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第5章 王宮生活<大祭編>

63、唯一の贈り物

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 もう一度全身を鏡でうつし、不備ふびがないこと確認した後、僕はよしっ、と1つうなずくと、式典しきてん前に一度、本日の会場となる大聖堂を見てこようと思い、支度したく部屋を出ようと扉へ向かった。

 だが、何か忘れているような気がして、もう一度部屋を振り返る。

 その時ちょうど鏡にうつされている自身の姿が、ふたたび目に入った。

 やはり装飾そうしょく品、今回は正装せいそうなので宝飾ほうしょく品が1つもないのは、味気あじけないかなぁ

 サラが身支度みじたくを手伝ってくれた時は、何かしら身につけたりしたけれど、生花せいかや髪に編み込む時のリボンなど、ちょっとした小物だったりして、こういった正装せいそう時に着用ちゃくようできる、宝飾ほうしょく品などのたぐいではなかった。

 かといって、宝飾ほうしょく品なんて、今まで必要なかったので、僕は購入こうにゅうしたこともないし

 少し考え込んでいた僕だったが、僕に所有権しょゆうけんがあり、着用ちゃくようできそうな物が、ただ1つだけあったのを思い出し、自室じしつに置いてある机に、急いでけ戻った。

 引き出しの奥をガサゴソあさり、目当ての小箱こばこを手元に引き寄せて、僕は箱を開ける。

 そこには、かざぼりや宝石など何もないが、表面がツルッと金色に輝いている指輪があった。

 これは、僕が3年もの眠りから目覚めた時、いつの間にか、指につけていたものである。

 まだその頃の僕は寝たきりで、自力じりきで起き上がることもできず、意識もぼんやりとしていたため、最初は双子の弟ライのものかなぁ~と思っていた。

 だがよくよく考えると、ライは着飾きかざるのが大好きで、たくさんの宝飾ほうしょく品を持ってはいたが、繊細せんさいかざぼりきらめく宝石が入っているものなどを好み、こんなシンプルなものを身につけている所を見たことがない。

 ライの好みのものではないし、自分で買った覚えもない

 はて一体いったい、誰のものだろうと首をかしげて、しげしげとその指輪をながめていた時に、偶々たまたま僕の見舞いにおとずれたレイラ様が、にこやかに笑みを浮かべながら、教えてくれたのだ……結婚したさい、シルヴィス様からおくられた物だと。

 この指輪はシルヴィス様のものとついで作られていて、表面にかざぼり一切いっさいないのは、剣をにぎることも多いシルヴィス様にとって、支障ししょうがないようにとの配慮はいりょからだった。

 指輪の裏側にはシルヴィス様からのメッセージと名前が書かれていて、その文言もんごんはレイラ様にも内緒ないしょにされているらしい。

 だから自分がいない時にでも確認してみて、とまるで少女のように、はにかみながら、レイラ様が教えてくれたっけ。

 僕はその指輪を箱の台座だいざからはずすと、頭上ずじょうかかげて、そのメッセージを口にした。

「我が運命を生涯しょうがい愛す」

 僕は眠っていて、全く交流こうりゅうもなかった時に、シルヴィス様はこの文言もんごんえて選ばれた。

 だけど運命っていうだけで、よく知りもしない者と、領地への援助問題という事情があったとはいえ、簡単に結婚してしまい、本当に生涯しょうがい、その者だけを愛し続けられるだろうか?

 胸に巣食すくう不安に、ズシリと心臓をつかまれた気がして、僕は思わず片手で胸を押さえた。

 もちろん、そんな僕の疑問に、誰からも答えはない。

 ただ、窓から入ってくる光を受けて、何も表面にかざりはないからこそ、指輪はいっそうキラキラと輝いた。

 今の僕にとって、その光はまぶしすぎるが、宝飾ほうしょく品はこれだけだ。

 少しの間、無言むごんで指輪の輝きをながめた後、目覚めた時にはめていた位置である、左手薬指に指輪をはめ、今度こそ僕は自室じしつを後にした。
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