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2 使える後輩はいる
しおりを挟む俺は小さい頃からそれなりにモテた。
保育園や幼稚園の先生達にも可愛がられた。
人当たりも良かったから、友人も多かった。
小学校高学年からはよく告白されたし、中学に上がれば王子なんて呼ばれもした。
卒業前にバース性がαで確定した時は、やっぱりね、って感じだったし、成績だって親の期待を裏切った事はなかった。
高校では、告白された人達と付き合いだした。
その頃から、風向きが変わった。
俺の恋人になる人は、ほぼ確実に、その時一番俺の近くにいた友人達に奪われた。
何故かはわからない。
友人達は、実は俺を嫌っていたのかもしれない。
でもその理由を聞かずに、俺は何時も逃げた。
裏切られた上に、そういう知りたくない事実を知れば、メンタルがもたないと思ったからだ。
関わりない人間になら何を言われようが思われようが幾らでもスルーできるが、一度近くに置いて気を許した人間にそれをされて平気でいられる程、俺は強くはない。
裏切りを知ったそばから、目と耳を塞いで疎遠になった。
臆病者だと思っても、そうしか出来なかった。
スマホを着拒にして、SNSをブロックして、それでも近寄ってこようとする元恋人達も、元友人達もいた。
けれど彼らがそうすると、新たに俺の傍に来た友人達が壁になって彼らを近寄らせまいとしてくれたりもした。
でも、俺をそんな風に庇ってくれるその友人達も、その内また俺を裏切っていった。
一時期は、もう誰も要らないと人を遠ざけた事もある。
けれどその内、また俺の周りには何時の間にか人がいた。
どうしてだろうと思う。
どうせ裏切るのなら、何故近づいて来るのか。
何故放っておいてくれないのか。
番一人作れない出来損ないのαを。
人は近づいて来た時から、笑顔の裏で俺を捨てる算段を始めるのだ。
俺はそう割り切る事にした。
多分、俺には何かが足りないんだろう。
αとして、人として、男として。
だから誰と付き合っても上手くいかないんだ。
男でも女でも、駄目なんだ。
だから俺も、もう期待はしない。
どれだけ愛しても、どれだけ好きになっても、信用も信頼もしない。
昨日泊まったホテルがとても良くて、ついつい今夜も連泊する事にした。
だから今日も退社したらそこに帰る。今夜の宿の心配は無い。
昼前に社員寮の空きを総務に尋ねたら、何と今は無いと言われてしまった。
実家は結構遠いし、取り敢えず物件を見繕って契約する迄マンスリーでも借りようかと昼休みに検索してみた。
会社に近いと社畜になる迄仕事してしまいそう。
適度に距離がある方が良いかな。と言っても、電車徒歩含め30分圏内くらい迄。
家賃は別に少しくらい高くても良いから、周りが適度に静かな方が良い。
条件を幾つか入れてみたら、数百軒出てきた。まあ、不動産会社が被ってる物件もあるだろうからその数がそのままある訳でも無いだろう。
もう少し条件を絞ると数十件になった。
明後日は土曜だから、その日で内見に回って即決出来そうな所で決めてしまおうか、と物件画像を見る。
「引っ越すんですか?」
後ろから声を掛けてきた後輩は高畑。ぽや~っとした、少しぽちゃっと丸い、可愛い奴である。
この課のムードメーカーというかマスコット的な奴なので、男女共に可愛がられている。ペット的に。
βで、意外にもαのカノジョがいるとか。
あまりにも意外で、彼氏じゃないのか?と聞いたら、カノジョです!と憤慨していたから、まあ可愛いもの好きなカノジョなんだろう。
まあ…高畑は男ってより癒し系だし、そういう部分を求めるバリバリのα女性に可愛がられているのは結構似合っているかもしれない。
俺は、何故か手にひよこ饅頭をのせながらもぐもぐ口を動かしている高畑を見て、心がほんわりとなるのを感じた。
うん、俺でも高畑は飼いたいかもしれない。
あくまで癒し担当として…。
「昨日、部屋を出てな。
いっそ明日の晩まで今泊まってるとこに連泊して、明後日不動産屋に行こうかと思ってる。」
と答えたら、高畑はへえ、と目を丸くした。
「でも、番前提の恋人さんと…あ、そっか…すいません。」
ぽわっとしているようで、察しは良いのが高畑である。
こういう所が人に好かれる所だよな。
「いや、大丈夫だ。慣れてるから。」
「相変わらずドライですね。」
そう言われて、ドライという訳でもないんだけどな、と苦笑する。
「ま、という訳で良い部屋探し中。」
「そうですかあ。」
高畑は俺とPC画面を交互に眺めていたが、不意に何かを閃いたように言った。
「不動産屋なら、俺の友達に良い不動産屋がいますよ。」
「そうなの?」
「駅ひとつ向こうですけど、良ければ紹介します。」
「マジで?助かる。知人伝ての方が親身になってくれそうだよな。」
「じゃあ、本人に連絡いれときますね。後でURL送っときます。」
そう言って高畑は、ひよこ饅頭の箱を持ったまま何処かへ行ってしまった。
「…ひよこ饅頭は、くれないんだな、高畑…。」
10分後、高畑からスマホに不動産屋のURLと友人らしき人の連絡先の電話番号が送られて来ていた。
ああ見えて仕事が早いのが高畑である。
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