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第4章 王宮生活<大祭準備編>

48、ローサの提案

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儀式ぎしきが始まる前に、王都から遠い諸侯しょこうから、王様は謁見えっけんされると聞いております」

 ローサは事実確認をするためか、王妃様にまず問いかける。

「あぁ、そうだ。
 王都から遠い諸侯しょこうにとって、王への連絡手段が、普段は書簡しょかんのみ。
 直接顔を見て、言葉をわす機会が滅多めったにないことと、王が代替だいがわりしたことで、訴状そじょうの数も増えたことから、そういうことになったらしい」

 王妃様がよりくわしく説明してくれたので、今の王様と諸侯しょこうの関係を、少しだけ僕も把握はあくすることが出来た。

 訴状そじょうが増えているのか……治世上ちせいじょう、それはあまり良くないな……王妃様が懸念けねんし、神祭しんさいの成功に力を入れるワケだ

 いまだお会いしたことのないげん王の、治世ちせいへの苦心くしんを、僕は垣間かいま見るような気がした。

遠方えんぽうから招待される諸侯しょこうの数も多く、今回はそちらの方々かたがたとの謁見えっけんを優先させるため、王都付近の諸侯しょこう方々かたがたとの謁見えっけんは、次回に見送られたともお聞きしました」

 さすがの情報収集力しゅうしゅうりょくだ、と僕はローサに感心した。

 通常、王族と婚姻こんいん関係を結ぶのは有力貴族なので、ローサの実家も大きな力を持つ諸侯しょこうの1人なのだろう。

「ローサの言う通りだ、そのように王からは聞いている」

 王妃様も、うんうんとうなずきながら、答えられた。

「今回は謁見えっけんのため、儀式ぎしき開始時刻を2時間程遅らせたと聞いております。
 本来なら、ここ王都で行われる神祭しんさいは、王都付近ふきん諸侯しょこうが参加します。
 グーノーしん日頃ひごろの感謝をささげる祭りですので、かく領地りょうちごとで行われるのが一般的な形ですから。

 もちろん、遠方えんぽう領地りょうちかまえる方々かたがたにとって、大切な神祭しんさいの時期に、招待されたとはいえ、自己負担で王都へ行く以上、何らかの手土産なしに帰る訳にはいかないことも理解しております。
 ですが、日頃ひごろ、ここ王都の平和を維持いじするために尽力じんりょくしているのは、王都周辺の貴族でして、今回はそちらの方々かたがたから、不満の声が上がっております」

 ローサは、ここで一旦いったん発言を切り、目をせた。

「そうなのだ、ローサが申したことが、まさに今回の大きな心配事でもある」

 ローサの見聞けんぶん同調どうちょうした王妃様は、挨拶あいさつのために侍女じじょに預けていたおうぎを持ってこさせると、パサっと開き、口元に当てた。

 ため息をおうぎで隠すところはさすがだな……と僕は心の内で王妃様を賞賛しょうさんし、なおも様子をうかがっていると、意を決したように、ローサは顔を上げた。

「先ほど提案がありますと私が申し上げたのは、まさしくこの問題点を解消かいしょうしたいと思ったからでございます。
 王様が遠方えんぽうからまいられた諸侯しょこう謁見えっけんされている間、今回謁見えっけんを見送られた諸侯しょこうがたを、私たちがもてなすのはいかがでしょう?」

「もてなすだと?どうやって?
 それにこの時期では、すでに予算や人員じんいん分配ぶんぱい済みで、大きなことをするのは、難しい」

 未だ口元に広げたおうぎを当てたまま、少しだけまゆを寄せて、王妃様がローサに問う。

「実は我が実家も、謁見えっけんを見送られた一族でございます。
 ですので、今回は我が実家が、謁見えっけんが次回に持ち越しになった方々かたがたと、懇親こんしんを行うという形でもてなし、その最中さいちゅうに、私たちが少しだけ顔を出し、挨拶あいさつされてみてはいかがでしょうか?

 懇親こんしんの場に提供する飲食などは、もちろん私の実家が用意するので、王家の負担ふたんはございません。
 ですが、王妃様はじめ、私たちが挨拶あいさつすることで、王家が王都周辺の諸侯しょこうのことも、気にかけていると示すことができると思います」

 ローサは一気に提案内容を披露ひろうすると、また目をせた……王妃様の判断を待つようだ。

 部屋は緊張感で一層いっそうシーンと静まり返った。
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