他人の番を欲しがるな

Q.➽

文字の大きさ
上 下
2 / 15

2 使える後輩はいる

しおりを挟む



俺は小さい頃からそれなりにモテた。

保育園や幼稚園の先生達にも可愛がられた。
人当たりも良かったから、友人も多かった。
小学校高学年からはよく告白されたし、中学に上がれば王子なんて呼ばれもした。
卒業前にバース性がαで確定した時は、やっぱりね、って感じだったし、成績だって親の期待を裏切った事はなかった。
高校では、告白された人達と付き合いだした。

その頃から、風向きが変わった。

俺の恋人になる人は、ほぼ確実に、その時一番俺の近くにいた友人達に奪われた。

何故かはわからない。
友人達は、実は俺を嫌っていたのかもしれない。

でもその理由を聞かずに、俺は何時も逃げた。
裏切られた上に、そういう知りたくない事実を知れば、メンタルがもたないと思ったからだ。

関わりない人間になら何を言われようが思われようが幾らでもスルーできるが、一度近くに置いて気を許した人間にそれをされて平気でいられる程、俺は強くはない。

裏切りを知ったそばから、目と耳を塞いで疎遠になった。

臆病者だと思っても、そうしか出来なかった。


スマホを着拒にして、SNSをブロックして、それでも近寄ってこようとする元恋人達も、元友人達もいた。
けれど彼らがそうすると、新たに俺の傍に来た友人達が壁になって彼らを近寄らせまいとしてくれたりもした。

でも、俺をそんな風に庇ってくれるその友人達も、その内また俺を裏切っていった。

一時期は、もう誰も要らないと人を遠ざけた事もある。

けれどその内、また俺の周りには何時の間にか人がいた。


どうしてだろうと思う。

どうせ裏切るのなら、何故近づいて来るのか。

何故放っておいてくれないのか。
 番一人作れない出来損ないのαを。


人は近づいて来た時から、笑顔の裏で俺を捨てる算段を始めるのだ。

俺はそう割り切る事にした。

多分、俺には何かが足りないんだろう。
αとして、人として、男として。

だから誰と付き合っても上手くいかないんだ。
男でも女でも、駄目なんだ。

だから俺も、もう期待はしない。
どれだけ愛しても、どれだけ好きになっても、信用も信頼もしない。







昨日泊まったホテルがとても良くて、ついつい今夜も連泊する事にした。
だから今日も退社したらそこに帰る。今夜の宿の心配は無い。
昼前に社員寮の空きを総務に尋ねたら、何と今は無いと言われてしまった。
実家は結構遠いし、取り敢えず物件を見繕って契約する迄マンスリーでも借りようかと昼休みに検索してみた。

会社に近いと社畜になる迄仕事してしまいそう。
適度に距離がある方が良いかな。と言っても、電車徒歩含め30分圏内くらい迄。

家賃は別に少しくらい高くても良いから、周りが適度に静かな方が良い。

条件を幾つか入れてみたら、数百軒出てきた。まあ、不動産会社が被ってる物件もあるだろうからその数がそのままある訳でも無いだろう。
もう少し条件を絞ると数十件になった。

明後日は土曜だから、その日で内見に回って即決出来そうな所で決めてしまおうか、と物件画像を見る。


「引っ越すんですか?」

後ろから声を掛けてきた後輩は高畑。ぽや~っとした、少しぽちゃっと丸い、可愛い奴である。
この課のムードメーカーというかマスコット的な奴なので、男女共に可愛がられている。ペット的に。
βで、意外にもαのカノジョがいるとか。
あまりにも意外で、彼氏じゃないのか?と聞いたら、カノジョです!と憤慨していたから、まあ可愛いもの好きなカノジョなんだろう。
まあ…高畑は男ってより癒し系だし、そういう部分を求めるバリバリのα女性に可愛がられているのは結構似合っているかもしれない。

