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第5章 王宮生活<大祭編>

62、装うことへの理解

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 昨夜は幾分いくぶん緊張きんちょうしていて、すんなりと寝れなかったが、今朝の目覚めは悪くなく……僕は安心のあまり、ホッと息をついた。

 今日は、いよいよ大祭たいさい当日。

 カーテンを勢いよく開けると、こぼれんばかりの光が、燦々さんさんと部屋に差し込んでくる。

 うん、いい天気

 だが目をらすと、はるか遠くにかすかだが、真っ黒い雲が見えた。

 しゅとなる会場の大聖堂は、招待した諸侯しょこうたちで満員となり、そのともをした者たちは、外に準備された天幕てんまくでの待機たいきとなる。

 なるべく式典しきてんが終わるまでは、この晴天が続けばいいのだけれど

 天候てんこうの心配をしながら、僕は朝食を取るべく、一旦いったん窓際まどぎわを離れた。

 そして朝食を終え、さっそく服に着替えようと、支度したく部屋へ入る。

 そこには、昨日アルフ様の使いの方から届けられた、今日のために仕立したててられた服が、けられていた。

 アルフ様のご厚意こういに甘えた以上、僕から要望を伝えることはしなかったし、それより供物くもつ祈祷きとうのことなどで、むしろすっかり忘れていたが……昨日届けられた服を初めて見た時、そういえば服の色で迷っていたことを、思い出したのであった。

 王族としてこん色をまとうのか、それとも、今回は大祭たいさいという行事、かつ加護かごを持つゆえに、神につかえる神官として白色を着用ちゃくようするのか……ローサとクローネでさえ、答えが出なかったっけ

 この問題は、その後、レイラ様に問い合わせたところで、あっさりと解決かいけつした……どちらでも、自分の好きな方を着てもよいという回答と共に。

 僕が供物くもつ祈祷きとうなど、教会と少なからず関わっていることを、レイラ様はもちろんすでに、ご存知ぞんじであった。

 諸侯しょこうたちも、立場上、加護かご持ちという存在自体は知っている。

 そして今回、僕の供物くもつ祈祷きとうが教会側から深く感謝され、今後も協力して欲しいとの要請ようせいが新たにあったそうで、今後は教会の行事に、加護かご持ちである僕が、積極的に参加すると、公表こうひょうすることになったそうだ。

 なので、もし僕が神官の色を選んでも差しさわりはない……と、レイラ様から僕は、教えていただいた。

 レイラ様の見解けんかいを聞いて安心していた僕だったが、届けられた服を見た途端とたん、アルフ様の気遣きづかいと手配てはいの素晴らしさに、僕は感嘆かんたんのあまり、しばらく言葉が出てこなかった。

 服の知識にとぼしい僕でさえ、ひと目で分かる、最高級の素材を使用している真っ白な神官服と、その上にかさねて着用ちゃくようするようになっているこん色の羽織はおり。

 羽織はおりには、王族だけが使用できる紋様もんようが全体にみ込まれており、真っ白な神官服の上に羽織はおることで、紋様もんようがクッキリと浮かび上がり、着用ちゃくようする人物が、王族であることを、はっきりと示すようになっていた。

 アルフ様が言ったように、確かに僕個人でこんな短期間に、ここまでの衣装は用意できない。

 1日外出許可を貰って、どこかのお店でこん色の服を購入するか、最悪、ロイに頼み込んで、神官服の予備よびを借りようと思っていた自分を、僕は深く反省した。

 しかも王家の紋様もんようあつかえるお店って……アルフ様、なんで知ってるの?

 これ以上の失礼をかさねないためにも、この大祭たいさいが無事終わったら、事情じじょうを知っていそうなセリム様に、アルフ様の身分を教えてもらおうと、僕は心に決めた。

 さて、さっそく着用ちゃくようしようと服を手にとれば、極上ごくじょう光沢こうたくなめらかさに、自然と笑みが浮かんでくる。

 そんな衣装を着用ちゃくようした僕は、自然と背筋せすじが伸び、見た目だけ、それなりの威厳いげんがあるように見えた。

 なるほど……よそおうということは、ある意味、力をつけることでもあるのだ

 あれからそれなりに色んなことがあったせいで、すっかり遠い過去となってしまったが、以前、服装をめぐるサラとの攻防こうぼうを思い出し、あながちサラの言い分も間違っていなかったと、本当に今更いまさらながら、僕は思い知る。

 本人は届かないことを承知しょうちしながらも、心の中で「サラ、ごめん」と、僕は小さな声で謝った。
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