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武藤様が。武藤様が転校生に恋。

いや恋と決まったわけではないけども。
でも滅多に他人を気に入らない、執行部にすら心を許さないとされてる武藤様が、ちょっと素直じゃない感じでも悪くはないという評価。

「センパイ? センパイ、それもう水やらんでも」

そんなんさぁ? もうさぁ?
好きじゃんオタク特有の極論……
これから恋始まっちゃうやつじゃん。

「センパイちょっ、野菜溺れとる」

別に俺はユニコーンというわけでもない。武藤様に近づく人間みんなに殺意があるとかじゃないし、そりゃいつかは恋愛とか……なされるとは思ってる……けど今とは思わなくて、だって……

「センパイ!」
「べぶ」

べち、という音とともに、頬が何者かに挟まれる。何者かというか、ここには二人しかいないのだけども。

「獅童くん!? な、何ぃ!?」
「水、やりすぎ!」
「えっ……あ! うわぁあほんとだ!」

朝の旧校舎。
畑の様子見やら朝の水やりをしに行ったら、早く起きて学校の設備を覚えようと探検していた獅童くんにばったり会って。

旧校舎は本校舎から離れた場所にあるので、案内ついでに朝食を分けたら朝の作業を手伝ってくれることになったのだ。

「手伝ってもらってるのに……ごめんね、今日調子良くなくて……」
「いやいや、勝手に手伝っとるだけやし……センパイ、なんかあったん?」

さっきもジョウロ持ったままびしょ濡れになったし、製図も全然上手くいかないし、新しく作ってる庭で敷石を落として足を怪我しかけた。

「はっ、ぶし!! ああ~……ぐず、何かあったってほどじゃないけどさ」

だっておおむねは俺の邪推なのである。
武藤様が獅童くんに恋してる証拠なんてないし、でも気に入られてるのは本当だし……俺は嫌われてるのに……
邪推で、しかも獅童くんを巻き込んでぼーっとしてるなんて知られたらせっかくの威厳がなくなる気がする。元からないけど!

「ほんだら、今日くらいは休んだらよかったんに。律儀なお人ですねぇ」
「そんなことは……植物に触れてる方が、一人でいるより良いんだよ。こいつらには俺がいてやらないとダメだから……」

植物はいい。愛情をかければかけるほど返してくれるし、嘘もつかないし、俺がいないとダメなのだから。この間ketsuに『好きです』と言わせたが虚しくなりただ泣いた。やはり自分の意思で俺に愛を分け与えてくれる存在が欲しい。

「都会には変な人がおるもんやな……」

きもち俺に遠慮がなくなってきた獅童くんが若干引いていた。泣くぞ。

「そういやセンパイ、その病的な植物好きっていつからなん? センパイ確か普通の家出身とかやったですよね?」
「とうとう病的って言った」

全員に水を与え終われば、ひとまず世話は終わりだ。各々の葉の状態を見て害虫がいるようであれば潰したり、病気になっていたら対策を立てたり。

旧校舎の校舎の方に戻り、作業部屋として使っている一階の空き教室に入る。
ざっと洗った長靴を置き、ジョウロをかけ道具をそれぞれの場所に戻す。
窓の近く、陽の当たるところに製図台があり、庭園を作るときは概ねそこで製図している。

「小学校の頃、ときどき遊んでた奴がいてさ。運動苦手だったんだよ。俺単純だから、体動かさん何かならできるんじゃね? って思って、授業用の朝顔一緒に育ててさ」

ゲームも漫画もよくわからないという割に、ゲームもその時ハマってた将棋もボードゲーム系全部俺より上手くなって悔しかった思い出がある。

「植物育てんのだけは俺のがうまかったんだよね。それで得意になって、中学離れた後も趣味でこういうのしてたら依存してしまい」
「あ、依存の自覚はあったとですね」
「なかったら怖いだろ」

自費で購入したり元々置いてあったりした製図についての本や資料を引っ張り出し、獅童くんに渡す。初日に崩してしまった花壇を、どうせなら一から計画を立てて作りたいと言い出したので。

「懐かし~。今どうしてんのかなーあいつ」
「連絡とかとっとらんのです?」
「小学生の頃だしな……」

俺は一度優しくしてくれた人は忘れないが、相手はもう忘れていることだろう。親が再婚するということで引っ越していって以降、家も知らない。

「あ、でも」

母から届いた卒業アルバムにその子も載っていて驚いたのだけれど。

「生徒会役員にさ、同じ名前の人がいるんだよね。つっても下の名前だけだけど」
「へぇ! レオとかですか? むっちゃ覚えやすいですよね」
「流石にそれは同一人物すぎる。めちゃくちゃ覚えやすいけど」

わははは、と和やかな笑い声が空き教室に満ちる。
水瀬は朝は来てくれないから、いつも一人で作業していたのだ。クラファンのためのスケッチとかもここでしていた。
製図台の扱いは一通り教えたからか、おぼつかないながらも丁寧に扱ってくれているし。
なんだか平和という感じ。

「ま、フツーに公立小学校やったし……センパイみたいに親が急に成功したーとかやないと私立で見つけるんは難しいかも知らんですね」
「ないない、小学校で別れた友達と再会ってどんな確率だよ」

俺自体は普通にサラリーマンの父とパートの母だったのだが、母が本業の合間に描いていた漫画が異常に爆売れした。
困惑していたら、何に触発されたのか父が唐突に音楽で食って行き始めた上に引くほど売れていた。根暗なのに。

ついでにこの間小学生の甥が株でバカ儲けており、何故か俺に一部還元しようとしていたので止めた。

「先輩の家族なんなん?」
「全員ちょっと頭イカれてるんだよ」
「ほーん、先輩の家族やなぁ」
「ちょっと?」

俺はいかれてない。ちょっと依存が激しくてメンヘラ気質でプライドが高くてコミュニケーションが苦手で怠けものなだけだ。

そう怒れば、好きなものに一生懸命ってことですとフォローが入った。俺のコミュ障アイもコミュ障イヤーも反応しなかったので嫌味なしの本心である。大好き。

(ん?)

てか、俺。

(獅童くんに家族のこと、話したっけ……)

てかどこの小学校とか、家庭事情とか俺そんなこと話して……
いや怖い! やめようこの話! 俺の記憶がないだけ!! 俺の記憶がないだけ!!

ブンブンと頭を振ってよくない考えを飛ばそうとする俺を見て、獅童くんはびんぞこ眼鏡の奥で愛らしく笑っていたのだが。
もちろん俺がそれに気付くことはなかった。
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