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第2章 王宮生活<準備編>

25、理不尽さを飲み込んで

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「確かに……ライとテオにはこくな選択ではあったわね」

 姉様も2人には思うことがあったのか、かなしみの影が横切よこぎった。

「そうだ、姉様!
 2人のことが聞きたいんだ。

 もし、僕の記憶がよく出来た劇の物語でなく現実だったら、特にライは大変なことをしたことになるよね?

 それに、テオ……最後に血溜ちだまりの中でくずれ去っていく姿しか確認出来なかった。

 本当にテオは……まだ生きているの?」

 目の前で起こった悲劇が脳内のうないで勝手に自動再生じどうさいせいされて、僕は頭をかかえた。

 身体もブルブルふるえてくる。

「レン、2人とも本当に無事だから、安心して。
 あなたも目覚めたばかりだから、色々思いめるのは、身体に良くないわ」

 姉様は、ふるえる僕の身体をでてくれた。

 そんな姉様の手を僕は逆ににぎりしめて、身を乗り出してたずねる。

「僕の身体なんて、どうでもいいよ。
 そんなことより、あの後、2人はどうなったの?」

 身を乗り出した僕の身体を、姉様はそっと寝具へ押し返し、昔みたいに、落ち着かせるように、僕の頭をでてくれた。

「レン、普通では信じられないけど、あなたはこの3年間、水分だけで生きていたの。
 いくら加護かご持ちと言っても、人間の身体よ。
 まずはしっかり養生ようじょうして、健康を取り戻すのが先決せんけつなの。

 ライとテオに関しては、あなたはうたがぶかいけど、本当に2人とも無事よ。

 ライに関しては、王宮内であれだけさわぎを起こしたにも関わらず、シルヴィス様の配慮はいりょで、領内りょうないの外に出るのは禁止になったけど、それ以外のばつは受けなかった。

 ただ、あれからライは精神的に不安定になって、寝込ねこみがちになったわ。
 だから、領内りょうないとどまっているけいは、静養せいようねているから、あの子にとっても良いはずなの。

 テオに関しては……確かに重症だった。
 でも、やはりシルヴィス様がテオの為に医師団を派遣はけんしてくれて……なんとか一命いちめいは取りめたの。

 心臓に近い傷があったけど、レン、あなたからもらったペンダントヘッドが身代みがわりとなって、心臓には何の影響も無かったんですって。

 お医者様には奇跡きせきだと言われたわ。
 ただ、うでを動かすのに重要な筋肉を傷つけてしまって、今も領内りょうないでリハビリ中よ。

 そういう訳で、2人とも故郷こきょう領内りょうないにいるわ。

 レン、そんなに気になるのなら、まずは、しっかり身体をなおして、シルヴィス様の許可をもらって、一度領地りょうちに帰ってきなさいよ。

 ただし、きちんと身体をなおしてなかったら、領内りょうないには入らせないからね!」

 そういって姉様は僕の頭をでるついでに、コツンと人差し指で、僕のひたいついた。

 僕はやっと気にかっていた2人の安否あんぴとその後が聞けて、少し心が落ち着いた。

 それに……テオの危機ききを、僕が送ったプレゼントですくったと聞けて、すごく感動した。

 ただ、今はもう、僕はテオの婚約者ではない。
 その事実が、ものすごく悲しかった。

「姉様、もう僕はテオの婚約者ではないんだね」

 あらためて口にすると、胸がズキズキと痛んだ。

「そうね、もうその立場にはもどれないわ。
 テオもレンも悪くないから、なかなか気持ちが切りえられないかもしれない。

 だけど、もう終わったことなの。

 3年間、あなたは眠っていたせいで、色んな出来事が変わっていて、あなただけいてきぼりになっている状態だわ。
 納得出来ないなら、気が済むまで、泣いてもわめいてもいい。
 だけど、どんなになげいても、残酷ざんこくだけど、過去になってしまった出来事は変えられないの。
 同じく未来のことにも、私たちは手を出せないわ。

 過去と未来は手が出せないけど、現在いまだけは、私たちがどんな態度を取るかで、未来にそのままつなげていけるし、または未来そのものを変えていけるの。
 受け入れられないと、泣いているだけだと、それだけで時間を使い、やがて全てのことが過去に変わり、何も手が出せなくなってしまうわ。

 本当にそれでいいの?

 あなたの立場を使って、色々やれることがまだ、たくさんあるんじゃない?
 今は何も考えられないかもしれないけど、せっかくシルヴィス様の妃という、力がある立場になったんだもの、一領地いちりょうち領主りょうしゅでは出来ないことも、きっと出来ると思うわ。

 レンにとっては、りたくてなった立場じゃないと思うけど、ライのように、逆にりたくてもなれない立場でもあるのよ。

 納得できないことは、気がむまで泣いてすっきりさせて、次に進んでいきなさい。
 変えられないことは、どうやっても変えられないの。
 でも世の中には今を頑張がんばれば、変えられるものも、たくさんあると思う。
 それらに目を向けれるよう、姉様はレンを見守っているわ」

 僕は、唇をんで、き上がる嗚咽おえつを外に出さぬよう努力した。

 何回も深呼吸をし、やっと声が出せれるようになってから、姉様に話し始めた。

「姉様の言いたいことは、何となく分かった。
 僕なりに考えて、これから行動していこうと思う。
 その前に、姉様と2人だけの今、これだけき出させてくれない?

 僕は……テオとむすばれたかったんだ。
 それがかなわなくて、とても悲しい」

 そう言ってこれ以上、僕の泣き顔を姉様に見せたくないため、姉様の肩に顔をうずめた。

 姉様は、そうねぇ……とだけ言って、僕の身体からふるえがなくなるまで、優しく抱きしめてくれた。
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