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第3章 王宮生活<始動編>

32、新しい習慣

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 目覚めてから半年って、やっと以前の健康体を取り戻した僕は、言葉は悪いがひまを持てあましていた。

 もう半年もつのに、シルヴィス様はまだ帰還きかんされていない。

 シルヴィス様の母上であり、僕にとっても義母はは上にあたる、レイラ様によると、戦況せんきょう膠着こうちゃく状態にあるらしく……シルヴィス様が現地げんちを離れるのはむずかしいらしい。

 オメガ性にとって、良くも悪くも人生にかせないといっても過言かごんではないヒートだが、もとから子がせない僕は、周期しゅうきが不安定な上、他のオメガ性と比べても回数も少ないし、症状しょうじょうも軽い。

 加えて体調をくずしたせいか、体質も変わり、つがいであるシルヴィス様とお会いしてない状況も関係しているのか、長い眠りから覚めても、ヒートの前兆ぜんちょうさえ感じられなかった。

 なので、アルファ性であり、つがいであるシルヴィス様がいなくても、体調面では、僕は何の問題もなくごせていた。

 では、心理的側面そくめんは?と問われると、一言で表すなら、複雑ふくざつというしかなかった。

 会えなくてさびしい……という感情はある。

 だが、それはつがいという本能が求めているものであって、様々さまざまな事情があったとはいえ、出会って突然つがってしまった相手に、どういう態度をとっていいのか分からず……まるで僕は迷子まいごのような心境しんきょうになっていた。

 軍事上の機密きみつを守るため、シルヴィス様と僕は連絡を取っていない。

 だから今のシルヴィス様の気持ちも分からないし、僕とつがって結婚したとはいえ、サラの例のように、シルヴィス様はすごく人気が高く、単純に言うならばモテた。

 オメガ性は一度つがったら、他のアルファとつがうのはむずかしいが、アルファ性はそうではない。

 1人のアルファにとって、何人かとつがうことは可能な話である。

 戦地せんちにいるとはいえ、シルヴィス様が他の者をむかえている場合もあるわけで……色んな可能性を考えていると、僕の心はかき乱されているばかりだった。

 こんな時こそ、何かに没頭ぼっとうしてごすのが最適さいてきだと思うのだが、何をやろうとしても、やはりシルヴィス様の不在ふざいひびく。

 例えば、僕の妃教育にもしても、つがいであり、僕が住んでいる宮の最高責任者であるシルヴィス様の同意なしでは進められず……という訳で今の僕は、何もやるべき事はなかった。

 他の王族の方々や作法さほうもよく知らないことは、仮にも王族の一員となってしまった今の僕にとってはある意味、致命的ちめいてきな状況とは言えるが、王宮をくまなく歩き回るならともかく、住んでいる宮の図書室で読書をし、体力作りで周辺しゅうへんをチョロっと散歩するだけの僕は、時折ときおり雑事ざつじをされている神官様とすれ違うぐらいで……その時も礼をしてやり過ごせば何も問題もなく、そこまで困ることもなかった。

 侍女じじょのサラもリリーも、近々ちかじか、国教神グーノーさいがあるせいで、王宮内での人手ひとでらず、元の所属先しょぞくさきのお手伝いにり出されることが増え……ほぼ何でも1人で出来る僕から離れることが多くなった。

 特にサラとは、僕が彼女の意向いこうまず、自分の意思いしつらぬいて髪を切ってから、ほとんど無視されるようになっていたので……正直しょうじき、僕は心の底からホッとして、この状況を歓迎かんげいしていた。

 そしていつも通りに、住んでいる王宮周辺しゅうへんを散歩している時にそれは起こった。

「そこの者」

 最初は、まさか自分が呼ばれているなんて分からなくて、そのまま歩き続けた。

「そこの、緑の神官服を着た者、止まりなさい」

 えっ?緑の服?

 キョロキョロあたりを見回したが、人影ひとかげは僕以外いなかった。

 ふと下を向いて、自分のいグリーンの服が目に入り、もしかして?と思い、声がした方角ほうがくを振り返る。

見慣みなれない顔と服の色だな。
 どこの所属しょぞくだ?」

 声をかけてきたのは、薄い水色の神官服を着た、がっしりとした体格の、かなり大柄おおがらな男性だった。

「あっ、あのぉ……僕は……そのぉ……」

 まさか問いめられるとは思わず、どう答えていいのか戸惑とまどった僕は、モゴモゴした回答になってしまった。

「まぁ、よい。
 見慣みなれない色ということは、この王宮の所属しょぞくではないな。
 どうせ地方から出てきたばかりであろう。

 ちょうどよい、初仕事を申し付けよう。
 この先に小さいが見事な庭園がある。
 天気がいい日は、そこの水やりを命ずる」

 そう言い終えると、大柄おおがらな神官様はサッサと行ってしまった。

「ええっ~!!
 僕が?
 まっ……いいか、どうせ暇だし」

 まいったなぁ……サラの言うことは正しかった。

 僕は拝命はいめいした仕事を行うため、言われた場所へ向かった。
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