42 / 97
第3章 王宮生活<始動編>
41、癒しのチカラ<後>
しおりを挟む
「レンヤード」
アルフ様は、呆然として僕の名前を呼んだ後、ゆっくりと息を吐かれた。
なんだか、身体が重い。
こんなこと今まで一度もなかったから……きっと失敗したに違いない。
僕はアルフ様の手を、失礼にならない程度に急いで解放し、慌ててその場にうずくまり、謝罪を口にした。
「申し訳ありません」
「何がだ?」
困惑したアルフ様の声が、僕の頭上から聞こえる。
「あのぉ……どうやら……失敗してしまったようでして……誠に申し訳ありません」
僕は息を切らしながら、さらに身体を縮めて謝った。
「逆だ、レンヤード」
アルフ様は、笑みを浮かべてそう言われた。
「えっ?」
僕は訳が分からなくなって、顔を上げてしまう。
アルフ様が僕の目線に合うように、ゆっくりとかがみ込まれた。
「大成功だ、レンヤード!
今の位に就いて以来、苛まれるような頭痛に時折襲われ……その頻度が段々と短くなっていった。
あらゆることを試してみたが、痛みの程度が抑えられるだけで、頭痛そのものがなくなることは、残念ながら……なかったのだ。
それが、今はどうだ?
すっかり頭痛が消え、身体が軽い!!
私は、未だかつてない、清々しさを感じている!
礼を言うぞ、レンヤード」
「えっ……と……」
僕は理解が追いつかなくて、振り返ってセリム様を見つめる。
セリム様も僕を静かに見つめ返して、こう言った。
「レンヤード、そなたは、邪気を祓う神力を発動したのだ」
「邪気を祓う神力?」
聞き慣れない言葉に、僕はただ、セリム様の言葉を繰り返した。
そんなこと、今まで聞いたことないんだけど……
そう思うと同時に、僕は軽い眩暈に襲われ、視界がグニャリと歪んだ。
咄嗟に片手で両目を覆い、もう片手で床に手をついて、フラつく身体を自分で支えるようにする。
「「レンヤード!!」」
セリム様とアルフ様が、同時に僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
しまった!
床についた手は、通常なら杖代わりになり、僕の身体を支えるはずだが……今回は腕に全く力が入らず、カクンと更に身体が傾いていく。
あっ、支えきれない!!
床に身体が崩れ落ちることを覚悟したその時、僕の身体は、力強い腕にギュッと抱き止められ……次にフワリとした浮遊感を感知した。
気がつくと、側にあったソファに、僕は仰向きに寝かされていた。
僕の額に誰かの手が、当てられているのを感じる。
「アルフ!」
セリム様の少し焦った声が、近くで聞こえた。
「大丈夫か?
すまない……無理をさせたようだ。
セリムに診てもらおう」
まだボヤッとした視界に、澄んだアクアマリンが映る。
キレイだなぁ……
僕は思わず、小さく呟いていた。
その後、額にあった温もりがそっと引いていき……僕はそのことを、なぜか寂しいと思ってしまった。
ええっ!
自身の思わぬ心の動きに、僕が戸惑っていると、今度はひんやりとした手のひらが、僕の額に乗せられる。
「レンヤード……気分はどうだ?」
スーッとした清涼感が、僕の身体を通り抜け、眩暈が次第に治ってくる。
ゆっくりと目を開けると、セリム様の顔が案外近くにあり、僕は驚きのあまり、身体をビクッと揺らしてしまった。
「ご迷惑かけて申し訳ありません」
僕は、慌てて身体を起こそうとすると、セリム様に止められる。
「レンヤード、まだ、起き上がってはダメだ。
それにしても……まさか、アルフの精神に根付いた邪気を、全て取り払ってしまうとは。
普通なら意識を失い……下手したら、そのまま息が止まっていたぞ」
淡々と言うセリム様のこめかみから、一粒、汗が伝い落ちる。
「あのままだと、アルフ様の呼吸が止まっていたということですか?」
意識がまだぼんやりとしており、頭が働かない。
僕は確認のため、そう聞き返した。
「違う!そなたのだ!
シルヴィスから、くれぐれもそなたの事をよろしく頼むと言われているのに……本当に無事でよかった」
うそ!
シルヴィス様は、そんなお願いをしてたの?
