上 下
54 / 85
第4章 王宮生活<大祭準備編>

53、苦闘の供物管理<前>

しおりを挟む
 お茶会のローサの態度から幾分いくぶん覚悟かくごはしていたものの……僕の役割である供物くもつ管理は、最初から難航なんこうしていた。

 まず、お茶会でローサから申し出てくれた、供物くもつ管理方法の書類が、いくら待っても届かない。

 書類を待っている間にほおの傷はすっかりえ、僕のお茶にだけ何か入っていた件についても考えをめぐらせていたが、現状の、侍女じじょもいない僕1人だけでは、調べる方法さえ思いつかなかった。

 王妃様とはあの時がしょ対面で、何かうらまれるような原因についても、特に心当たりもない。

 なので、今後は他所よそでお茶を飲む機会があるならば、すぐには飲まず、あの不思議な能力で確かめてから飲むくらいの、自衛じえい手段を取ることを決めたくらいだ。

 そもそも書類の件は、衝撃しょうげき的なお茶のアクシデントがあったとはいえ、せっかく教授してくれようとした、ローサの話に集中できなかった僕が悪い。

 その上、待ってるばかりの受け身の態度も良くないだろうと思って、廊下を歩いている侍女じじょたちに聞きまくりながら、僕はローサがいる宮へ行ってみた。

 けれども…… 

「こんな前触まえぶれもなく、いきなり来られても困ります。
 それに事前じぜんのお約束がなければ、ローサ様は神祭しんさい関連の打ち合わせで、ほとんど部屋にはいらっしゃいません」

 相変あいかわらず僕にだけ塩対応のサラに、キッパリとけられる。

 しかし、ここであきらめる訳にはいかない。

 王妃様からのめいでもあるし、わざわざ僕の役割を聞いてくれたレイラ様や、妃として関わる以上、シルヴィス様に対する評判の低下にもつながるからだ。

 状況的に全く違うし、例えも良くないかもしれないが、以前領地りょうちで、出せる財力ざいりょくがあるにも関わらず、なかなか税をおさめようとしなかった領民りょうみんの説得のために、何回もその領民りょうみんの元へ通った経験は豊富にあるので、今回もそのようなものだと思い、言われた通りに朝昼晩とローサがいる宮へ通った。

 なんせ前触まえぶれを出すにも、頼む人もいないので、自分で出しに行かなければならないからだ。

 さらに数日間かけてローサ宮もうでを行うと、ようやくあきれた顔をしたサラから、1枚の紙を渡された。

「レンヤード様は前と変わらず……ご自分の信念を押し通されるのですね」

 ほおの傷は治ったものの、ローサ本人にでられたおうぎ感触かんしょくと傷付けられた衝撃しょうげきは、まだ濃厚のうこうに僕の記憶へきざみ付けられたままだ。

 そのため、本人に会わずに書類を入手にゅうて出来たことに、正直、僕は安堵あんどしたものの……また新たな問題が発覚はっかくした。

 大きなため息と明らかな嫌味を言われながらも、渡された1枚の紙を、その場でさっそく僕はるように見たところ、そこには、用意すべき供物くもつ名と数量が書かれていただけだったが、ザッと目を通しただけでも、明らかに数がりない。

「この数は……!」

 いきおいよく言いかけた僕を止めるかのように、サラはうやうやしく頭を下げて、こう宣言せんげんした。

「私どもが用意出来たのは、ここまでです。
 これより先はレンヤード様の管轄かんかつになりましたので、後はレンヤード様におまかせします、と我が主人、ローサからの伝言です」

「なっ……」

 そう言われると、これ以上僕は何も言えない。

 しばやく呆然ぼうぜんと頭を下げ続けているサラを僕は見つめていたが、ここにいても何が出来る訳でもない。

 仕方なしに、僕は通い慣れた道を引き返した。

 だから、部屋の扉が少し開いて、ローサが笑みを浮かべながら、肩を落としてトボトボと歩く、僕の後ろ姿を見ていたとは、ずっと後に偶然ぐうぜんその場面を見ていた、通りすがりの侍女じじょから聞かされるまで……僕は気が付かなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

無自覚副会長総受け?呪文ですかそれ?

あぃちゃん!
BL
生徒会副会長の藤崎 望(フジサキ ノゾム)は王道学園で総受けに?! 雪「ンがわいいっっっ!望たんっっ!ぐ腐腐腐腐腐腐腐腐((ペシッ))痛いっっ!何このデジャブ感?!」 生徒会メンバーや保健医・親衛隊・一匹狼・爽やかくん・王道転校生まで?! とにかく総受けです!!!!!!!!!望たん尊い!!!!!!!!!!!!!!!!!! ___________________________________________ 作者うるさいです!すみません! ○| ̄|_=3ズザァァァァァァァァァァ

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

Tally marks

あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。 カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。 「関心が無くなりました。別れます。さよなら」 ✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。 ✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。 ✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。 ✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。 ✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません) 🔺ATTENTION🔺 このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。 そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。 そこだけ本当、ご留意ください。 また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい) ➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。 ➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。 ➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。 個人サイトでの連載開始は2016年7月です。 これを加筆修正しながら更新していきます。 ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。

王太子殿下は悪役令息のいいなり

白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエルがなんだかんだあって、兄達や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑でハチャメチャな毎日に奮闘するノエル君の物語です。 若干過激な描写の際には※をつけさせて頂きます。

処理中です...