上 下
15 / 102
第1章 番(つがい)になるまで

14、酔いしれる交歓(こうかん)

しおりを挟む
 ふと一瞬で真顔まがおになったシルヴィス様が、少し顔をかたむけながら、ふんわり僕の唇にれた。

 何をする訳でもなく、シンプルに唇のかさなりを感じとり、そのままゆっくりと離れていく。
 言葉もなく、お互いをじっと見つめる。

 またそのぬくもりが欲しい

 僕の胸の内を読んだかのように、シルヴィス様はじっと僕の目を見つめたまま、何度もれるだけのキスをする。

 いつの間にか、僕の右手はシルヴィス様のほおれており、こうつぶやいていた。

綺麗きれいな青……吸い込まれてしまいそう」

 僕のつぶやきを耳にしたシルヴィス様は、小さく笑い、唇だけではなく、僕の顔中かおじゅうにキスのシャワーをらした。

 なんだかとてつもない幸福感こうふくかんに包まれ、僕は小さく笑ってしまう。

「あんまり見るな。
 ずかしいだろ?」

 そう言われても、まるで磁石じしゃくのようにその青にきつけられた僕は視線をはずすことができない。

 しばらくれた表情で、僕の眼差まなざしを受け止めていたシルヴィス様だが、ふいにニヤリとすると、両手で僕の両目をふさいでしまった。

 僕が少し前に強くめて作った下唇の傷を、シルヴィス様がご自身の唇で優しく包み込む。

 ピクン

 そのまま、はむ、はむ、はむ、と横へ移動し、口端くちはしまできたら、そのまま上唇も同じようにまれた。

 自然と小さく開いた口の中に、シルヴィス様の舌が静かに忍び込み、僕の舌にからむ。

 僕も条件反射じょうけんはんしゃのようにシルヴィス様の舌を追い、しばらく追いかけっこのように、たがいの舌を巻きつけ合った。

 クチュクチュ、クチュン

 とても気持ち良くて、あふれ出てくる唾液だえきを、ゴクンと飲み込んでしまう。

 ふと気がつくと、目をおおっていたシルヴィス様の手は、いつの間にか僕の耳たぶをキスに合わせて、優しくみ込んでいた。

「甘いなぁ……」

 思わずと言うように小さくつぶやいたシルヴィス様の言葉に、深いキスに夢中になっていた僕は、意味を理解するのが一瞬遅れた。

 えっ?

「レンの体液は甘く感じる。
 他の者にはそう感じることがないから……これは求愛きゅうあい行動の一種いっしゅになるのか」

 求愛きゅうあい行動?
 確か、異性を引きつける行動だったっけ?
 唇を合わせるたびに、シルヴィス様の唾液だえき美味おいしく感じて、もっともっとキスが欲しくなるのはそのせい?

「レン、舌を出して」

 気持ち良すぎて、何も考えず、シルヴィス様の言葉通りにしたがってしまう。

 差し出した舌をシルヴィス様の唇にくわえられ、ゆっくり上下にしごかれる。

 気持ちいい……

 うっとりとその感触かんしょくあじわっていたが、タイムラグを起こしたシルヴィス様の言葉が、やっと僕の中に落ちてきて、咄嗟とっさに唇を離してしまった。

「他の者?」

 口に出した途端とたん、胸の奥にカッと怒りの炎がともった。

 えっ?
 なんで僕が怒りをおぼえるの?

 思いもしなかった感情に僕は戸惑とまどいをかくしきれない。

 僕の言葉をひろったシルヴィス様は、まゆを下げられて神妙しんみょうな顔であやまられた。

「すまない。
 この場で口にするのは、マナー違反いはんだったな。
 言い訳させてもらうなら、激しい戦闘せんとうが終わった後など、生理現象せいりげんしょう心身しんしんともたかぶってしまい……解消かいしょうするために……その生業なりわいの者と……」

 シルヴィス様の申し訳なさそうな表情を見ているうちに、僕の胸に一瞬でともった感情の正体しょうたいを知った。

 うそぉ?!
 まさか僕、嫉妬しっとしてる?!

 いだいた疑問の思わぬ正体しょうたい愕然がくぜんとしていると、シルヴィス様は、振りかれた唇を、手でれていた僕の耳に移動させ、耳たぶをほんのりかじりながら、耳孔じこうに直接、言葉をき込んできた。

「運命を見つけたからには、今後こんごは、レン、そなただけだ」

 唇はそのまま耳にとどまり、そぉ~っと、シルヴィス様の舌だけが、あなの周りをなぞり上げる。

 ゾクゾクっ

 そのままシルヴィス様の唇は降下こうかし続け、僕の首筋をゆっくりっていく。

「うぅっ……うっん」

 もう声はおさえられない。

不当ふとうつがい防止の保護プロテクトはかかっているのだが、こうした物理的刺激ぶつりてきしげきはじかれないんだな」

 シルヴィス様はそう言うと、ゆっくりと唇をわせる範囲はんい徐々じょじょに広げ……僕の鎖骨さこつ中央まで辿たどりつくと、一度いちど強く吸い上げた。

 チクン

 かすかに走った痛みに、足のつま先から頭上ずじょうまで稲妻いなずまが走り抜ける。

 そのままあっという間に、上着のボタンをスルスルとはずされ、シルヴィス様の唇はさらに下へとりていく。
 未知みちなる感覚を次々とつむぎ出していくシルヴィス様に、僕は言い知れないこわさをいだいてしまった。

「おやめください、シルヴィス様。
 僕にはテオがいます」

 そう僕が口にした瞬間、僕の胸元むなもとから顔を上げたシルヴィス様は、ギロリと僕をにらみ上げた。

「レン、先ほどオレは言ったな。
 この場ベッドで、他の名を言うのはマナー違反いはんだと」

 甘い雰囲気ふいんきが一瞬にして狩猟しゅりょうの場へ変わったことを、僕は感じた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

処理中です...