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19 (三者面談 2)
しおりを挟む「ピンク君は、陽一郎さんと番になりたいの?」
鈴木に聞かれて奏は首を振った。
「じゃあ、結婚はしたいの?」
「それは…父さんと兄さんに言われたし…。」
「じゃあ、言われなきゃ別に結婚しようと思わなかったんだよね?」
「…まあ、そう、かな?」
でも内心、少しは鼻が高かった。
クールで、憧れの的で、皆に一目置かれていて、なのに学内の誰とも付き合わなかった梁瀬が、自分の婚約者だなんて。
ちっとも奏に関心を見せなかった意趣返しも出来るんじゃないかなんて思ったりして。
自分を抱けば絶対夢中になる筈だし、惚れさせてしまえば散々へし折られた奏の自尊心だってきっと満たされる。
そういう、意地悪な気持ちもあったし…。
なのに婚約して何時迄経っても連絡ひとつして来ない。
まさか他に誰かいるのかと思って人を張り付かせてみたら、親密にしている男がいた。
自分を婚約者にしといて他の人間に目を向けているなんてと腹立たしくなり、文句を言う為に調べておいた梁瀬の電話番号に連絡したら返り討ちにされた。
ならば間男に直接文句を言ってやろうと鈴木に会いに来たら、全く相手にされなかった。
しかも、婚約者である自分の姿を目の当たりにしても、梁瀬と鈴木は揺るがない。2人の間に亀裂のひとつも入る様子すら無い。
奏には不思議でしょうが無かった。
体の関係しか結んで来なかった奏には、体を繋げた先の、心や、もっと深い魂の触れ合うような関係があるという事が 未だわからない。
「俺はね、ピンク君。
陽一郎さんを好きです。愛してる。」
急な鈴木の告白に横で聞いていた梁瀬が赤くなる。
奏はそれにも戸惑った。
そんな梁瀬の顔は初めて見る。
それに気づかない鈴木はそのまま続ける。
「上流階級と言われる人達の間には家同士の繋がりを結ぶ、事業に利益を生む為の結婚があるってのは俺も知ってる。
本人同士が納得するならそれもありなんだろうと思う。
だから最初 陽一郎さんに、自分にも家に決められた相手が居るって聞いた時には、そうなんだ、って気持ちしか無かった。」
鈴木は初めて出会った日の事を思い出していた。
「陽一郎さんは苦しそうだったよ。この先の人生は諦めたって、家と会社の為に自分を犠牲にするしかないのかって悩んでた。
でも俺、その時思ったんだよ。
陽一郎さんが体に変調来たすくらい悩んでるなら、勝手に人生決められた婚約相手も似たような事になってたりするんじゃないのかなあって。」
「え、俺?
俺はぁ…別に…。」
「…みたいだな。」
実際、奏は、悩んだりしなかった。
基本、家族に与えられたものに、彼は疑問を抱かない。
そういう風に育てられてきたからだ。
Ωはαよりも希少価値がある。
血統の良いΩなら、その価値は爆上がりだ。多少の難など誰も気にも止めない。
α家系の末っ子に生まれたΩの奏は、莫大な利益を齎すかもしれない 大切な取り引き道具になると予想された。
だからこそ、多少我儘であっても、従順で素直でさえあれば家族には大切にされた。
自分の人生とは…なんて考え始めるような自我や思慮深さは、父や兄にとっては邪魔でしか無いのだ。
奏がものを深く考える事が苦手なのは、幼少期からの家族の接し方に問題があった。
流石に鈴木はそんな事迄は知らないが、奏との会話の端々から感じる違和感に、なんとなく思う所があった。
幼過ぎる、と感じたのだ。
梁瀬と同級生であるにしては、個人差と片付けるには、あまりにも。
一見、気が強くて我儘で扱いにくいように見え、自分の主張する事には強い言葉も使うけれど、切り返しには脆い。
それはつまり、思考する事に慣れておらず、回転が鈍いと言う事だ。
だが、きちんと丁寧に話せば、考えてみようとはする素振りはある。根は素直だと感じた。
話にならないというよりは、話についていけていないから、相互理解迄 辿り着けないのではないのだろうか。
ならばとことん丁寧に、奏自身はどう考えているのか、本当の気持ちを探ってみようかと思ったのだ。
鈴木にはそういう、人と向き合うのに忍耐強い所があった。
あくまでも、期待が持てそうならばだが。
だから今日、奏を連れ帰ってみたのだった。
「なら、今日は考えてみて欲しい。
本当に陽一郎さんと結婚するのが君の希望なのか。
…君には、好きな人はいないの?」
鈴木に問われ、奏は考えてみた。
別に結婚したい訳では無かった。
好きな人…好きというのが、そもそもわからない。
家族が好きとか、ブランドが好きとか、車が好きとか、そういうのとは違うんだろうか?
それをそのまま口にすると、鈴木と梁瀬の表情が曇った。
2人共、考えていた以上に奏の情緒が育っていない事に驚き、何とも言えない憐憫を覚えた。
目線で会話する。
(これは…なかなか…)
(大変そうですね…)
梁瀬の中の木本奏像が崩壊していく。
彼も自分と同じ、α社会の人柱要員なのでは、と思い始めていた。
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