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大学生、弓月斗和。

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弓月 斗和 (ゆづき とわ)
バース性、α。


αだけがひしめき合うその世界で、俺は姫と呼ばれていた。





俺が一昨年迄居たその学園は、名の知れた全寮制男子校だった。

入学資格は、男性αである事、只一点のみ。

成績も、家柄も家庭の経済状況すら関係無く、只αでさえあれば良い。

全人類の数%しかいない希少なα。
だがその僅かな彼らが未来を牽引するのだから、各国政府は挙ってα達を優遇し、その将来性に対して投資を惜しまなかった。

例え実家が困窮していても、今 少しばかり成績がイマイチでも、中2の時に受けるバース検査の結果、αと判定されれば、最低限の進学先は保証される。

勿論、αにだって優劣はある訳だが、入学時にそれは問題視されない。
国が行うのは、αという優れた種により多くのチャンスを与える事。

将来、どのαがどんな成長を遂げるかなんか未知数なのだから。




腐ってもα。学園にいる者達は、最低でも中の上ランクからの容姿をしていた。
そしてその中でも、俺は新入生の時から目立つ容姿をしていた。

母方の祖母がスイス人で、その血を継いだ俺は、北欧の特徴が上手い具合いに容姿に現れていた。



αって、結構若い頃からそれなりに体が出来上がってたり、力強かったりしっかりした印象を見る者に与えるもんだから、そんな連中の中にあって、なよっちい訳ではないけれど、顔が綺麗で細身で繊細な印象の俺の存在はまあまあイレギュラーだったと思う。

でも俺はそれが嫌じゃなかった。コンプレックスも感じなかった。

だって、俺は王子になったり、王様みたいに振る舞うより、姫扱いされて周りにちやほさされて傅かれる事が好きだからだ。

抱くより抱かれたい。

快感を与えるより与えられたい。

つまり、αだけど生粋のネコ。


だから学園に進学した時も、他の生徒達が凌ぎを削ってオスとしてのマウントを取り合うのを横目に、俺は自ら姫ポジについた。
だって、そこに座って待ってるだけでオス達がチヤホヤしてご機嫌取って口説いてくれるんだから。
俺は、その中から顔や体が好みのオスを選ぶだけで良い。
独占されたくなければ、そういう風に振る舞えば良い。
俺とヤりたくて、俺の歓心を買う為に必死になってる奴らを見てるのは、俺の自尊心を存分に満足させてくれた。


しかしそんな天国のような3年間も終わりを告げ、俺達は卒業し、学園を巣立ち、それぞれの進路へ。
勿論、俺もとある有名大学へ進学した。


ところが、だ。


3年振りに出た外の世界では、当然の事ながら学園のような特殊な状況は起こりえない。
俺の見た目に惹かれていても口説きに寄ってくるαは激減した。
そりゃ周囲に女やΩがいるのに、わざわざ同じαにコナをかけてくる奇特な奴は少ない。

勿論、俺にもΩが何人も寄って来たし、女性からの逆ナンや告白も多い。
けれど、無理。
俺は男しか受け付けないからだ。
正真正銘のゲイなのだ。
だからせめて、αじゃなくても良いから寄ってくるのは男であれと思った。


しかし。受け身のαなんて、学園外では望まれてない。
通用しないのだ…。

俺は突きつけられた現実に呆然とした。



嘘だろ…俺はこれからどうしたら…。

もうあの酒池肉林は二度と望めないのか…。


大学2年にもなると、親からは、誰か付き合ってる女性やΩはいないのかとせっつかれ出し、取引先の社長の娘さんがどうだの、見合いがどうだの言われ出した。

俺は一人息子だから、会社をやってる親としては早目に跡継ぎでも作って欲しいんだろうけど、無理。

俺の性癖、男。
しかもできれば筋骨隆々の男に抱かれたい側。
だからαが一番好きなんだよ。
頑丈だし、持続力あるし。

百歩譲って、そういう好みのタイプの男なら抱けなくもないかも、とは思うけど、女性の体や自分よりなよっちぃ中性的な体のΩ男とか、無理だ、抱けない。

アレが反応できない。



そんな訳で俺は、頗る悩んでいる真っ最中だった。



そんな俺の前に、まさに好みのタイプの、微かにい~い匂いのする男が現れた。



笠井 忠相。多分、歳上。

俺が最近行くようになった、古い喫茶店の店員だ。

180をゆうに越す身長、筋肉質の逞しい体。
端正で男らしい顔立ち。


そして、きっと Ω。


一目惚れだった。




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