上 下
21 / 38

21 これ、リンクしてね? (逃桐)

しおりを挟む


「0511!!!」


ガバッと起き上がって降り、転がったいるリュックの内側に挿してあったペンでテーブル上にあった封筒の端にメモをした。

してから、ハッとする。

「…夢だっ…た?」


俺はこの数分の出来事を脳内で反芻した。

さっき一度、俺は夢の中で目を覚ました。
人の気配がしたからだ。
宇城が帰ってどれくらい経ったのかはわからなくて、だからもう翌日になってて、また宇城が来たのかと思って身を起こしたのだ。

そしたら、部屋の天井近くに "俺"が浮いていた。
咄嗟にあっちの世界にやった"俺"が、何かの弾みで戻って来たのかと思った。

何で戻って来れたのかと思って、掛けた声が思わず声が裏返ったが、そいつも言い返して来て…。
けれど、様子がおかしかった。

その俺は半透明で浮いていて、小さいけれど声も聞こえるが、一向にそこから近づいてはこれないようだった。
着てる服は以前俺が着ていたものだったが、いたぶられたようには見えなくて、あの分だと、馬鹿皇子達はちゃんと保護の方向で動いたんだなと思い、良かったなとは思ったのだが…。

その時、ハッ、これはチャンスでは?!と閃いたんだよ。
これ、金を引き出せるキャッシュカードの暗証番号を聞くチャンスだろ!と。

ぶっちゃけ、俺が思いつきそうな番号って共通しねえかなと思い、風邪が治ってから試してみようかと思っていたんだが、入力ミスが何回でロックがかかるのかわからず、リスクが高い。

そんな事が気にかかっていたから、今かなと。


でも暗証番号を聞き出した後、俺は再び起き上がった。という事は、今のはやっぱり夢だったのかとガッカリしたのだが、せっかくだから今度試す事にする。

只の夢なのか、夢という潜在意識下で思いがけずあっちの俺とリンクしたのかはわからないが、もし後者なら棚ボタ的ラッキーだったって事になる。

俺は封筒の端に書いた数字の羅列を見つめた。

0511。

その番号に、俺は物凄く覚えがあった。

「…ラクの誕生日じゃん…。」

ラクとは、俺が子供の頃から高校にかけて、実家で飼っていた犬の名前だ。
知人の家で生まれた子犬の一匹を引き取った。
茶色い秋田犬で、仔犬の頃から笑っているような顔をしていた。
楽しそうに笑ってるみたいに見えるから、ラクってのも本当安直なんだけど、結構良い名前だよな。

まあ、ラクは俺が16歳の時に天国とやらに行ってしまったんだが。
そのラクの誕生日と命日を、俺は覚えている。

この世界でもラクは"俺"に飼われていたんだろうか。


「そうだと、良いな…。」

ラクは、幼い頃から両親が仕事で不在がちな俺にとって、兄弟のような存在だった。誰よりも家族だった。
他の世界でも、そうだと良い。どの世界の俺にも寄り添ってくれていたら良いな、と思った。


さっきより少しだけ熱が下がったような気がする。

俺は額に貼られたシートに触れてみた。
温い。既にぜんっぜんひんやりしない。
高くなった体温と馴染み過ぎている。

指でゆっくり引き剥がして、額に手を触れて熱を測ってみた。
未だ未だ熱い。
替えの冷却シートは何処だったっけ、と見回した時に、玄関からガチャガチャと音がして、肩が跳ねた。


「あ、起きてらっしゃったんですね。おはようございます。未だ寝てらっしゃるかと…。」

鍵を開けて玄関ドアを開けて入ってきたのは、またもや左手に白いナイロン袋を持った宇城だった。

何時も下りている前髪をサイドに流して、眼鏡のフレームが何時ものより細い…。あれ?何か、スッキリしてる…。
しかも土曜で私服だからか、シャレオツ感すげえ…。
何で何時も学校だとモッサリさせてんの?


「…おはよ。」

色々思いながら俺が挨拶を返すと、

「少しは熱。下がりましたか?」

と、言いながら、冷蔵庫を開けて冷却シートを出す宇城。

あ~、そこだったか~。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捕まえたつもりが逆に捕まっていたらしい

ひづき
BL
話題の伯爵令息ルーベンスがダンスを申し込んだ相手は給仕役の使用人(男)でした。

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

なぜ同じ部屋になるんだ!

猫宮乾
BL
 王道学園、非王道のお話です。生徒会顧問×風紀委員会顧問。告白されて、付き合うまで。片思いのお話です。

どうしてこうなった?

サツキ
BL
浮気現場を目撃して泣いてしまった僕と、僕の泣き顔に欲情した生徒会長の話。 基本みんな馬鹿。 ギャグです(小声)

総受けなんか、なりたくない!!

はる
BL
ある日、王道学園に入学することになった柳瀬 晴人(主人公)。 イケメン達のホモ活を見守るべく、目立たないように専念するがー…? どきどき!ハラハラ!!王道学園のBLが 今ここに!!

処理中です...