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王様の下僕・春原 駿 3

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香原が俺自身に対してはどのくらいの情を持ってるかは、イマイチよくわからない。

他の連中よりは多少目をかけてはいる、って感じか。
高校時代は片腕としてずっと傍に置かれた。
本格的に家業を継いだら実務面でも俺を自分の下に置くつもりなのは間違い無さそうだ。
大学も、半ば強制的について来いって感じで、学園と系列のエスカレーター校に引っ張られた。

出来れば外部進学して実家に戻ろうと考えてたんだけど、…まあ、香原についてた方が将来的には安泰かなって。つまり、ここでもやっぱり打算だ。

でも香原だって、体だけしか使い途の無いような奴を傍に置くわけないから、多少なりとも俺の能力面も買ってくれてるんだろう。
それが純粋に嬉しかったってのもある。

だからって俺は思い上がりも勘違いもしない。

香原が卒業して離れてからも外部進学した弓月に人を張り付けてるのは知ってる。
相変わらず香原の気持ちは弓月にあるらしい。

どんだけ抱かれようが、どんだけ高い物をくれようが、あちこち旅行や食事に連れて行かれようが、結局は弓月にしてやってるつもりで俺は香原に連れ回されてる訳だから。

まあでも俺だって、香原にはわざわざ言わないけど、他にセフレ抱いてるから 別に、このままの関係でも良いかなあって感じだ。
香原は俺のプライベートには興味が無いからどうせバレないし、バレても気にはしないだろうし、呼び出しに応じて大人しく言う事聞いてりゃお互いwin-winだろうと思ってた。


だけど、ここ最近、香原の様子がおかしい。

イライラしてるようで、スマホを眺めては眉を寄せている。
今の所 仕事関係や大学関係で此奴が煩わされる事なんて早々無いだろうから、弓月関連かな。

今日も、講義の後大学近くのカフェに呼ばれて、飯奢ってくれるんだなって来た迄は良かったが、あからさまにイライラしているから見た瞬間帰りたくなった。が、既にカフェに入ってくる目視されていたので逃げる訳にもいかない。
そもそも呼び出されて来ないという選択肢が無い。
進学した俺の今の衣食住は不思議な事に全て香原に支えられているからだ。
香原的には将来への投資なんだろうか。
それとも身代わり情人を囲っとく為かな。


「どうした?浮かない顔してる。」

座る為に椅子を引きながら問うと、香原はじろりと俺を見た。

「…何でもない。腹は?」

「減ってる。
何でもないって顔でもないだろ。
…ま、言いたくないなら無理には聞かないけど。」

俺は香原に基本的に深入りはしない。
言いたくない事を食い下がって聞いたりはしない。
香原も俺のそういう薄情な所は知っている。
だから聞いて欲しい事がある時や相談事がある時は、こう言ってやれば後は勝手に口を開く。

そして案の定、香原は苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた。


「…弓月に、特定の男ができたようだ。Ωらしい。」

「へえ。」


俺の性格を知ったからか、最近はもう 弓月の事を隠そうともしない。

「でも、意外でもないだろ。弓月なら。」

寧ろ今迄フリーだったのが不思議なくらいだ。
αで、更にあれだけの美貌だぞ。
俺なんか、多少似てるったってそれだけ。弓月の方が万人に訴えかける美貌だ。

放置される訳が無い。ネコだけど。
何らかの本人事情でフリーだった可能性はあるだろうが…。

俺は水を持ってきた店員にランチセットにコーヒーを頼んで、香原に向き直った。

「…弓月に、会いに行こうと思ってる。」

「ん?でも、カレシ出来たんだろ?弓月。Ωってのが意外だけど。」

「会いに行けば変わるかもしれない。」

「…馬に蹴られるぞ。」


弓月に恋人が出来たくらいでそんなに焦るなんて珍しい。
学園にいた時だって、アイツは男を取っかえ引っ変えだったじゃないか。

一度付き合ってたのも知ってる。
香原都合で別れたのも知ってる。
その後はもう付け入る隙が無くて、だから俺に目を付けたのも知ってる。

学園を出て、フリーだった今迄は泳がせといて、男が出来た瞬間横槍入れるって、何だ?

そんなに未練があるならさっさと行けば良かったと思うんだが。

それに、弓月は特定の相手とは長くは続かない奴だった。

放っときゃ直ぐ別れるんじゃないのか。

それを全て言うと、黙って聞いていた香原がぼそりと零すように言った。


「今度の相手とは、様子が違うんだ。」

「違う?」

「…弓月が何時になく慎重で…。弓月の方が相手に惚れたのかもしれない。」

「え、マジか。」

学園中のαを使い捨てにしてたお姫様が誰かに惚れる?

そんな事、あるだろうか?

半信半疑で思わず苦笑する。

でも、だからなんだ。


「で、もし本当に弓月がマジなら、香原はどうすんの?」

今迄何も出来なかったお前に、今更何が出来んの?


「…徐々に仕事を任せてもらえるようになった。
弓月に、復縁を申し込むつもりだ。」

「……へえ。」


なるほど。

「で、今度は弓月本人を日陰のオンナにすんのか。

俺みたいに。」

「日陰者って、そんな、」

この国では同性α同士は婚姻関係は結べない。
番は勿論、言わずもがな。
俺を囲ってたって弓月を囲ったって、香原はその内他の相手と結婚するか番を結んで後継を作る事になる筈だ。

それでも本人同士が合意の上、納得してりゃ良いんだろうが…。

親怖さに恋人を手放した臆病者の香原に、もう一度付き合ったからって弓月を守れるような意気地があるとは思えない。




「あの弓月に、せっかくマジになれる男が、しかもΩが現れたんだろ。
番になれるかもしれないチャンス、奪ってやるなよ。」

「…弓月が、Ωを抱ける訳が無い。」

「そんなのは俺も知らねえけどさ。
少なくとも、付き合ってんだろ。」

「…。」

「弓月がガチネコったって、惚れた相手とならわからねえじゃん。」


香原はだんまりを決め込んでしまった。

俺は溜息を吐く。


その時 ランチセットのパスタが運ばれてきて、話を1時中断して俺はフォークを握った。

暫く黙々と食べて、香原は黙ってコーヒーだけ飲んでいた。

そして食事が終わって、運ばれてきたコーヒーを一口飲んで、俺は言った。



「ま、もし弓月がお前に着いてくるってんなら、俺も晴れてお役御免って事だな。」



香原が目を見開く。


俺はテーブルに1000円札を2枚置いて席を立った。




 










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