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流石に長々と人間一人を乗せてると肩が凝る。途中からなぜか水瀬もむぎゅむぎゅと詰め始めたので、明日は筋肉痛になるかもしれない。

「あ~……ただいまー」

いつ考えても武藤様が待っている家とかいう響きやばい。別に俺を待っているわけではないが。
ともかく鍵を開けて家に帰れば、玄関の段階でなんだかいい匂いがした。

「おう、帰ったか」

昨日いろいろぶちまけたからか、武藤様の口から今日もいんのかよが出る事はなかった。今日もいます。

「オイ、砂! 作業してきたんなら着替えてこい」
「ええ? ちゃんと着替え……あ、靴下」
「脱げ!」

玄関開けて二秒でやらかし。もう終わりである。言い訳させてもらうと普段は髪の毛一本落とさないよう気をつけている。朝は本体が落ちているので意味はないのだが。

100均で300円だと思って買ったところ500円だったスリッパを履いて靴下を洗濯機に入れる。もう少し溜まったら回しておこう。

「ったく……オラ、ついでに手洗ってこい! はよ席付け」
「え、おれご飯作ってない」
「お前のは作るって言わねェんだよ、レンチンだ」

作るじゃん!
リビングの方からぶっきらぼうに投げられた命令を守り、手を洗って近くにあったタオルで拭いてリビングに行く。
と。

いつも武藤様が食べているテーブルの上。全く同じ料理がコピペして反転したみたいに二つ、向かい合っている。

「……お客さんでもくるの??」
「ンでだよ。ふざけてねぇで座れ」

……え!?

「有り余ってたからな。ジャーマンポテトとガレットだ。ビーフシチューもある。足りんかったら白米食え、そこので炊いた」
「うわでっけ炊飯器。じゃなくて、えっと」
「お前の食生活を数日見てたが、不健康すぎて吐き気がしてきた。俺が管理する」

そんなに??
お前の苦労をずっと見ていたぞ……の流れから誉められないことってあるんだ。じゃなくて。
嘘でしょ。武藤様の手料理!? 口に入る!?!? 誰の!?!? 俺の!?!?
イェーイ見てる~親衛隊ユニコーン!! 見るなッッッッ!!!!

「い、いいよ別に。ずっとこれで健康だったし~……」
「自分のスペックに依存してるだけだそれは。どんだけダメになれば気が済むんだお前は。際限を知れ最高だな
「ごめん~……?」

恐る恐る武藤様の正面(武藤様の正面!?)に座れば、目の前に勢いよく深皿のサラダを置かれた。

「お前の生活には何もかも足りてねぇが、緑黄色野菜がカスほど足りてねぇ。食え」
「あ、はい」

武藤様って緑黄色野菜って言うんだ。
カトラリーの位置を見たら、幼児用の先の丸いフォークとかが用意されてあった。何? 赤ちゃんだと思われてる? 推しに赤ちゃん扱いされるのって何それ光栄。

「よし、手ェ合わせろ」
「いただきます……?」
「いただきます」

武藤様っていただきますって言うんだ。だんだん失礼な偏見になってきてる気がする。
まずはサラダを食べる。どっかで最初にサラダを食べると何かにいいと聞いたので、選択の余地がある時はサラダから食べることにしている。

まぁ言うて普通に野菜なので、緊張で味がしなくとも問題はないだろうと判断うまっ

「えっおいし。なに? どうして? 野菜なのに……?」
「ドレッシングって知らないか?」
「いつも生かマヨネーズだったから……ドレッシングすげー! 大人って感じ!」

大人の味だと思っていたドレッシングだが、さっぱりした旨味が噛めば噛むほど響いてきてとっても美味しい。ぱくぱく食べていると視線を感じて、慌てて他の料理も食べる。

次はメインのジャーマンポテトだ。ビーフシチューがあるせいでメインが何かわかんなくなってるけどジャーマンポテトがメインだ、たぶん。

まぁ、芋に関しては最近ずっと食べてるので今更新鮮味もうまっっ

「え……? これ、芋……? 俺の知ってる子……?」
「半分もうお前の知ってる芋ではねぇよ。ベーコンとか入れてるし。胡椒強めだし」
「おいしすぎる」
「良かったな」

信じて送り出した芋が美味しくなって帰ってきている。俺が知らんうちに送り出されてたので厳密には信じて送り出したわけではないけども。

「いいから集中して食え。俺様の料理がうめーのは当然だしな」

その言葉に甘え、無言で料理を平らげていく。ビーフシチューはコクがあって美味しいしガレットはチーズがめちゃくちゃ伸びてびっくりした。全部暑くてあったかくて美味しい。
ハフハフ言いながら食べていたら、いつの間にか食べ終えていた武藤様が台所へ向かう。

「ビーフシチューはおかわりもある」

あ~~~~♡♡♡♡

「さっぱりしたもんが欲しいだろ? ベリーソースをかけたヨーグルトもある」
「うぐ~~~~」
「抗うな抗うな。好きなだけ食え」

だ、ダメ人間になる……元々そうなのに……
ダメだぞ田中宗介!! このご厚意に甘えて仕舞えば、そしてこんな美味しいものを食べさせられ続けば俺はこの料理に依存してしまう。それだけはダメだ。

これは武藤様の気まぐれ。いつでも身を引けるように、面倒臭くないように

「明日の朝食は何がいい」
「めっちゃチーズかけたパン!!」
「引くほど伸びるやつでいいな」

こんなん勝てるわけないやろがい!!!!!!!!!

──ちなみに翌日は昼食も持たされた。もうわけわからん料理名のやつだったけど、めっちゃ美味しかった。
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