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33 少年よ、もう少しくらい大志を抱け…

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「カリアン」

怒気を含み低く響くサイラスの声に、一気に顔色を失くすカリアン。

「…す、」

「す?」

震えながら開いた唇から漏れた言葉は小さく、俺は辛うじて聴き取れた語尾だけを繰り返した。
するとカリアンは、俺に向かってカッと目を見開きながら、開き直ったように怒鳴ってきた。

「あーはいそうですよ、僕ですよ!悪い?」

あ~、はい。白状白状。
俺がサイラスと、その場に居た他の皆に目配せをすると、皆が小さく頷く。まあ、サイラスと家令のジェンズが、聞いてるんだから他に証人確保の必要も無いんだろうが、念の為だ。

先ほどまでの蒼白な顔色は何処へやら、今や真っ赤になったカリアンの表情は、普段のおすまし顔からは別人のように険しかった。

「だって!お父様にはお前ならイけるって言われてたのに!」

「イける?何処に?」

面白い語彙が出てきた事に興味の唆られる俺。対象が思っていた以上に激昂し易いとなれば、いちいち拾って煽りながら誘導尋問が正解だろう。何処に?は勿論、煽りである。
そして、いちいち合いの手を入れる俺にイラッとしたのか、カリアンは俺だけに向かって捲し立て始めた。もはや、サイラスや他の者達の存在など目に入っていない模様。

「お前が!」

「私?」

「お前みたいな冴えない男、アクシアン公爵家に相応しくない!」

「あー…うん?」

まあそれは、俺だって先刻承知なので今更言われても、という感じだがとりあえずそのまま聞く事にする。魔王のようなオーラを纏ったサイラスが今度こそ立ち上がって来ようとするのを、待て待てと手で制しながら。いやもう本当に待て。さっき言っただろ。お前が切れるとややこしくなるんだ。

「お父様も兄様達も言ってくれたもん!あんな地味な男にサイラス様のご寵愛が長く続く筈が無いって!そんなの、横に綺麗な僕が居ればすぐ移るに違いないって!そうなれば次期公爵の愛妾になれて将来安泰だって、」

「はぁ…」

何という短絡思考だろうか。呆れてしまうが、興味深いのでもう少し喋らせようと、俺はわざと短い相槌だけを打った。
というか君、そんなに若いのに、もう愛人志願なのか…?安泰を狙うなら、他の貴族の一人娘の入婿に入る方が良くないか?最初から愛人の位置を狙わせるなんて、君のご家族の倫理観が心配だ。

余計な事を口にしてはならないと思いつつ、疼いてしまったのでとうとう聞いてしまった。

「カリアンは男性が好きなのかな?」

俺の質問に、一瞬虚をつかれたように動きを止めるカリアン。だが直ぐに更に顔を真っ赤にして言い放つ。

「何それ?!違うからね?!男が好きな訳ないだろ、サイラス様が好きなんだよ!!公爵家の上、あんな美丈夫、2人といないじゃん!!あれだけ美しい顔と体になら、男相手でも構わないって思うだろ?!」

「……えぇ?」

いやそれは無いだろ、という突っ込みをぐっと堪えた俺、偉い。サイラスが聞いたら傷ついちゃうもんな。というか、!が多くて耳が痛い。どうした、いつもの口数の少なさは…と思うが、やはり突っ込む事はしない。
そうかあ、男じゃなくて、権力と財力と美貌と肉体を兼ね備えたサイラスだから好きって事なんだな。そうだな。それくらいの年齢の頃って、そういうカッコ良い歳上の同性に憧れる事、あるよな。それが恋慕に変わるかは人によるだろうが。
しかし男でも構わないなんて熱烈な告白だな、という気持ちを込めてサイラスを見ると、告白された当の本人は眉を顰めて、すごく複雑そうな顔をしていた。

「父様も僕に期待してるって言ってくれたんだ!お前ならサイラス様のお目に止まるって!だからわざわざアクシアンに顔の利く知人を探し出して口利きを頼んだのに!」

「へえ~…」

「なのに、運良くお傍に付けたってのにサイラス様からは全然お声がかからないし!それどころか、アンタを連れて東ネールの屋敷に行っちゃってひと月以上も帰って来ないし!!」

すごい。真っ赤な顔で唾を飛ばして喋り捲るから、まあまあ可愛い顔が台無しだ。しかし本人は全く気にする様子はない。
カリアン君、よほど鬱憤が溜まっていたんだな。

「ネールから帰ってきたら来たですぐ婚約しちゃうし、したと思ったら、結婚前なのにもうこっちの屋敷に入るって言うし!何なんだよもう!割り込む隙が全然無い!!」

変声期は過ぎた筈だが、少年にしては高い声が部屋中に響く。俺の頭にもガンガン響く。多分、他の皆の耳と頭にもガンガンしているだろう事請け合いだ。

「何でだよ!来るの早過ぎるだろ?!僕がサイラス様と仲を深める時間が無いじゃん!邪魔なんだよ!
だから、アンタは歓迎されてないんだってわからせる為に意思表示しただけ!!わかる?!」

「お、おう…。その意思表示があのシーツって事?」

俺はすかさず確認の為の合いの手を入れた。

「そうだよっ!」

ハッキリとした肯定。
よし、自供取ったり。ニヤリと笑う俺。
目眉を吊り上げながら雄叫びを上げていたカリアンはその瞬間、はっとしたように動きを止めた。そして、おそるおそるといった様子でサイラスに視線をやり、ヒェッと腰を抜かして尻餅をついた。

あちゃ~、やっちまったな~。














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