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13 佐々木、仕事は?(八尋)
しおりを挟む視線を感じた事はあった。
尾行されてるのかと思った事も。
でも、気の所為だと思うだろう。自意識過剰かと。
俺は顔の造りだって地味で、パッと見にも目立つ方じゃない。誰かの目を引くとか、ストーカーだとか、そんな事をされるような人間でもない。
本来なら琉弥みたいな特別な人間と一緒にいられるのも不思議だ。多分Ωだったからワンチャンあったってだけ。
そんな俺にあの佐々木が、何故今頃?
「…意味わかんね…。」
思わず口から零れた。
返信は出来ない。真意がわからなくて、遣り取りをするのが怖い。
ブロックをしようかと思ったが、佐々木は俺と琉弥の住んでいるマンションを知っている。
ブロックされたと思われると、逆上して接触されるような気がして、出来なかった。
佐々木が琉弥に本気だとしたら、俺は奴の敵だし、俺が目的なら、余計に怖い。
佐々木が俺から搾取できるものなんて、金か体くらいなもんだ。
番を結んだΩは、伴侶であるα以外を受け入れられなくなるけれど、世の中には他人の番を奪うのが好きって奴がたまにいて、無理矢理レイプしてやろうという鬼畜もいる。
中には最初はΩと気づかずに襲うβもいるらしいが、普通に考えて、首輪や咬印で気づかない訳がない。
それに寧ろそういった犯人は α同士の序列に無関係で、マーキングの効かないβである方が多いとも言われている。
襲われたΩは、殆どが心神喪失になり、数日中に命を落とすらしい。
だから番持ちのΩを奪うという事は殺人と同義だと捉えられているのだ、が…。
それでも、なくなりはしないのがその手の犯罪だ。
過去に聞いた事件の顛末を思い出し、ゾッとする。
佐々木から来たメッセージからは、それを匂わせるだけの危うさが漂っていた。
翌日、体調不良で仕事を休み、間の内にマンションに帰った。
平日の真昼間だ。琉弥も仕事で居ないけど、佐々木だって勤務中の筈だから、ビクつく必要は無いと思っていたのに やはり怖かった。
玄関のキーを開けると、当然の事ながら人気は無い。スリッパに履き替えて奥のリビングに続く廊下を歩く。
リビングのドアを開いてもブラインドは閉まっているから昼間なのに暗い。
一瞬、ブラインドを開けようか迷ったが、そうせずに電気を点けた。
一週間留守にしていたけれど、特別散らかっている訳でも無さそうだ。
冷蔵庫を開けてみると、実家に帰る前に作り置きしていったおかずの耐熱容器は冷蔵分が綺麗に無くなっていて、冷凍庫に2つ程残っていただけだった。
新たに琉弥が作ったらしいビーフシチューの容器が入っているけど、これ昨日作ったんだろうか。
「…今日って金曜だから…浮気デーか。」
冷蔵庫を閉めてからふと思い出し、息を吐いて俯く。
結局、昨夜は佐々木からのメッセージに動揺した事もあって、琉弥には帰るとは連絡しなかった。
今思えば週末なんだから、俺が帰るったって早く帰ってきたりはしないだろうと思う。
一週間と言って出たから、帰りは休日でもある明日だと思ってるだろう。
まあ…どうでも良いか。
明日家に居て、話が出来さえすれば。
寝室のドアを開けてチェストの上にボストンバッグを下ろした。
実家だったからそんなに洗い物がある訳でもないし、荷物は後で片付けよう。
とにかく昨夜から緊張しっぱなしで眠れていない。寝たい。
鈍い動作で部屋着に着替えてベッドに潜り込むと同時にスマホが振動してまたビクついた。
いちいち情けないのはわかってるけど、何を考えてるかわからない動向をしてる相手からのメッセージを受け取った俺の気持ちも察してくれ。
とはいえ、こんな日中は訳のわからんメッセージを送る訳ないわな、とLIMEを開いた俺が馬鹿だった。
『マンションに帰ってきたんだね。おかえり。
空色のパーカー似合うね。昔からその色好きなの変わってなくて安心した。
ヒロが好きだから俺も好きになったんだよね。
今度、俺にも選んで欲しいな、その色の服。』
ーーーゾクッ
俺は布団の中で竦み上がった。空のアイコン。
さっき帰ってきた時の俺の服装は、グラデーションになった空色のパーカーの上に黒のハーフコート、黒のパンツだった。
何処から見ていた?金曜ったって平日の昼間だぞ、14時過ぎだ。お前、仕事は?
という疑問以前にザワザワと足下から上がってくる恐怖に混乱する。
跳ね起きて寝室を出て、リビングの窓辺に走り寄り、ブラインドの隙間から外を見下ろしてみた。
十階建ての八階で、そんなに高層のマンションではないから近くに居るなら見えるかもと思ったのだ。
でも、わからなかった。
隙間からでは見える範囲に限りがあって、でもブラインドを上げる勇気は無かったんだ。
「…なんなんだよ…。」
ここはそれなりの高級マンションだからセキュリティはしっかりしている。
知っていたって侵入する事なんか出来やしないんだから、と 動悸のする胸を押さえて自分に言い聞かせる。
寝室に戻り、布団を頭から被った。
もう、考えるのが嫌だった。
佐々木が何に、誰に固執してこんな事をしているのかが、わからない事が怖かった。
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