も無くヒートが訪れるであろうギリギリの日だった。



何時になく愉しげな軽い足取りで、彼はコンビニから出て来た。
その後を尾行けて、同じ店に入った。カウンター席に座り、見た事の無いペースでハイボールを何杯も飲み干していく彼。少し心配になった。 
少し酔いが回った様子になってきた頃、彼の隣の2人組が席を立ったので、そこに移動した。

「こんばんは。一緒に飲まない?」

そう言って、水割りのグラスでとオーダーした烏龍茶のグラス片手に微笑んだ。彼は上機嫌で頷いた。初めて見る満面の笑顔が可愛かった。
話を聞いてやっていると、会社を辞めてやったのだと言う。何という好都合。

蘇芳は目を細めて笑った。

それからは、簡単に。

飯嶋 茜太は、いとも簡単に蘇芳の手の中に落ちてきた。

会計を払い、酔い潰れた茜太に肩を貸し、タクシーに乗り込んだ。コインパーキングに停めてある車は、明日にでも出しに行けば良い。
自宅マンションに連れ帰り、寝室のベッドに座らせると、茜太は少し目を開けて、不思議そうな顔をした。

「…どこ?」

小さな子供のような口調で、そう聞いてきた。

「僕の家だよ。これからは、茜太の家にもなるね。」

「おれ、の?」

「そう。君の。」

「…ふぅん。」

さっきの店で茜太は、これからは自由に生きるんだと言っていた。人目を気にせず、‪立場を気にせず、そんな場所を探すんだと。

ならばそれは此処でも良い筈だ。

「キレイで、ゴージャス。おれんちよりぜーんぜん広い。」

「これからは君の家だよ。」

「やったあ。」

あはは、と無邪気に笑う酔っ払いは、愛しい。‪
上着を脱がせてハンガーに掛け、ネクタイを解いてやると、くすくすと嬉しそうに笑う。

「どうしたの?」

「おくさんってこんな感じなのかなあ。」

奥さん、か。
茜太の口からお母さんじゃなく奥さんというワードが出た事に少し嬉しくなる。

「じゃあ、奥さんになってあげようか?」

悪戯心でそう言ってキスをしてみると、茜太はキョトンとした後、言った。

「おにいさんならキレイだから、いいかなあ。」

酒に酔っていた者と、介抱していた者の、ちょっとした冗談のような遣り取り。でも、Ωの求愛に‪α‬が応じたと言えなくもない遣り取り。

蘇芳はニヤリと笑って、茜太をベッドに押し倒したのだ。






攻守交替して、茜太の上に跨った。口を使って可愛がって勃起させた茜太のペニスを、自分のアナルに受け入れる為の騎乗位だ。

「…ん、く…ッ。」

流石、‪α‬のペニスは大きい。蘇芳は処女だ。挿入に不安を感じたが、それでも本能的に茜太のペニスに穿たれたいと思った。アナルからはじゅくじゅくと性交を促す為の潤滑液が溢れて滴っている。

待ちきれない。気が急く。

茜太のペニスを握って、先端をアナルの入口に押し当てて、つぷ、と入れてみる。
抵抗は最初だけで、意外とすんなりいく気がした。
思い切って腰を落とすと、重みでずぷぷと挿入されていく。

「あ、あ、あああ…!」

「ん、んんっ!!」

違和感は直ぐに充足感と快感にすげ替わった。

腰を動かせば、真っ赤になって泣きそうな顔で耐えている茜太。蘇芳の中は余程良いらしい。茜太も腰を突き上げ始めている。

「あ、あ、せん、せんたっ…!!」

長く太い茜太の肉棒が、ずぽずぽと容赦無く蘇芳の奥を突く。挿入した事しかなかったから、中を犯されるのがこんなに気持ち良いなんて知らなかった。
さっき茜太を犯した時よりも、深い深い快感。これがΩの快楽なのだろうか。

「…離さない、もう離さないからね、茜太。
君は、僕だけの‪α‬にする。だから僕を、噛むんだよ。」

「…あ、なん…で…?」

今はもう、自分の上で艶めかしく悶える蘇芳の腰をしっかり掴んだ茜太が問う。
汗で滑る肌は火照っていて、ピンク色に色づいている。
そうなると色白の蘇芳は、壮絶な色香を纏った。
熱を孕んだ瞳で茜太を見下ろしてきて、濡れた唇を舌で舐め上げるのを見せつけて、しどけないさまで挑発してくる。
もっと激しく突き上げろと。

絡み付いてきて鼻腔と脳を犯すフェロモンと相まって、恐ろしい程に甘美なΩの誘惑だった。
‪α‬とはいえ劣等種の茜太は、Ωを抱いた事は無い。‪α‬より更に数が少ないΩと結ばれるチャンスは、より優れた‪α‬にしか回ってこないからだ。
けれど、わかる。
この男が、極上のΩだという事くらいは。


「何故って、それは、」

腰を艶めかしく揺らしながら、ああっ、と喉を反らせて、蘇芳は甘い声で告げた。


「それは、君が僕の‪α‬だからさ。」

どういう事だろう、と茜太は不思議に思った。

「俺が、あなた、の?」

「僕が、君を見つけた瞬間から、決まっていたんだ。」

「…く、」

見つけた瞬間とは、何時の事なんだろうか。この男は何時から自分を知っているんだろうか。一瞬浮かんだ疑問は、またすぐ霧散した。
蘇芳の中がうねりながら締め付けてくる。イきそうだ、と茜太は息を詰めた。絶頂が近い。

「だから、早く…、」


―――――僕の中に出して。


「―――っ!!」



満たされていく、全て。



そして、何度も訪れる絶頂の中、茜太は蘇芳の項を噛んだ。


それからの事は…聞くのも野暮というものだ。
この世界に幸せな番がまた一組誕生したという、只それだけの話。






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