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第2章 王宮生活<準備編>

22、新たな生活に向けて

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 ようやく涙が止まった所で、ユリア姉様の背後はいごから、あらたな声がかけられた。

「レン……目覚めてくれて本当に良かった」

 その重厚じゅうこうな声に目を向けると、シルヴィス様のお母様、第二妃レイラ様が立っておられた。

 姉様は咄嗟とっさに立ち上がり、レイラ様に対して礼を取る。

 僕もあわてて起き上がろうとしたが、全く身体が言うことを聞かなかった。

「あっ……あっのぉ……ゲホッゲホッ」

 弁明べんめいをしようとしたが、なさけ無いことにはっした言葉は一語だけ、しかも高貴こうきな方の前で、せきんでしまった。

「よいよい、長い間、意識がなかったのだ。
 起き上がれるまでは、しばらくかかるだろう。
 それにしても……十分な栄養もらず、ほぼ水分だけで……よくぞ生きていた。
 やはりえらばれし者は違うな」

 そうレイラ様は言われると、僕の目線に合わせてひざまずき、手をにぎりしめてくれた。

おそれ……入り……ます」
 
 粗相そそうがないよう、僕はなんとか言葉をひねりだした。

「まずは、しっかり養生ようじょうして元気になるのが先決せんけつじゃ。
 今、シルヴィスは遠征えんせいしておる。
 すぐには戻れないようだから、そなたが目覚めたことを知らせるよう、伝令でんれいを出そうと思う。
 シルヴィスがそばにいなくて、さびしいかもしれないが、少しだけ我慢がまんしてくれ。

 それと、そなたのことをくれぐれもよろしく頼むと、シルヴィスから言われておる。
 シルヴィスが不在ふざいの間は、私が後見人こうけんにんだ。
 遠慮えんりょせず、何でも申し出るがよい。

 最後に、その身体じゃ何かと不便ふべんであろう。
 そなたに侍女じじょを2人付けようと思う。
 今から紹介してもかまわないか?」

 もちろん僕に異存いぞんはなく、急いでうなずいた。

 レイラ様の「こちらへ」という言葉と同時に2人の女性が姿を見せる。

 1人は知っていた……というか、僕が一度目覚めた時に、顔をいてくれていた、表情豊かな可愛い少女だった。

「サラと申します。よろしくお願いします」

 サラが挨拶あいさつを終え、一歩下がると、もう1人が一歩前にでた。

 こちらは、サラより背が高く、スラリとしている。
 髪は青みがかった黒色ブルーブラックで、瞳はグレー。
 サラとは正反対で、落ち着いた雰囲気ふんいきの美人だった。

「リリーと申します」

 2人を紹介した後で、レイラ様は、ちょっと言いにくそうに切り出した。

「この2人は、こちらで妃教育を受けていた、ライヨーダを補佐ほさしていた者たちだ。
 そのままレンに付けるのもどうかと迷っていたが……実力はあり、何かと頼れる人物なので、そのままレンに付けることにした。

 もちろん、そなたとライヨーダはこのみなど、色んな面でちがうと思う。
 そなたが主人になるので、遠慮えんりょせずに自分のこのみや意向いこうを伝えればよい」

 そう僕付けの侍女じじょを紹介したレイラ様は、次の予定がせまっているとのことで、足早あしばや退出たいしゅつされた。

 2人の侍女じじょは残っていたが、僕と2人きりで話したいことがあるから……ということで、ユリア姉様が下がらせてくれた。

 やっと、姉様と2人だけの空間になれた。

 しばらく静寂せいじゃくに包まれていたが、居心地いごこちはよかった。

 だけど僕の中から、言いようも無い不安が次々とみ上げてきて、たまらず姉様へ手をばす。

 姉様は、しっかりと僕の手をにぎってくれた。

 だから僕は少し心が落ち着き、現実を把握はあくしようと心が動いた。

 まず僕が口を開こうとすると、姉様はすかさず、病人用の寝たままで飲める水差しを僕の口に差し出した。

「分かってる、いろいろ聞きたいんでしょう?
 でもまずは、飲みなさい。
 喉をうるおさないと、質問もできないわよ」

 姉様に言われるがまま、まずは、身体に水分を入れることを優先させる。

 水がのど通過つうかするたびに……頭も冷静になれる気がした。

 僕の気持ちが落ち着くのを見計みはからっていた姉様は、なるべく僕を動揺どうようさせないよう、おだやかな声で話し始めた。

「ねぇ、レン、まずは、どうして意識を失ったか覚えている?」

 姉様の根本こんぽん的な質問に、僕もようやく記憶の扉を開ける気になった。

「シルヴィス様と……つがいに……なって。
 あれ?
 でもシルヴィス様って……ライが婚約者候補じゃ……僕はテオと……」

 話しながら、過去の記憶を辿たどっていくが、なんだか現実味がなく、まるで劇をみているようなことばかり浮かんでくる。

 そのことを姉様に伝えると、姉様は鎮痛ちんつう眼差まなざしで僕を見ながら、答えてくれた。

「記憶が混濁こんだくしているようだけど……あなたがまるで劇みたいなといった内容が本当のことよ」

「じゃあ、シルヴィス様のつがいがライではなく、僕なのは本当だったの?」

「ええ、そうよ、しかも……運命のつがい……ね」

 姉様はつとめて冷静さを保っていたが、僕の手をにぎる指がふるえていた。

 真実が痛いなんて……これまで知らなかったし、予想以上の出来事に耳をふさぎたくなった。
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