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第2章 王宮生活<準備編>

21、目覚めの衝撃

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 あまりの風に立っていることも出来ず、僕は顔を両手でおおい、その場にうずくまっていた。

 突如とつじょ、風がみ、パッと視界が広がる。

 えっ?

 何気なにげなく下を向いて、僕は驚いた。

 僕とそっくりの顔をした人物が大きな寝台に横たわっていたからだ。

 顔はそっくりだが、髪の色が違う。

 僕は、焦茶こげちゃ色だが、その人物は、いめの紅茶にミルクをたっぷりと入れたような……ミルクティー色だった。

 しかも、短髪たんぱつだった僕とは違い、長さは腰まである。

 じぃっとその人物をながめていると、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

 あっ、シルヴィス様だ!

 シルヴィス様は、横たわっている人物の寝台しんだいに腰かけると、長い髪の一部を手に取り、その人物に向かって、話しかけた。

「レン、今おさめている東の領地りょうちの一部が、ぞくおそわれ……急遽きゅうきょ今から現地へ向かうことになった。
 なるべく早く帰ってくるから、待っていてくれ。

 オレが不在ふざいの時に目覚めても、戸惑とまどわないように全て手配はととのえてある。
 帰ってきた時、レンの『おかえりなさい』の声が聞けたら……嬉しい」

 えっ?
 この横たわっている人物が僕!!

 信じられなくて、呆然ぼうぜんとみていると、シルヴィス様は、手に取った髪に口づけた後、寝台しんだいに乗り上げて、横たわっている人物の唇にも優しくキスをした。

 長い髪をひとでし……寝顔ねがおをしばらくの間、ながめた後、シルヴィス様はゆっくりと寝台しんだいからりていった。

 待って!シルヴィス様!
 僕はここにいるよ!!

 部屋を出ていくシルヴィス様に急いでるが、無情むじょうにも、バタンとドアが閉まってしまった。

 どうしよう!とオロオロしていると、足元あしもとから突風とっぷうき上げ、身体が吸い込まれていくような感じがし……気がついたら、僕は高い天井を見上げていた。

 身体がものすごくだるい。
 腕を上げようとしたら……持ち上げられなかった。

 そうこうしているうちに、またものすごく眠たくなり、さからわずに目をつぶった。
 それから、しばらく意識を失っていたようだ。

 次に意識が浮上ふじょうしたのは、顔を暖かい布でそぉっとかれる感覚がしたからだ。

 静かに目を開けると、ちょうど僕のほほいてくれていたぬしと目が合う。

 少女と呼べるような可愛らしい女の子だった。

 パチリ。

 肩までの茶色の髪に、光に反射はんしゃしてややうすみがかった同じく茶色の大きな瞳が、こぼれ落ちそうに見開みひらいた。

 そのまま数秒……おたがいに見つめ合う。
 先に声をはっしたのは、少女だった。

「えっ?
 ウソっ、やだっ、目が合っちゃった……というか、起きてるぅ?」

 動揺どうようしているせいか、考えていることが、そのまま声に出ていた。

 その間も少女の表情はコロコロ変わり……そのゆたかさに、僕は思わず笑ってしまった。

「ふっふ……ケホケホっ」

 しばらくの間声帯せいたいを使っていなかったせいか、話すことが出来ず、僕は咳込せきこんでしまう。

「あわわっ、大丈夫ですか!?」

 僕は大丈夫という代わりに、首をたてった。

 身体に重石おもしがついたようで、起き上がることはできない。

 かろうじて、首が動かせるくらいだ。

「目覚めたこと、知らせてきますね」

 そう言って、止める間もなく、少女は出て行ってしまった。

 僕はまわりを見渡した。

 シンプルだが、品のいい調度品ちょうどひんそろっている。

 僕が横たわっている寝具しんぐも、普段ふだん僕が使っているものとは全然違う、高級なものだった。

 ここはどこだろう?

 全く見慣れない場所に、心細こころぼそさだけがつのる。

 そんなに待たないうちに、バタバタと複数ふくすうの足音がした。

 バンっと音がして、いきおいよく扉が開けられる。

 唯一ゆいつ、自由に動かせる首に力を入れ、なんとか音をした方角を見た。

「レン、レン、良かった……目が覚めて……ううっ」

 抱きついてきたユリア姉様の体温を感じ、遅れて僕の目にも涙があふれてきた。

 どうやら、まだ僕は生きているらしい

 姉様にはたくさん聞きたいことがあるが……声が出ない。

 かなりの間、姉様に抱きつかれたまま、僕は涙を流し続けた。
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