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9 村上 和志は学習する (※R18描写あり)

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「お願いです、触れさせて…。少しだけで良いから、貴方の体に触れたい…。」

何度も果ててなお、村上はそう、南井に懇願した。




長い指で落ち着きなくネクタイを解かれ、ワイシャツのボタンを一つずつ外されていく。緊張からか、覚束無い指先。それでもようやく4つばかり外して、我慢出来ないというように胸に手を滑り込ませてくる村上。
熱い手だ、と南井は思った。
そのたどたどしい指先が南井の胸の突起に触れると同時に、村上は熱い溜息を漏らした。

「…堪らない、です…義希さん…。」

「……ぁ…、」

堪らないのは自分の方だ、と南井は腰をくねらせた。
乳首への刺激なんて、長く忘れていた。そっと撫でられて、優しく摘まれて、くりくりと揉み潰される。

「あ、あっあっ、…ダメ…それ、ダメだ…、」

息が乱れる。気持ち良い。
自分の体は、こんなに快楽に従順だっただろうか?

「感じてるんですね…僕の指で…。可愛い…。」

村上の甘い低音に耳元で囁かれると、南井の体温の低い白い肌は、たったそれだけの愛撫で真っ赤になり、忽ち熱を持った。
耳元で囁いた唇が首筋を辿り、胸の小さな突起に舌を這わせ、歯を立てる。情けない事に、南井はそれだけで一度小さく達してしまった。
その様子を見ていた村上は、南井が愛しくて愛しくて胸の高鳴りが止まらなくなる。

言葉に言い表せないこの気持ちは、何なのだろう。

村上は初めて南井を見た瞬間の事を思い出していた。南井がエレベーターに乗り込んで来た瞬間、なんて綺麗な男性なんだろうと思った。そして、彼から放たれる馨しい香りに確信した。
今迄村上を誘惑してきた、どんなΩとも違う匂い。自分が探し求めていたのは、彼だ。

ブリティッシュスタイルの、細身だけれど重厚なダークグレーのスーツ。華奢な首筋と白い手首が際立った。
同年代の、可愛い綺麗な人間ならこれまで何人も寄って来た。そんな彼ら彼女らの何処にも心を動かされた事なんか無かったのに、どう見ても歳上の大人の男性に、こんなにも心が騒ぐなんて。
あちこちに漂う残り香に心惹かれ、焦がれ、求め、今日やっと姿を目にして、心を鷲掴みにされて。

これが恋なのだろうか。

村上は他の乗降客の顔の間から見える彼の横顔にぼおっと見蕩れた。そして、数秒。

突然、膝から崩折れた彼を見て、激しく動揺した。こんなに匂いがするのだから、ヒートでも起こしたのかもしれないと。
幸い、彼の周りの人間が助け起こし、一階ロビーに着いてから介抱を始めたので、少し離れた場所でハラハラしながら見守った。
10分程で介抱していた人達を帰した美しい彼は、未だ青ざめた顔でロビーのソファに座っていた。
ほんの10分程度で治まって、抑制剤等を服用した様子も無かったからにはヒートではないようだと、取り敢えずの安堵。
ぽつん、と一人寂しげに座っている横顔に、胸が針で刺されたように痛んだ。

彼が倒れたのは、おそらく彼も村上の匂いを感知したからだ。
彼と村上が、運命の番だから。急接近して互いの匂いを強く感じて、酔ったのだ。

接触するなら今しか無いと思った。彼が何者なのかも、素性も、村上は何も知らない。

それでも、やっと出会えたのだ。せめて名前だけでも知りたいと思った。だから声を掛けたのだ。

彼もまた、魂の片割れである自分を求めてくれていると信じてーー。

彼は南井 義希と名乗った。

思っていた反応とは違い、村上の言葉は受け入れられる事は無かった。
彼の形良い薄い唇から告げられた断りの言葉に、一瞬で天国から地獄に落とされたように気落ちしたが、何故か今現在、村上は彼の部屋にいる。
夢のようだった。
一旦は拒否されたのに、何故こんなに構ってくれるのかと不思議に思った。

みっともない姿を見せてしまった事への哀れみだろうか。
けれど、どんな理由にしても、村上には好都合である事には違いなかった。
取り敢えず、交わる事無く絶たれるかと思われた村上と南井の関係は、図らずも一歩も二歩も前進したのだ。

厚かましいかと思いつつも甘えてみれば、南井は 仕方ないなあ、というように困ったような表情をしながらも村上を受け入れた。

ーー少しだけだ。

そんな言葉を付け足しながら。
南井の優しさにつけ込んでしまいそうだ。少しだけ、少しだけと言いながら、受け入れてくれそうで。

甘えた甲斐あって、渋々というように見せてくれた南井の体は、綺麗だった。
これだけ綺麗な大人の男性だから、きっと引く手数多で経験豊富で、キスの仕方ひとつも知らない子供の村上では相手にされないかと思ったのに、南井は馬鹿にする事も無く。自分も君とそう変わりない、というような事を言いながらキスを返してくれた。
痛いほど猛って筋の浮き出た村上のペニスに、細く白く優しい指を巻き付けて、擦ってくれた。初めて体験する他人の手の感触に、村上の理性は飛びそうになる。
その後、唇で行われた奉仕に、村上は今死ねたらどんなに幸せだろうかと思った。
南井の唇は柔らかく、舌は蠱惑的に蠢いて、口内は温かく、喉はよく締まった。
唇の端が切れてしまうのではないかと思う程に無理をさせているのがわかって気が気ではないのに、南井は眉を寄せ苦しそうに嘔吐きながらも頑張ってくれる。

口の中で出せと合図してくる上目遣いの瞳に、尾骶骨から快感が駆け上がって、もう駄目だった。
精飲までされて、飲み切れない精液を唇の端から垂らす南井を見た時、つい欲が出た。

どうしても、南井に触れたくなった。

"少しだけ。"

それは、南井にとってはとても有効な言葉なのだと、この短時間で村上は学習してしまったのだった。












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