お姫様に、目隠しをして

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13 他からのマーキングに厳しい崇くん (伊吹)

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「いぶ、ヘンな匂いがするな。」

放課後。
今日は何時ものようにお迎え担当の2人と一緒に崇くんも来ている。
校門を出て5秒のとこで待ち構えていた学ラン姿の崇くんに肩を抱かれて、服や首筋の匂いを嗅がれて、そんな事を言われた。
崇くんの学校からは車でも20分はかかる筈なのに、何で何時もいるんだろ。

難しい顔で服を嗅ぐ崇くんはたまに動物みたい。

ドキッとして、

「な、なんだろ?」

と惚けたけど、今日匂いがつきそうな距離に近づいた花臣くんの事が思い浮かんでた。
多分、間違いなくそうだろうなあ。
でも、崇くんは僕が花臣くんを好きだったのを知ってるから、一緒に昼ごはん食べた事なんか知られたら、崇くんの反応が怖い。

だからつい、誤魔化してしまった。

崇くんはくんくん嗅いで、嫌な顔をした。花臣くんは何時も爽やかなシトラス系の香りしかしないのに、何がそんなに引っかるのか。
崇くんだって、よくわからないけどスパイシー系の甘い匂いさせてるじゃん。


「くっせぇ。何か腹立つ。」

「えっ」

そんな事言われても。
僕は困ってしまった。


崇くんは不機嫌になり、僕は校門からの緩い坂を下ったとこにある車道沿いに待たされていた車に押し込められた。 
これも何時も迎えに来る車なんだけど、お迎え担当の片方が運転手で、片方は助手席に乗る。
そして、僕と崇くんが後部座席。
 
横に乗り込んできた崇くんに耳を噛まれる。

「……ッた…痛いよ…。」

ホントにちょっと痛かった。何で急に噛むんだ。

「気に入らねえ。いぶ、今日はウチだ。」

「えっ、なん…、」

昨日行ったじゃん。何で…。


「そんなくっせえの、抱けるか。」

別に抱かなくても良いのにな。
何で崇くんはそんなにセックスばっかしたがるんだろう。
でもそんな事言ったら崇くんがますます不機嫌になるから言えない。
車は昨日と同じ景色を辿る。
お迎え担当の部下の人達は、何時も何も言わないけど、こういう僕らの遣り取り、どう思われてるんだろ。

そうこうしている内に崇くんの家に着いて、車を降りた途端に崇くんに抱き上げられて運ばれる。え、嘘。
いくら僕が歩くのトロいからって力技過ぎない?

背も高くて筋肉質で体格の良い崇くんからすれば、僕なんか簡単に運搬出来るのだ。
抵抗なんて通用した試しも無いし、ホントに同じ男かなと情けなくなってしまう。

崇くんは助手席に乗ってた方の人に玄関を開けさせて家の中に入ると、

「もういい。」

と言って、顎をしゃくった。
赤い髪のその部下の人は、車から運んでくれていた僕のリュックを玄関先に置き、一礼してドアから出ていく。
車に戻っていったんだろうし、溜まり場に帰るのかな。

崇くんは僕を抱えたまま、すたすた階段を上がる。
人ひとり持ち上げてるとは思えない足取りだ。僕じゃこうはいかないなあと羨ましくなる。
崇くんの部屋の前に着いた時、どうやって開けるんだろうって思ってたら、何と崇くんはお姫様抱っこしていた僕を片腕で抱き直し、ドアを開けた。
嘘でしょ…。

「いぶ、お前最近ちょっと肉落ち過ぎだぞ。」

「……ゴメンね。」


誰の所為だと思ってんのって言いたいけど、言える訳ないんだなあ…。

「…俺のせいか。」

「え」

考えてた事をピンポイントで口にされて、見抜かれたのかとギクリとする。
つい、見上げてしまうと目が合った。
シュッときつく上がった目尻で威圧感が出てるけど、崇くんの瞳は黒くてとても綺麗だ。

「…俺が、無理させてるからか。」

そんな事、言われても。
うん、なんて言い難い。

すると崇くんは薄く苦笑して、僕をソファに下ろした。

「ちょっと待ってろ。」

「……ん。」

崇くんはそう言って、エアコンを入れて 室内のバスルームのバスタブに少し入っていった。
目で追っていると、バスルームからは直ぐに出てきて、今度は部屋を出て行った。
水音がするから、湯を溜めてるのかな。

暫くその音を聞きながらボーッとしてると、崇くんが部屋に戻ってきた。
片手に僕のリュックと、もう片方の手にはトレイにグラスを載せている。
ソファ迄歩いて来た崇くんは、そばのローテーブルにトレイを置いて、リュックをソファの隅に置いた。
それからテレビ横の小さい冷蔵庫の中か缶のドリンクを幾つか出して来て、どれが良いのか聞かれる。

ここでもわかる通り、崇くんは缶を開ける事すら僕にはさせてくれない。
りんごジュースを指すと、タブを開けてグラスに注いでくれたから、それをちみちみ飲む。

「おいしい。」

「そうか。」

少しの間、僕がジュースを飲む様子を観察していた崇くんは、ふと気がついたように立ち上がり、バスルームに向かった。お湯の音が止んだからだろう。

それから戻って来て、また僕のシャツの匂いを嗅いで、臭いと言いながら脱がせていく。

「これはクリーニングに出す。今日は泊まれ。明日休みだろ。」

「…え…うん。」


言われて思い出した。

あ、そっか。今日は金曜だったっけ。









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