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第3章 王宮生活<始動編>

41、癒しのチカラ<後>

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「レンヤード」

 アルフ様は、呆然ぼうぜんとして僕の名前を呼んだ後、ゆっくりと息をかれた。

 なんだか、身体からだが重い。
 こんなこと今まで一度もなかったから……きっと失敗したにちがいない。

 僕はアルフ様の手を、失礼にならない程度に急いで解放し、あわててその場にうずくまり、謝罪しゃざいを口にした。

「申し訳ありません」

「何がだ?」

 困惑こんわくしたアルフ様の声が、僕の頭上ずじょうから聞こえる。

「あのぉ……どうやら……失敗してしまったようでして……まことに申し訳ありません」

 僕は息を切らしながら、さらに身体からだちじめて謝った。

ぎゃくだ、レンヤード」

 アルフ様は、みを浮かべてそう言われた。

「えっ?」

 僕は訳が分からなくなって、顔を上げてしまう。

 アルフ様が僕の目線めせんに合うように、ゆっくりとかがみ込まれた。

「大成功だ、レンヤード!
 今のくらいいて以来、さいなまれるような頭痛に時折ときおりおそわれ……その頻度ひんど段々だんだんと短くなっていった。
 あらゆることをためしてみたが、痛みの程度ていどおさえられるだけで、頭痛そのものがなくなることは、残念ながら……なかったのだ。

 それが、今はどうだ?
 すっかり頭痛が消え、身体からだが軽い!!
 私は、いまだかつてない、清々すがすがしさを感じている!
 礼を言うぞ、レンヤード」

「えっ……と……」

 僕は理解が追いつかなくて、振り返ってセリム様を見つめる。

 セリム様も僕を静かに見つめ返して、こう言った。

「レンヤード、そなたは、邪気じゃきはら神力しんりょく発動はつどうしたのだ」

邪気じゃきはら神力しんりょく?」

 聞きれない言葉に、僕はただ、セリム様の言葉をり返した。

 そんなこと、今まで聞いたことないんだけど……

 そう思うと同時に、僕は軽い眩暈めまいおそわれ、視界しかいがグニャリとゆがんだ。

 咄嗟とっさに片手で両目をおおい、もう片手で床に手をついて、フラつく身体からだを自分でささえるようにする。

「「レンヤード!!」」

 セリム様とアルフ様が、同時に僕の名を呼ぶ声が聞こえた。

 しまった!

 床についた手は、通常ならつえ代わりになり、僕の身体からだを支えるはずだが……今回は腕に全く力が入らず、カクンとさらに身体がかたむいていく。

 あっ、支えきれない!!

 床に身体からだくずれ落ちることを覚悟かくごしたその時、僕の身体からだは、力強い腕にギュッと抱き止められ……次にフワリとした浮遊ふゆう感を感知かんちした。

 気がつくと、そばにあったソファに、僕は仰向あおむきに寝かされていた。

 僕のひたいに誰かの手が、当てられているのを感じる。

「アルフ!」

 セリム様の少しあせった声が、近くで聞こえた。

「大丈夫か?
 すまない……無理をさせたようだ。
 セリムにてもらおう」

 まだボヤッとした視界しかいに、んだアクアマリンがうつる。

 キレイだなぁ……

 僕は思わず、小さくつぶやいていた。

 その後、ひたいにあったぬくもりがそっと引いていき……僕はそのことを、なぜかさびしいと思ってしまった。

 ええっ!

 自身の思わぬ心の動きに、僕が戸惑とまどっていると、今度はひんやりとした手のひらが、僕のひたいに乗せられる。

「レンヤード……気分はどうだ?」

 スーッとした清涼感せいりょうかんが、僕の身体からだを通り抜け、眩暈めまい次第しだいおさまってくる。

 ゆっくりと目を開けると、セリム様の顔が案外あんがい近くにあり、僕は驚きのあまり、身体からだをビクッとらしてしまった。

「ご迷惑かけて申し訳ありません」

 僕は、あわてて身体からだを起こそうとすると、セリム様に止められる。

「レンヤード、まだ、起き上がってはダメだ。
 それにしても……まさか、アルフの精神に根付ねづいた邪気じゃきを、全て取り払ってしまうとは。
 普通なら意識いしきを失い……下手へたしたら、そのまま息が止まっていたぞ」

 淡々たんたんと言うセリム様のこめかみから、一粒ひとつぶ、汗が伝い落ちる。

「あのままだと、アルフ様の呼吸が止まっていたということですか?」

 意識いしきがまだぼんやりとしており、頭が働かない。
 僕は確認のため、そう聞き返した。

「違う!そなたのだ!
 シルヴィスから、くれぐれもそなたの事をよろしく頼むと言われているのに……本当に無事でよかった」

 うそ!
 シルヴィス様は、そんなお願いをしてたの?

 冷え切っていた僕の心に、じんわりとあたたかさがともる。

「セリム様は、シルヴィス様のお知り合いですか?」

 僕はにわかに信じられなくて……もう一度セリム様に聞き直してしまった。

「そうだ、セリムはシルヴィスの古くからの友人だ。
 ちなみに、私とシルヴィスも仲は良いぞ」

 僕のセリム様への質問に、またしてもアルフ様が答えた。

「アルフ!……あなたという人は」

 セリム様が思わずといったように、にが笑いをする。

「だから、困ったことがあったら、いつでも我々をたよるがよい」

 そう言って、アルフ様は太陽のように、カラリと笑った。
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