15 / 33
15 やや微ざまぁ回。(梁瀬side)
しおりを挟む『どういうつもり?』
受話口から高圧的な声が聞こえてきたが、誰だかわからなかった。
やはり知らない番号は取るもんじゃない。
「何方ですか?」
開口一番から何だか失礼な奴だが、一応は聞いてやらなきゃなるまい。
『奏だよ。婚約者の声もわからないのかよ?』
後悔。取るんじゃ無かった。
声なんか覚えてる訳ないじゃん。
親しかった訳でもない、話した事はほんの数回。
婚約迄も後も、動いていたのは主に親達だ。
婚約披露パーティーとやらの時でさえ、了承していなかった僕は騙し討ちみたいに呼ばれてそこに居ただけ。
此奴がニヤニヤしながら僕を見ていた覚えはあるけど、正直微塵も興味が無くて、会の途中でさっさと社に戻ったのだ。
「ああ…木本君か。
わからなかったよ。何か用?」
『そんな訳ないでしょ。
何なんだよその態度。』
「…あのさ。わかんないかな、仕事中なんだけど。
何かあるなら手短にお願いできませんか。」
平日の午前中だよ。
『そんなのどうでも良いよ。
それより、何なんだよあの男。どういうつもり?』
不思議だな。こんなに短時間でこんなにも人をイラつかせる話し方が出来るなんて。
「あの男?」
『あの冴えないβだよ。
わかってる?君、俺と婚約してるんだよ?』
「は?」
あの冴えないβ。とは、まさか僕のダーリン真治さんの事か?
え、此奴ふざけてんのかな?
何処をどう見たら冴えなく見えるんだ?貴様の目は節穴か。
「もしかして僕の彼の事仰ってます?」
『彼?彼ってなんだよ!!』
「彼は彼氏。恋人ですよ。
そこ迄ご存知なら僕と彼の関係だってとっくに知ってるんでしょう。」
僕は始終声のトーンを変えずに言った。
それがまた気に触ったのか、相手はトーンアップしていく。
『そんなの許されると思ってんの?!浮気だよ?!
今すぐ別れろ!
婚約破棄されても良いの?』
「はっ。まさか君の口からそんな言葉が出るとは思わなかったよ。」
僕が堪らずせせら笑うと、木村は はあ?とヒステリックに喚いた。
『どういう意味だよ!!』
「あのさあ、木本君。
僕が何も知らないと思ってる訳じゃないよね?」
わざと長い溜息を吐いてやると、木本が少し黙った。
『…何の事だよ。』
「僕、不本意だけど君とは小学校から同じだろ。
学生時代からの君のご乱行が未だに継続中な事くらい、把握してるよ。
…ったく。父が言うんじゃなきゃ、君みたいな人と婚約なんて…。」
つい吐き捨てるように吐露してしまう。
は?と木本が間の抜けた声を出した。
「あのさぁ…。
僕らお互い、興味無いじゃない。何故、僕が望んでるみたいな風に言ってくるのかな?」
『…照れ隠しでしょ?
男が俺に興味無い訳ないじゃん。それに、君はαなんだし…。』
「…は?」
え、バカにしてんの?
αだから何?
『…だ、だって、αが俺を抱きたくない訳ないし…』
「…君の周りのくだらない三下共と1括りにしないで欲しいな。僕、セックス出来ればゴミでも構わないようなプライド無い人間じゃないからさ。」
木本はやっと黙った。
「それに、僕が再三拒んでたのを勝手に進めたのは父と祖父だからね。僕、婚約指輪も指を通してないから。
折を見て解消の話持ってくつもりだったんだ。
父や祖父がこれ以上強行するなら僕にも考えがあるしさ。」
『…何をしようってんだよ。』
「君には関係無いだろ。」
空気を読まず相手の状況を察する努力もする気の無い人間との会話は不毛だ。いい加減切り上げたいと思った僕は、
「さよなら。」
とだけ言って通話を終了した。
切った後のスマホの画面を見ながら思う。
このままでは済まないんだろうなあ…と。
まあ、コテンパンにしてやるけどね。
「木本さんのご子息と揉めたそうだな。」
退社時、役員フロアのエレベーター前で父に捕まった。
「ああ、お聞きになられましたか。」
僕が無表情に答えると、父が苦々しい顔で言った。
「仲良くしなさい。生涯を共にする相手だぞ。」
これはダメだ。
相変わらず父や祖父は僕を会社の道具の1つとしか見ていない。僕の幸せを考えてくれる事は無い。
ならばもう此方も遠慮無く言おう。
「再三申し上げても聞く耳を持っていただけませんでしたね。
もう一度申し上げておきます。僕は木本君とは結婚はしません。」
「…我儘を…」
「我儘を仰って駄々を捏ねているのが何方なのか、本当にわかりませんか。」
何時になく饒舌な僕に異変を感じたのか、父が黙る。
「ご再考いただけないのならば、僕は家を出ます。」
母が亡くなって以来初めて、父が僕を真正面から見た。
怒りなのか、戸惑いなのか、その表情は僕には読み取れない。
「僕は会社の為の道具として生まれたつもりも、そう生きていく気もありません。
僕の力だけでは不足とおっしゃるのならば、分家の中から会社や家の為に生きてくれそうな、然るべく人材を選び 後継者に据えると良ろしい。」
眉間に皺を刻んだ父の顔が歪んだ。
僕の反目が本気だと、やっと理解したようだった。
22
お気に入りに追加
678
あなたにおすすめの小説
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
恋人に浮気をされたので 相手諸共ボコボコにしようと思います
こすもす
BL
俺が大好きな筈の彼に、なぜか浮気をされて……?
静瑠(しずる)と春(はる)は付き合って一年。
順調に交際しているつもりだったある日、春の浮気が発覚する。
浮気相手も呼んで三人で話し合いになるが「こうなったことに心当たりはないのか」と言われてしまい……
健気なワンコ(25)×口の悪いツンデレ(29)
☆表紙はフリー素材をお借りしました
☆全体的にギャグですので、軽い気持ちで読んでくださいませ¨̮ ¨̮ ¨̮
浮気性のクズ【完結】
REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。
暁斗(アキト/攻め)
大学2年
御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。
律樹(リツキ/受け)
大学1年
一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。
綾斗(アヤト)
大学2年
暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。
3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。
綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。
執筆済み、全7話、予約投稿済み
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる