上 下
5 / 22

忠相さんとカフェデート(弓月)

しおりを挟む



渋るかと思った忠相さんは、意外にあっさりついてきた。

と言っても駅前のカフェで、人目もあり、別に変な真似が出来る訳でもないからそんなに警戒もされなかったんだろうけど。

何処にでもある大手のカフェチェーンの1つに入り、明るい照明の下、俺と忠相さんは初めて向かい合って座った。
不思議な気分だ。

電気を煌々とつけていても何処か薄暗い印象のあの喫茶店にいる時とは、忠相さんも少し雰囲気が違う。
忠相さんからも、俺は少し違って見えてるのかな。

俺を見る忠相さんの目がきらきらして見えるのも、多分この店の明るさのせい。


「今日はココアにしたんですね。」

「忠相さんは?」

「俺はアメリカンを…。」


実は俺も、苦いのは苦手で…、と僅かに口角を上げる忠相さん。
そうだったんだ。忠相さんも、実は苦いの苦手なんだ。だからアメリカンなのか。
いっそ甘いの頼んで良かったのに。


「でも俺、この図体でしょ。甘いの頼むと、変だろうから。」

少し寂しそうに言うのでキュンとした。

「お兄さんみたいに綺麗な人なら、甘いものも似合いますけど…。」

忠相さんが若干目を細めて俺を見ながら言う。

え、俺の事、綺麗だって思ってくれてるんだ…?

嬉しい、な…。

言われ慣れてる言葉なのに、忠相さんの口からそれが出ると心が震える。

やっぱ俺、この人に惹かれてるんだな。

駄目なんだけどな。


「弓月 斗和です。」

「え?弓月、さん?」

「弓月でも斗和でもどっちでも良いです。歳上…ですよね?俺、20歳です。」

「…なら、斗和くんで。
俺は笠井 忠相 (かさい ただすけ)です。
25だから、確かにいくつも歳上ですね。」

「忠相、さん…。」

やっと呼べるのか。
ずっと知ってたけど、呼べなかった名前。

笠井、忠相さん…。
5歳上なんだ。
道理で大人っぽい。
カッコいいなあ…。

少し長めの黒髪を掻きあげる忠相さんの仕草に胸がときめいてしまう。
コーヒーにミルクを入れて掻き回してるのもサマになる。
こんなΩ、いるんだ…。

ポーッとして見てたら、忠相さんが視線に気づいて恥ずかしそうに俯いた。

「そんな目で…見られると、何だか恥ずかしいです。」

「あっ、すいません、つい。…不快でしたか。」

「いえ、じゃなくて…なんか、すごく綺麗な目だから、照れる…。」


ずっきゅーん…


な、何…この人…天然?
天然で人を落としに来てるの?

綺麗綺麗言われ過ぎて俺だって照れるよ…。


「男の子にこんな事言うと失礼なんだろうけど、俺…斗和くんみたいな綺麗な人って見た事なくて…。」

「…う、れしい、です…。」

「…気を悪くしないで欲しい。
俺、口下手で、あんまり喋るの上手くないんだ。

今日は、結構 頑張ってて…。」

「大丈夫、です。
気を悪くなんて、全然。」


確かに…初めてだよな、こんなに話してるの見るの。

…もしかして、俺の為に頑張ってくれてんの?

そう思ったらちょっと顔が熱くなって来ちゃったよ。
嬉しいような恥ずかしいような…。

諦めなきゃいけない人なのに、これじゃ好きになってしまう一方だ。

困ったな。
未練がましく誘ったのが仇となったかもしんない。


悶々としてたら忠相さんがポツリと言った。


「最近、顔見ないから少し気になってたんだ。
忙しいのかなって…。

いや、ごめんね、余計な事だった。」


途中で我に返ったらしく、慌ててたけど、それって俺の事が気になってるって…、そういう事なんだろうか?

いや、違うか。
よく来てた常連が姿を見せなくなったら誰でも気にするよな。

都合の良い解釈をしちゃ駄目だ、と己を律する俺、偉い。

「…まあ。忙しい、と言うか…。」 
  
俺は少し考えた。

…思ったんだけど、今日は偶然会っただけなんだから、今日を限りに二度と会えないかもしれないんだよな。
俺さえ、あの店に行かなきゃ。

でもそれなら、いっそ聞きたい事を聞いちゃってスッキリしても、罰は当たらないんじゃなかろうか。


「あの、忠相さん。」

「はい。」

「忠相さんって、恋人…というか…将来を誓ったというか、心に決めた人がいるんですか?」


遂に聞いてしまった。


俺が店に行かなくなった、一番引っかかってる事を。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

君に噛み跡を遺したい。

卵丸
BL
真面目な‪α‬の氷室 絢斗はΩなのに営業部のエースである箕輪 要が気になっていた。理由は彼の首の項には噛み跡が有るから番はいると思っていたがある日、残業していた要に絢斗は噛み跡の事を聞くと要は悲しい表情で知らないと答えて・・・・・。 心配性の真面目な‪α‬と人に頼らない実はシンママのΩのオフィスラブストーリー。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

オメガ社長は秘書に抱かれたい

須宮りんこ
BL
 芦原奏は二十九歳の若手社長として活躍しているオメガだ。奏の隣には、元同級生であり現在は有能な秘書である高辻理仁がいる。  高校生の時から高辻に恋をしている奏はヒートのたびに高辻に抱いてもらおうとするが、受け入れてもらえたことはない。  ある時、奏は高辻への不毛な恋を諦めようと母から勧められた相手と見合いをする。知り合った女性とデートを重ねる奏だったが――。 ※この作品はエブリスタとムーンライトノベルスにも掲載しています。  

孤独なライオンは運命を見つける

朝顔
BL
9/1番外編追加しました。 自分はアルファであると信じて生きてきたのに、発情したことがキッカケで、オメガだったと発覚してしまった。 アルファだと思っていた時も、孤独で苦しかったのに、オメガになったことで俺の人生はより厳しいものになった。 そんな時、俺は運命と呼べる相手と出会うことになる。 ※※※※※ 高校生×高校生で、オメガバースの設定をお借りしています。 設定はよくあるものだと思いますが、おかしなところがあったら、すみません。 オメガバースについて詳しい説明などは省略しています。 シリアスあり、ラブコメもあり、淡くて青い恋愛がメインのお話です。 ※重複投稿 全十話完結済み

ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸
BL
 逃げ出してしまった乎雪(こゆき)にはもう後が無かった。これで人生三回目の家出であり、ここにきて人生の分岐点とも思われる、苦境に立たされていた。    手持ちのお金はまったく無く、しかし、ひとところに留まっていると、いつの間にか追いかけてきた彼に出くわしてしまう。そのたびに、罵詈雑言を浴びせられるのが、心底いやで気力で足を動かす。  けれども、ついに限界がきてそばにあった電柱に寄りかかり、そのまま崩れ落ちて蹲った。乎雪は、すぐそこがゴミ捨て場であることにも気が付かずに膝を抱いて眠りについた。  目を覚まして、また歩き出そうと考えた時、一人の男性が乎雪を見て足を止める。  そんな彼が提案したのは、ペットにならないかという事。どう考えてもおかしな誘いだが、乎雪は、空腹に耐えかねて、ついていく決心をする。そして求められた行為とペットの生活。逃げようと考えるのにその時には既に手遅れで━━━?  受け 間中 乎雪(まなか こゆき)24歳 強気受け、一度信用した人間は、骨の髄まで、信頼するタイプ。  攻め 東 清司(あずま せいじ)27歳 溺愛攻め、一見優し気に見えるが、実は腹黒いタイプ。

処理中です...