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第4章 王宮生活<大祭準備編>
53、苦闘の供物管理<前>
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お茶会のローサの態度から幾分覚悟はしていたものの……僕の役割である供物管理は、最初から難航していた。
まず、お茶会でローサから申し出てくれた、供物管理方法の書類が、いくら待っても届かない。
書類を待っている間に頬の傷はすっかり癒え、僕のお茶にだけ何か入っていた件についても考えを巡らせていたが、現状の、侍女もいない僕1人だけでは、調べる方法さえ思いつかなかった。
王妃様とはあの時が初対面で、何か恨まれるような原因についても、特に心当たりもない。
なので、今後は他所でお茶を飲む機会があるならば、すぐには飲まず、あの不思議な能力で確かめてから飲むくらいの、自衛手段を取ることを決めたくらいだ。
そもそも書類の件は、衝撃的なお茶のアクシデントがあったとはいえ、せっかく教授してくれようとした、ローサの話に集中できなかった僕が悪い。
その上、待ってるばかりの受け身の態度も良くないだろうと思って、廊下を歩いている侍女たちに聞きまくりながら、僕はローサがいる宮へ行ってみた。
けれども……
「こんな前触れもなく、いきなり来られても困ります。
それに事前のお約束がなければ、ローサ様は神祭関連の打ち合わせで、ほとんど部屋にはいらっしゃいません」
相変わらず僕にだけ塩対応のサラに、キッパリと跳ね除けられる。
しかし、ここで諦める訳にはいかない。
王妃様からの命でもあるし、わざわざ僕の役割を聞いてくれたレイラ様や、妃として関わる以上、シルヴィス様に対する評判の低下にも繋がるからだ。
状況的に全く違うし、例えも良くないかもしれないが、以前領地で、出せる財力があるにも関わらず、なかなか税を納めようとしなかった領民の説得のために、何回もその領民の元へ通った経験は豊富にあるので、今回もそのようなものだと思い、言われた通りに朝昼晩とローサがいる宮へ通った。
なんせ前触れを出すにも、頼む人もいないので、自分で出しに行かなければならないからだ。
さらに数日間かけてローサ宮詣でを行うと、ようやく呆れた顔をしたサラから、1枚の紙を渡された。
「レンヤード様は前と変わらず……ご自分の信念を押し通されるのですね」
頬の傷は治ったものの、ローサ本人に撫でられた扇の感触と傷付けられた衝撃は、まだ濃厚に僕の記憶へ刻み付けられたままだ。
そのため、本人に会わずに書類を入手出来たことに、正直、僕は安堵したものの……また新たな問題が発覚した。
大きなため息と明らかな嫌味を言われながらも、渡された1枚の紙を、その場でさっそく僕は食い入るように見たところ、そこには、用意すべき供物名と数量が書かれていただけだったが、ザッと目を通しただけでも、明らかに数が足りない。
「この数は……!」
勢いよく言いかけた僕を止めるかのように、サラは恭しく頭を下げて、こう宣言した。
「私どもが用意出来たのは、ここまでです。
これより先はレンヤード様の管轄になりましたので、後はレンヤード様にお任せします、と我が主人、ローサからの伝言です」
「なっ……」
そう言われると、これ以上僕は何も言えない。
しばやく呆然と頭を下げ続けているサラを僕は見つめていたが、ここにいても何が出来る訳でもない。
仕方なしに、僕は通い慣れた道を引き返した。
だから、部屋の扉が少し開いて、ローサが笑みを浮かべながら、肩を落としてトボトボと歩く、僕の後ろ姿を見ていたとは、ずっと後に偶然その場面を見ていた、通りすがりの侍女から聞かされるまで……僕は気が付かなかった。
まず、お茶会でローサから申し出てくれた、供物管理方法の書類が、いくら待っても届かない。
書類を待っている間に頬の傷はすっかり癒え、僕のお茶にだけ何か入っていた件についても考えを巡らせていたが、現状の、侍女もいない僕1人だけでは、調べる方法さえ思いつかなかった。
王妃様とはあの時が初対面で、何か恨まれるような原因についても、特に心当たりもない。
なので、今後は他所でお茶を飲む機会があるならば、すぐには飲まず、あの不思議な能力で確かめてから飲むくらいの、自衛手段を取ることを決めたくらいだ。
そもそも書類の件は、衝撃的なお茶のアクシデントがあったとはいえ、せっかく教授してくれようとした、ローサの話に集中できなかった僕が悪い。
その上、待ってるばかりの受け身の態度も良くないだろうと思って、廊下を歩いている侍女たちに聞きまくりながら、僕はローサがいる宮へ行ってみた。
けれども……
「こんな前触れもなく、いきなり来られても困ります。
それに事前のお約束がなければ、ローサ様は神祭関連の打ち合わせで、ほとんど部屋にはいらっしゃいません」
相変わらず僕にだけ塩対応のサラに、キッパリと跳ね除けられる。
しかし、ここで諦める訳にはいかない。
王妃様からの命でもあるし、わざわざ僕の役割を聞いてくれたレイラ様や、妃として関わる以上、シルヴィス様に対する評判の低下にも繋がるからだ。
状況的に全く違うし、例えも良くないかもしれないが、以前領地で、出せる財力があるにも関わらず、なかなか税を納めようとしなかった領民の説得のために、何回もその領民の元へ通った経験は豊富にあるので、今回もそのようなものだと思い、言われた通りに朝昼晩とローサがいる宮へ通った。
なんせ前触れを出すにも、頼む人もいないので、自分で出しに行かなければならないからだ。
さらに数日間かけてローサ宮詣でを行うと、ようやく呆れた顔をしたサラから、1枚の紙を渡された。
「レンヤード様は前と変わらず……ご自分の信念を押し通されるのですね」
頬の傷は治ったものの、ローサ本人に撫でられた扇の感触と傷付けられた衝撃は、まだ濃厚に僕の記憶へ刻み付けられたままだ。
そのため、本人に会わずに書類を入手出来たことに、正直、僕は安堵したものの……また新たな問題が発覚した。
大きなため息と明らかな嫌味を言われながらも、渡された1枚の紙を、その場でさっそく僕は食い入るように見たところ、そこには、用意すべき供物名と数量が書かれていただけだったが、ザッと目を通しただけでも、明らかに数が足りない。
「この数は……!」
勢いよく言いかけた僕を止めるかのように、サラは恭しく頭を下げて、こう宣言した。
「私どもが用意出来たのは、ここまでです。
これより先はレンヤード様の管轄になりましたので、後はレンヤード様にお任せします、と我が主人、ローサからの伝言です」
「なっ……」
そう言われると、これ以上僕は何も言えない。
しばやく呆然と頭を下げ続けているサラを僕は見つめていたが、ここにいても何が出来る訳でもない。
仕方なしに、僕は通い慣れた道を引き返した。
だから、部屋の扉が少し開いて、ローサが笑みを浮かべながら、肩を落としてトボトボと歩く、僕の後ろ姿を見ていたとは、ずっと後に偶然その場面を見ていた、通りすがりの侍女から聞かされるまで……僕は気が付かなかった。
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