冷え切っていた僕の心に、じんわりと温かさが灯る。
「セリム様は、シルヴィス様のお知り合いですか?」
僕は俄かに信じられなくて……もう一度セリム様に聞き直してしまった。
「そうだ、セリムはシルヴィスの古くからの友人だ。
ちなみに、私とシルヴィスも仲は良いぞ」
僕のセリム様への質問に、またしてもアルフ様が答えた。
「アルフ!……あなたという人は」
セリム様が思わずといったように、苦笑いをする。
「だから、困ったことがあったら、いつでも我々を頼るがよい」
そう言って、アルフ様は太陽のように、カラリと笑った。
アルフ様は、呆然として僕の名前を呼んだ後、ゆっくりと息を吐かれた。
なんだか、身体が重い。
こんなこと今まで一度もなかったから……きっと失敗したに違いない。
僕はアルフ様の手を、失礼にならない程度に急いで解放し、慌ててその場にうずくまり、謝罪を口にした。
「申し訳ありません」
「何がだ?」
困惑したアルフ様の声が、僕の頭上から聞こえる。
「あのぉ……どうやら……失敗してしまったようでして……誠に申し訳ありません」
僕は息を切らしながら、さらに身体を縮めて謝った。
「逆だ、レンヤード」
アルフ様は、笑みを浮かべてそう言われた。
「えっ?」
僕は訳が分からなくなって、顔を上げてしまう。
アルフ様が僕の目線に合うように、ゆっくりとかがみ込まれた。
「大成功だ、レンヤード!
今の位に就いて以来、苛まれるような頭痛に時折襲われ……その頻度が段々と短くなっていった。
あらゆることを試してみたが、痛みの程度が抑えられるだけで、頭痛そのものがなくなることは、残念ながら……なかったのだ。
それが、今はどうだ?
すっかり頭痛が消え、身体が軽い!!
私は、未だかつてない、清々しさを感じている!
礼を言うぞ、レンヤード」
「えっ……と……」
僕は理解が追いつかなくて、振り返ってセリム様を見つめる。
セリム様も僕を静かに見つめ返して、こう言った。
「レンヤード、そなたは、邪気を祓う神力を発動したのだ」
「邪気を祓う神力?」
聞き慣れない言葉に、僕はただ、セリム様の言葉を繰り返した。
そんなこと、今まで聞いたことないんだけど……
そう思うと同時に、僕は軽い眩暈に襲われ、視界がグニャリと歪んだ。
咄嗟に片手で両目を覆い、もう片手で床に手をついて、フラつく身体を自分で支えるようにする。
「「レンヤード!!」」
セリム様とアルフ様が、同時に僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
しまった!
床についた手は、通常なら杖代わりになり、僕の身体を支えるはずだが……今回は腕に全く力が入らず、カクンと更に身体が傾いていく。
あっ、支えきれない!!
床に身体が崩れ落ちることを覚悟したその時、僕の身体は、力強い腕にギュッと抱き止められ……次にフワリとした浮遊感を感知した。
気がつくと、側にあったソファに、僕は仰向きに寝かされていた。
僕の額に誰かの手が、当てられているのを感じる。
「アルフ!」
セリム様の少し焦った声が、近くで聞こえた。
「大丈夫か?
すまない……無理をさせたようだ。
セリムに診てもらおう」
まだボヤッとした視界に、澄んだアクアマリンが映る。
キレイだなぁ……
僕は思わず、小さく呟いていた。
その後、額にあった温もりがそっと引いていき……僕はそのことを、なぜか寂しいと思ってしまった。
ええっ!
自身の思わぬ心の動きに、僕が戸惑っていると、今度はひんやりとした手のひらが、僕の額に乗せられる。
「レンヤード……気分はどうだ?」
スーッとした清涼感が、僕の身体を通り抜け、眩暈が次第に治ってくる。
ゆっくりと目を開けると、セリム様の顔が案外近くにあり、僕は驚きのあまり、身体をビクッと揺らしてしまった。
「ご迷惑かけて申し訳ありません」
僕は、慌てて身体を起こそうとすると、セリム様に止められる。
「レンヤード、まだ、起き上がってはダメだ。
それにしても……まさか、アルフの精神に根付いた邪気を、全て取り払ってしまうとは。
普通なら意識を失い……下手したら、そのまま息が止まっていたぞ」
淡々と言うセリム様のこめかみから、一粒、汗が伝い落ちる。
「あのままだと、アルフ様の呼吸が止まっていたということですか?」
意識がまだぼんやりとしており、頭が働かない。
僕は確認のため、そう聞き返した。
「違う!そなたのだ!
シルヴィスから、くれぐれもそなたの事をよろしく頼むと言われているのに……本当に無事でよかった」
うそ!
シルヴィス様は、そんなお願いをしてたの?
冷え切っていた僕の心に、じんわりと温かさが灯る。
「セリム様は、シルヴィス様のお知り合いですか?」
僕は俄かに信じられなくて……もう一度セリム様に聞き直してしまった。
「そうだ、セリムはシルヴィスの古くからの友人だ。
ちなみに、私とシルヴィスも仲は良いぞ」
僕のセリム様への質問に、またしてもアルフ様が答えた。
「アルフ!……あなたという人は」
セリム様が思わずといったように、苦笑いをする。
「だから、困ったことがあったら、いつでも我々を頼るがよい」
そう言って、アルフ様は太陽のように、カラリと笑った。
131
お気に入りに追加
1,089
あなたにおすすめの小説
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる