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第6章 王宮生活<帰還編>
96、湧き出る不満<中>
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「将軍、これからの報告は機密事項になるのですが……」
姿勢正しく見事な礼を取った、若く有能そうな騎士の視線が、気まずそうに僕へと一瞬動いた。
うん、うん、分かっていますよ、騎士様
僕が邪魔だってコトは……
ここは、シルヴィス様の執務室。
シルヴィス様は執務室に相応しい、重厚な机と立派な椅子に深く腰かけて、部下からの報告を受けている真っ最中だ……膝に僕を乗せて。
僕は視線を受け、まずは執務机に1番近くでこちら側を向いて立っているシルヴィス様の副官であるタナー様に目を向けた。
僕の視線を受け、タナー様は重々しく頷く……この流れもいつも通りだ。
よしっ!今日こそは!!
僕はいつも以上に気合いを入れ、なるべく感情が入らないよう、平坦な声音を心がけ、シルヴィス様に話しかける。
「あの……シルヴィス様」
「なんだ?レン?」
これまで真顔で部下の報告を受けていたシルヴィス様は、一転、満面の笑みを浮かべて、即座に僕の顔を覗き込む。
心なしか頭痛がしてきたが……ここで怯んではならない……このシルヴィス様の対応も、今では通常通りなのだ。
だが、報告をしている騎士様の目には苛立ちが浮かび、両手で拳を作られるとギュッと握り締めたのを、僕は横目でチラリと確認する。
途端、シルヴィス様が怒りを露わにした。
「レン、なぜ余所見をするのだ!
私よりそちらの男が良いのか?」
そうシルヴィス様が言い放つと、部下の騎士様の顔色が変わり、ブルブルと顔を左右に振り続ける。
はぁ~っ
僕と、今はシルヴィス様の顔に隠れて見えないが、おそらく副官のタナー様も……大きなため息をついた。
「そうではなくてですね……シルヴィス様!
何度も言いますが、シルヴィス様の仕事場では、私は部外者なのです。
これから機密事項の報告があるとのこと。
私は退出したいと思います」
そう言って僕はシルヴィス様の膝から降りようとするが、当然ながら、それを阻止するシルヴィス様の怪力に、僕は勝てない。
「ならぬ」
「あのですね……シルヴィス様!」
もう何十回もしたやり取りで、またいつものように、シルヴィス様からの返しが僕に来た。
「機密事項を聞きたくないなら……レンはいつものように眠っていれば良い」
そう言うとシルヴィス様は、僕が反論する間もなく、僕の額を人差し指で軽く押す。
どういう仕組みなのか分からないが、これをシルヴィス様にされると、一瞬で僕の意識は失なわれ……身体の力も抜け落ち、シルヴィス様に身を委ねることとなる。
意識を失いつつも、僕は密かに、シルヴィス様も、もしかして加護持ち?と考えてしまう……後日シルヴィス様に直接聞いたら、笑いながら「意識を失わせるのは、コツがあるのだ」と言って、加護持ちのことは否定されたけれども。
このようにシルヴィス様は、帰還されてからは僕にベッタリで、片時も僕を離さない。
なお、王様であるアルフ様に呼ばれた時も同様で、僕は本当に冷や汗をかいた。
事情をよくご存知のアルフ様は、笑い飛ばされていたのが救いだったが、王妃カメリーア様の視線は鋭いままで……僕はシルヴィス様に抱き上げられたまま、せめて身を小さくするしかなかった。
ある意味、この行動のきっかけを作られたシルヴィス様の母上であるレイラ様には、ものすごく謝られたが、同時にあるお話も聞かされた。
今回のシルヴィス様の任務は大変壮絶だったようで、何でも敵は地元の利を生かしつつ、我が王国の民を人質に取り、その上、人質を盾にするような作戦ばかり取り続け……最終的にシルヴィス様が勝利を収められたのは奇跡と言われたらしい。
以前のシルヴィス様からは考えられないような行動の数々は、少なからず2年に渡った過酷な戦闘や心理的負担が大きく影響していることと、機密保持の観点から僕はシルヴィス様の動向を全く知らされていなかったが、シルヴィス様は意識がないまま置いてきた僕のことをひどく心配され、逆に僕の行動を逐一把握していたそうで……特に僕が目覚めてからは、すぐにでも会いたいのに、それが叶わない状況に、シルヴィス様が過多に持つ本能上、 相当の不満が溜まっていたようだ。
それらが爆発しているのが今の状況であり……すまないが、レン、耐えてくれ……とレイラ様直々に頭を下げられたら、僕もあまり強く、シルヴィス様を拒否することができなかった。
だが一般的に見て、このような状況が続くと、一国の軍を預かる将軍が、番であるオメガに溺れ切っているとの悪評が広がるのも事実である。
シルヴィス様は、ご自分の下に副官であるタナー様、タナー様の下に7つの部隊を持っていた。
7つの部隊の隊長、副隊長の総勢14名が特に優秀な能力を持っており、且つ彼らは、彼ら以上に頭脳も武力も優れ、最強アルファと呼ばれるシルヴィス様を誰よりも崇拝していて……噂では王様よりシルヴィス様に忠誠を誓っていると言われているため、別名、シルヴィス親衛隊とも呼ばれている。
今回の、いわば軍を揺るがす不祥事に、シルヴィス様に愛ある苦言を呈したのは、この親衛隊一同であった。
姿勢正しく見事な礼を取った、若く有能そうな騎士の視線が、気まずそうに僕へと一瞬動いた。
うん、うん、分かっていますよ、騎士様
僕が邪魔だってコトは……
ここは、シルヴィス様の執務室。
シルヴィス様は執務室に相応しい、重厚な机と立派な椅子に深く腰かけて、部下からの報告を受けている真っ最中だ……膝に僕を乗せて。
僕は視線を受け、まずは執務机に1番近くでこちら側を向いて立っているシルヴィス様の副官であるタナー様に目を向けた。
僕の視線を受け、タナー様は重々しく頷く……この流れもいつも通りだ。
よしっ!今日こそは!!
