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第4章 王宮生活<大祭準備編>

60、忘れていた服装問題<中>

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 どうしてだろうか?

 今日は、アルフ様から猛烈もうれつな寂しさを感じる……しかも僕にとって、すごく親近しんきん感がある……あきらめがじった悲しさ

 その気持ちの厄介やっかいさを知っているだけに、気がつくと、僕はつい、言葉をかさねていた。

「実は、今、少しだけ修行のようなことをしてまして……神力しんりょくが前よりもきたえられた感じがするんです。

 コントロールも何とかできるようになったので、一度、ためしてみたいことがあります。

 無理にとは言いませんが、良かったら少しだけ、付き合っていただけたら、うれしいのですが……」

 アルフ様の負担ふたんにならないように……あくまでも、僕がやってみたいだけだと、言葉を選んで、提案してみる。

 まようかのように、しばらくの間、ゆかを見つめながら考え込んでいたアルフ様だったが、やがて小さくため息をつくと、僕を真っぐに見つめながら、こう申し出た。

「そうだな……この、気を抜くとおそってくる異様いようだるさは、いろいろためしたが、やっぱり取りのぞくことができなかった。

 セリム不在のため、前回と違うアプローチをしてくれるのなら、そなたの実験台になってもいいかもしれない」

 そう言うアルフ様の浮かべた笑みが、あまりにもはかなかったので、なぜか僕は胸騒ぎがした……しかも良くない方の。

 いけない、この太陽のようなお方が、まるで暗闇くらやみしずんでいきそうだ

 僕はいきおいよく立ち上がると、テーブルをまわり、前回のように、アルフ様の足元にひざまずいた。

 しかし、突然、さらうかのように僕の腰に、暖かく力強い腕がまわされ、気が付いたら、僕はアルフ様の真横まよこに座っていた。

 えぇっ!?

 身長差があるせいで、真横まよこに座っても、僕とアルフ様の目線の高さは違う。

 驚いて目を見開いたまま見上げた僕を、アルフ様はせつなげな笑みを浮かべながら見下ろし、僕の目をのぞき込んで、しっかり目線を合わせ、こう言われた。

「約束だ、レンヤード。
 決してこの前のように、限界げんかいまで神力しんりょくを使うな。
 これは、あくまでも実験だ……だから上手くいかなくても、私は気にしないし、レンヤードの責任ではない。

 こうして横に座らせたのは、万が一のためだ。
 もし、前回のように力を使いぎて倒れそうになっても、私の横で座っていれば、私がすぐに支える……だから、安心してくれ」

 アルフ様はそう言うと、僕の目の前に、手を差し出した。

「では、よろしく頼む、レンヤード」

 僕は、深みのあるアルフ様の声で、初めて自分の名を呼ばれたことに衝撃しょうげきを受け、一瞬、強い眩暈めまいおそわれる。

 だが、アルフ様の差し出された手が、視界に入ってくると、すぐ我に返った。

 危なかった
 持っていかれるところだった

 その時、持っていかれそうだった何かをさぐることに、僕の本能は拒絶きょぜつすると同時に、恐れを感じた。

 なので僕は、即座そくざ思考しこうごと停止させる。

 それよりも今はアルフ様を、少しでもこちら側に引き止めることが先決せんけつ

 ハッとひと息いて、僕は気持ちを切り替える。

 落ち着いて考えろ、レンヤード

 アルフ様から言われた通り、今回僕が倒れても、回復させてくれるセリム様はいないため、前回と同じ、邪気じゃきはら神力しんりょく発動はつどうする方法は使用できない

 あの方法は、邪気じゃきをアルフ様から引きく代わりに、その穴埋あなうめとして、僕の神力しんりょくが根こそぎ使われ、結果として、僕が持たなくて、倒れてしまうからだ

 だから、別の方法が必要だが……今、僕があつかえるのは、祝福しゅくふくだけだ

 祝福しゅくふくは、僕からしてみれば、相手の幸せを願い、神力しんりょくをたださずけるだけ

 その祝福しゅくふくという方法で、あの邪気じゃきを取りのぞくことができるのだろうか

 差し出されたアルフ様の手を見つめながら、考え込んでいた僕だったが、突然、ある考えが、かみなりのごとく舞いりる

 できる!
 祝福しゅくふくでも、この方法なら!!

