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第3章 王宮生活<始動編>

37、奇妙なお茶会<前>

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 今日はいるのかな?

 かくのような教会の扉を、少しドキドキしながら僕は静かに開け、室内へ足をみ入れる。

 座り心地ごこちが良さそうな上品なソファセットから、フワフワの金髪がはみ出していた。

 今日はいらっしゃる!

 いつものように、男性は気持ち良く眠っているようだった。

 僕はせっかくの眠りをさまたげないように、なるべく足音あしおとを立てず静かに室内を移動いどうし、祈りの間へ辿たどり着く。

 それにしても、あの男性の横顔……どっかで見たような気がするんだけどなぁ

 しばらく僕は考えていたが、思い当たる記憶がなかったため、一旦いったんその思考しこう停止ていしし、祈りを行うためにひざまずいた。

 今日の祈りの間は、とりわけ荘厳そうごんさが際立きわだっているように感じる。

 そんな神聖しんせいな空間で、いつもよりが引きまる思いをいだきながら、神に祈りをささげた。

 やがて祈り終え、さぁ、今日もひと仕事終えた達成感たっせいかんを持ちながら帰ろうと思い、立ち上がりつつ後ろを振り向くと、今日はなんと、またセリム様がひざまずいていた。

 「うわぁあぁ」

 驚きのあまり、毎回、僕は声が出てしまう。

 セリム様はいつも通り、全く気配けはいがしないので、本当に僕の心臓に悪い。

 驚いたまま固まってしまっている僕を、セリム様は軽く一瞥いちべつすると、これまたいつも通りに無言むごんで立ち上がり、サッサと帰られようとしたが……今日は違った。

 玄関前へ続くアプローチ手前てまえのソファセット横で、セリム様は足を止められたのだった。

 めずらしいな、どうしたのかな?

 セリム様に遅れて歩いていた僕も、同じように足を止め、ソファセットを見てみると……ハッと息をんだ。

 そうだった!
 あの金髪の男性がいたのだった!

 とはいえ、セリム様とほとんど会話したこともない僕が気安きやすく問いかけるのもはばかられ……どうするんだろう?と思いながらも見守るしかない。

 セリム様は、ため息を1つをつくと、ソファセットで今日も気持ち良くお昼寝を堪能たんのうしている男性へ、おもむろに話かけられた。

「こんなところにいたんですか?
 あなたの部下が今日もさがしておられましたよ?」

「私だって、時々、休息きゅうそくが必要だ。
 あんなスケジュールでは息がまる」

 そうセリム様の問いかけに答えられると、金髪の男性は今まで眠っていたのがうそみたいに俊敏しゅんびんに起き上がり、ソファに座り直した。

 今日もいいお天気で……窓から入る光が男性の金髪を優しくらし出す。
 その印象が残像ざんぞうのように強く残り……僕は漠然ばくぜんと、太陽がよく似合うおかただなぁと思ってしまった。

「ちょうどよい、茶を飲もうと思い、用意させていたところだ。
 一緒にどうだ?」

 金髪の男性は向かいのソファをしながら、そう提案ていあんされた。

 セリム様は男性と面識めんしきがおりのようで、申し出を受け、向かいのソファへ腰を下ろしたが、僕はその男性との面識めんしきはない。

 だから、一礼いちれいして立ちろうとしたら、少しあわてた2人ともに呼び止められた。

「待ちなさい」
「待つのだ」

 えっ?なんで僕が?

 しかもセリム様は、僕の手首をガッチリつかんで離さないし。

「あっ、はっ…はい」

 戸惑とまどいながらも雰囲気ふんいき的に 辞退じたいすることは許されず……僕はみちびかれるまま、セリム様の横にすわらされた。

 どうしよう……なんだかよく分からないけど……僕にはが重いような気がする

 そのまま誰も一言ひとことはっすることなく、お茶が用意されるのを待つ。

 やがて、何人かの神官服を着た人たちによってお茶の用意がされていった。

 その中の1人の顔を見て、僕は「あっ」と短く声をあげる。

 なぜならそのかたは、僕に水やりをめいじた、あの大柄おおがらな体格をした神官様だったからだ。

 今、その神官様は、立派な体格たいかくに見合う大きな手で、繊細せんさいで美しいティーカップを持っており……その大きさの対比たいひで、ティーカップがまるでオモチャみたいに見える。

 それがすごく可笑おかしくて、神官様に悪いとは思いながら、僕は意図いとせずに、ふふっと声に出して笑ってしまった。
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