僕はいつも以上に気合いを入れ、なるべく感情が入らないよう、平坦な声音を心がけ、シルヴィス様に話しかける。
「あの……シルヴィス様」
「なんだ?レン?」
これまで真顔で部下の報告を受けていたシルヴィス様は、一転、満面の笑みを浮かべて、即座に僕の顔を覗き込む。
心なしか頭痛がしてきたが……ここで怯んではならない……このシルヴィス様の対応も、今では通常通りなのだ。
だが、報告をしている騎士様の目には苛立ちが浮かび、両手で拳を作られるとギュッと握り締めたのを、僕は横目でチラリと確認する。
途端、シルヴィス様が怒りを露わにした。
「レン、なぜ余所見をするのだ!
私よりそちらの男が良いのか?」
そうシルヴィス様が言い放つと、部下の騎士様の顔色が変わり、ブルブルと顔を左右に振り続ける。
はぁ~っ
僕と、今はシルヴィス様の顔に隠れて見えないが、おそらく副官のタナー様も……大きなため息をついた。
「そうではなくてですね……シルヴィス様!
何度も言いますが、シルヴィス様の仕事場では、私は部外者なのです。
これから機密事項の報告があるとのこと。
私は退出したいと思います」
そう言って僕はシルヴィス様の膝から降りようとするが、当然ながら、それを阻止するシルヴィス様の怪力に、僕は勝てない。
「ならぬ」
「あのですね……シルヴィス様!」
もう何十回もしたやり取りで、またいつものように、シルヴィス様からの返しが僕に来た。
「機密事項を聞きたくないなら……レンはいつものように眠っていれば良い」
そう言うとシルヴィス様は、僕が反論する間もなく、僕の額を人差し指で軽く押す。
どういう仕組みなのか分からないが、これをシルヴィス様にされると、一瞬で僕の意識は失なわれ……身体の力も抜け落ち、シルヴィス様に身を委ねることとなる。
意識を失いつつも、僕は密かに、シルヴィス様も、もしかして加護持ち?と考えてしまう……後日シルヴィス様に直接聞いたら、笑いながら「意識を失わせるのは、コツがあるのだ」と言って、加護持ちのことは否定されたけれども。
このようにシルヴィス様は、帰還されてからは僕にベッタリで、片時も僕を離さない。
なお、王様であるアルフ様に呼ばれた時も同様で、僕は本当に冷や汗をかいた。
事情をよくご存知のアルフ様は、笑い飛ばされていたのが救いだったが、王妃カメリーア様の視線は鋭いままで……僕はシルヴィス様に抱き上げられたまま、せめて身を小さくするしかなかった。
ある意味、この行動のきっかけを作られたシルヴィス様の母上であるレイラ様には、ものすごく謝られたが、同時にあるお話も聞かされた。
今回のシルヴィス様の任務は大変壮絶だったようで、何でも敵は地元の利を生かしつつ、我が王国の民を人質に取り、その上、人質を盾にするような作戦ばかり取り続け……最終的にシルヴィス様が勝利を収められたのは奇跡と言われたらしい。
以前のシルヴィス様からは考えられないような行動の数々は、少なからず2年に渡った過酷な戦闘や心理的負担が大きく影響していることと、機密保持の観点から僕はシルヴィス様の動向を全く知らされていなかったが、シルヴィス様は意識がないまま置いてきた僕のことをひどく心配され、逆に僕の行動を逐一把握していたそうで……特に僕が目覚めてからは、すぐにでも会いたいのに、それが叶わない状況に、シルヴィス様が過多に持つ本能上、 相当の不満が溜まっていたようだ。
それらが爆発しているのが今の状況であり……すまないが、レン、耐えてくれ……とレイラ様直々に頭を下げられたら、僕もあまり強く、シルヴィス様を拒否することができなかった。
だが一般的に見て、このような状況が続くと、一国の軍を預かる将軍が、番であるオメガに溺れ切っているとの悪評が広がるのも事実である。
シルヴィス様は、ご自分の下に副官であるタナー様、タナー様の下に7つの部隊を持っていた。
7つの部隊の隊長、副隊長の総勢14名が特に優秀な能力を持っており、且つ彼らは、彼ら以上に頭脳も武力も優れ、最強アルファと呼ばれるシルヴィス様を誰よりも崇拝していて……噂では王様よりシルヴィス様に忠誠を誓っていると言われているため、別名、シルヴィス親衛隊とも呼ばれている。
今回の、いわば軍を揺るがす不祥事に、シルヴィス様に愛ある苦言を呈したのは、この親衛隊一同であった。
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