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マオとレオの縁

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「誰だと思う?」

 レオは俺にそう聞いた。

「"彼"だと思ってた。レオと玲くんの何方かが。

でも、最近やっとわかったんだ。"彼"は玲くんだよな」

 俺がそう言うと、レオは笑った。

「やっぱ、記憶あったんだ」
 
 だとは思ってたけどね~、尻尾出さなかったね~、とレオは俺から離れた。

「僕はね、マオの兄だよ」
「そんな事はわかってる」
「違う。正確には、過去世でもマオの双子の兄に産まれる予定で、上手く形を創れずにそれが出来なかった運の悪い奴だよ」
「…それって、どういう…、」
「バニシングツイン」

 レオの口から飛び出した聞き慣れない単語に一瞬、呆けた。

「本当は双子だったんだ、あの時も」
「…え…」
「双子だったけど、僕は母の腹の中で成長出来ないまま、母親の子宮とマオの中に吸収されたんだよ。そして、マオの中でマオと一緒に生きてた。
マオが沼に沈むその時迄、一緒に生きてたんだ、僕達は」
「……」

 そ…んな事は…聞いた事すら、なかった…。

「あの時代だもん。わかる訳ないよ。
現代ならわかっただろうけど」

 あまりにも思いがけない話に、俺は呆けたようにレオを見つめた。
 
「あれは仕方のない事だった。母さんのせいでもマオのせいでもないから気にしないで。母さんだって、自分のお腹の中で何が起きてたのかなんて知らないまま亡くなった。
僕も、あっちの世界に還ってからそれを知って、今世に生まれて色々調べたから理解できた。染色体異常なんかが原因で、ごく稀に起こっちゃう事らしい」
「やっぱ…珍しい事なんだね」

 だってそんな、漫画やドラマみたいな事が俺の身に起きてたなんて。
 レオの言ってる事が本当なら、俺がレオの人生を奪ってしまったという事だ。サッと血の気が引く感覚に、ぶるっと震えてしまう。
 そんな俺を落ち着かせようと、レオは優しく抱きしめて背中を擦ってくれた。

「本当に、仕方ない事だったんだ。気に病まないで。
逆に僕はラッキーだと思ってた。文字通り何時でもマオと居られたし」

 でも、そんな風に慰められても…すぐには割り切れない。
 俺の中に、ずっと居たなんて。俺は何一つ気がついてやれずに…。
 申し訳無くて苦しい。レオの顔がまともに見られなくて俯くと、優しい手に髪を撫でられた。

「ねえ、マオ。僕が何よりも辛かったのはね。成長も吸収もされなかった僕の体の残骸がマオの中に一部残ってるのが原因で、マオを苦しめてしまった事だよ
…見てられなかった、可哀想で、申し訳無くて」

 レオの言葉に、俺ははたと腑に落ちた気がした。

「…あ…よく体調が悪くなったのって、もしかして…」
「ごめんね。僕のせい」
「レオは悪くないだろ。
…そっか。
てっきり、生まれつき体が弱いんだとばっか思ってた」

 レオは、ごめんね、ごめんねと申し訳なさそうに謝りながら俺の頭を撫でる。
 痛かったよね、苦しませてごめんね、と。
 人生なくなっちゃったレオの方が辛いじゃん、痛いじゃん、と 俺はまた泣いた。

 誰も悪くない事なのに、皆が自分が悪いと思ってしまうような事が、この世には何故起きてしまうんだろう。



「…僕、あの時は何も出来なかった。
妹優先の家族の中でマオが孤独な事も、マオが辛い思いをするのも、見えてるのにどうにもしてやれなかった。
僕が一緒に生まれてたら、守ってやれたのにごめんって何時も思ってた。

だから今度こそ、守るって決めてたんだ。

マオを苦しめるもの、全部から。」
「レオ…」

 胸がじんと熱くなる。そんな風に思ってくれてたのに、俺はレオが"彼"かもしれないなんて思い込みで冷たくして…。
 俺って酷い人間だ…と思ったところで、またある事に気がついてしまった。

「…ねえ、レオ。聞いていい?」
「何?」
「わざわざ"彼"とそっくりに生まれて来たのは、何で?」

 俺の質問にレオが笑顔のまま固まる。

「えーっと、それ、は…」

 レオは物凄く言いにくそうに言い淀んだ。
 そもそもそれがややこしくなった一因だと思うので、それについては是非とも答えが欲しい。

 俺はじっとレオを見つめ、レオはそれに根負けしたように口を開いた。


「…彼奴が、許せなくて…」
「あいつ?」
「…マオの男」
「……」

 ボッ、と顔が赤くなるのがわかる。熱い。お、俺の男って言い方、やめてよ。なんかやだよ。
 しかも今考えてみたら、俺の中に居たって事は、あんな事してる時も、こんな事してた時も見えてたって事じゃないのか…?

 マジで顔から火が出そうなくらい熱くて恥ずかしい。


「れ、玲くん?の事だよね?」
「名前呼ぶのもヤダわ」

 レオは不貞腐れたように口を尖らせる。
 やっぱ仲悪いのか。そうだろうとは思ってたけど、やっぱそうなのか。

「彼奴が、せっかく帰ってきたマオをさ…傷つけただろ」
「…ああ…」

 俺は返事をしながら、またあの日の事を思い返す。
 あの時、レオも俺の中で見てたんだもんな。俺は片足を失くしてやっとの事で村まで帰りついて、すごく疲れて…。
 彼と妹と子供の姿を見てしまって、もう全て馬鹿らしくなって人生を捨てた、あの日。


「…彼奴が最後迄マオが生きてる事を信じてれば、あんな事にはならなかったから…
僕は彼奴を許せなくて。
転生する時にさ、前世が不遇過ぎるから、少しは希望を聞いてくれるって言われたから、彼奴と同じ姿でマオと一緒に生まれたいって頼んだんだ。」
「あ、"遣い"?神様の御用聞きみたいなヤツ?」
「そうそう。あの白いヤツ」

 俺のオーダーを取り違えたのと同じヤツかはわからないけど、多分やってる事は同じだと思う"遣い"。
 彼奴のせいで"彼"(玲くん)と同じ世に、しかも近しく生まれちゃったんだよな、と俺は苦々しく思い出した。





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