「レンヤード?」

 不思議そうな顔をしたアルフ様が僕を呼んでくれたが、僕はこれから行うことで頭がいっぱいで、返事が出来なかった。

 少しななめに僕は身体からだをずらして、アルフ様の方を向くと、今度こそアルフ様の手を取り、軽くひたいに当てた。

 まずは深呼吸。

 軽く目を閉じ、意図いとして神力しんりょくを1箇所に集めるよう、頭の中でイメージすると……僕の中で神力しんりょくが、どんどん、どんどん、ゆっくりと丸いたまになって、たまっていく。

 ある程度の大きさまでなったら、その大きさを維持いじしながら、密度みつどくするかのように、え間なく、さらに神力しんりょくそそいだ。

 僕のこめかみに、汗が一筋ひとすじ流れたが、それをぬぐう余裕もない。

 次にアルフ様を走査スキャン

 あった……ちょうど、左胸、臓器ぞうきである心臓の上にかさなるように、拳大こぶしだいの黒いきりのようなかたまりが見えた。

 これが、今回の標的ひょうてきだ。

 あくまでも僕の想像上だが、僕のひたいからアルフ様の手を伝わり、めた僕の神力しんりょくが、標的ひょうてきの黒いかたまり幾重いくえにも包み込むように、送り続ける。

 そう、いいぞ、あと少し

 汗が顔からしたたり落ちるが、これも僕は気にならなかった。

 黒いかたまりを完全に僕の神力しんりょくで包み込めた時、みっしりと集めた神力しんりょくで、このかたまりを押しつぶして、微塵みじん破壊はかいするようなイメージを脳裏のうりえがく。

 今だ!

 僕はおごそかに、口を開く。

「この者に祝福しゅくふくを!」

 ドンっと、見えない波動はどう引火いんかしたかのように発動はつどうして、アルフ様の身体からだが一度大きくれた。

 バタバタバタっ

 突如とつじょ、僕たち2人のまわりを、何人かにかこまれた気配けはいがした。

「くっ……大事ない……こちらに来るな!
 ひかえよ!!」

 そうアルフ様が大声をり上げると、戸惑とまどうような、ざわつきが耳に入る。

 だが、アルフ様の命令に一先ひとましたがうことにしたのか、複数の気配けはいは遠ざかっていった。

 僕は、ゆっくりと目を開く。

 目の前には、左胸を片手で押さえ、はぁはぁと、せわしなくあらい息をするアルフ様が見えた。

 呼吸をするのがまだ苦しそうが、顔色は格段かくだんに良くなったような気がした……何よりやみ気配けはいが消え去った。

「驚かせてすみません。
 しかし、脅威きょういぎ去りました」

 とりあえず僕は、真っ先にアルフ様に向かって、謝りの言葉を口にした。

 そして僕はすぐ、にぎっていたアルフ様の手を離し、ソファの座面ざめんに両腕を付き、今にもくずれ落ちそうな自分の身体からだを、なんとか自身で支える。

 その時、フワッと暖かいものに、まるで大事なものをかかえ込むかのように、僕の身体からだがそっと抱きしめられた。

 思いがけない感触かんしょくに、思わず顔を上げた僕の瞳に、心配そうにれ動くアクアマリンの瞳がうつる。

「大丈夫か?
 随分ずいぶんと無理をさせた。
 だが、またしても、そなたに救われた……感謝する」

「ええっ?!はっ…はい」

 あまりにも間近まぢかで、感謝の言葉をべられたアルフ様に、僕は動揺どうようかくしきれず、返事をするだけで精一杯せいいっぱいだった。
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