俺は、何故か手にひよこ饅頭をのせながらもぐもぐ口を動かしている高畑を見て、心がほんわりとなるのを感じた。

うん、俺でも高畑は飼いたいかもしれない。
あくまで癒し担当として…。


「昨日、部屋を出てな。 
いっそ明日の晩まで今泊まってるとこに連泊して、明後日不動産屋に行こうかと思ってる。」

と答えたら、高畑はへえ、と目を丸くした。

「でも、番前提の恋人さんと…あ、そっか…すいません。」

ぽわっとしているようで、察しは良いのが高畑である。
こういう所が人に好かれる所だよな。

「いや、大丈夫だ。慣れてるから。」

「相変わらずドライですね。」

そう言われて、ドライという訳でもないんだけどな、と苦笑する。

「ま、という訳で良い部屋探し中。」

「そうですかあ。」

高畑は俺とPC画面を交互に眺めていたが、不意に何かを閃いたように言った。


「不動産屋なら、俺の友達に良い不動産屋がいますよ。」

「そうなの?」

「駅ひとつ向こうですけど、良ければ紹介します。」

「マジで?助かる。知人伝ての方が親身になってくれそうだよな。」

「じゃあ、本人に連絡いれときますね。後でURL送っときます。」

そう言って高畑は、ひよこ饅頭の箱を持ったまま何処かへ行ってしまった。


「…ひよこ饅頭は、くれないんだな、高畑…。」


10分後、高畑からスマホに不動産屋のURLと友人らしき人の連絡先の電話番号が送られて来ていた。


ああ見えて仕事が早いのが高畑である。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

【完結】そんなに怖いなら近付かないで下さいませ! と口にした後、隣国の王子様に執着されまして

Rohdea
恋愛
────この自慢の髪が凶器のようで怖いですって!? それなら、近付かないで下さいませ!! 幼い頃から自分は王太子妃になるとばかり信じて生きてきた 凶器のような縦ロールが特徴の侯爵令嬢のミュゼット。 (別名ドリル令嬢) しかし、婚約者に選ばれたのは昔からライバル視していた別の令嬢! 悔しさにその令嬢に絡んでみるも空振りばかり…… 何故か自分と同じ様に王太子妃の座を狙うピンク頭の男爵令嬢といがみ合う毎日を経て分かった事は、 王太子殿下は婚約者を溺愛していて、自分の入る余地はどこにも無いという事だけだった。 そして、ピンク頭が何やら処分を受けて目の前から去った後、 自分に残ったのは、凶器と称されるこの縦ロール頭だけ。 そんな傷心のドリル令嬢、ミュゼットの前に現れたのはなんと…… 留学生の隣国の王子様!? でも、何故か構ってくるこの王子、どうも自国に“ゆるふわ頭”の婚約者がいる様子……? 今度はドリル令嬢 VS ゆるふわ令嬢の戦いが勃発──!? ※そんなに~シリーズ(勝手に命名)の3作目になります。 リクエストがありました、 『そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして』 に出てきて縦ロールを振り回していたドリル令嬢、ミュゼットの話です。 2022.3.3 タグ追加

今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!

ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。 苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。 それでもなんとななれ始めたのだが、 目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。 そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。 義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。 仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。 「子供一人ぐらい楽勝だろ」 夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。 「家族なんだから助けてあげないと」 「家族なんだから助けあうべきだ」 夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。 「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」 「あの子は大変なんだ」 「母親ならできて当然よ」 シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。 その末に。 「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」 この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。

巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透
BL
※本編完結済。現在は番外後日談を連載中。 日本人男性だった『俺』は、目覚めたら赤い髪の美少年になっていた。 記憶を辿り、どうやらこれは乙女ゲームのキャラクターの子供時代だと気付く。 それも、自分が仕事で製作に関わっていたゲームの、個人的な不憫ランキングナンバー1に輝いていた悪役令息オルフェオ=ロッソだ。  しかしこの悪役、本当に悪だったのか? なんか違わない?  巻き戻って明らかになる真実に『俺』は激怒する。 表に出なかった裏設定の記憶を駆使し、ヒロインと元凶から何もかもを奪うべく、生まれ変わったオルフェオの脱・悪役計画が始まった。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

処理中です...