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第1章 番(つがい)になるまで

14、酔いしれる交歓(こうかん)

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 ふと一瞬で真顔まがおになったシルヴィス様が、少し顔をかたむけながら、ふんわり僕の唇にれた。

 何をする訳でもなく、シンプルに唇のかさなりを感じとり、そのままゆっくりと離れていく。
 言葉もなく、お互いをじっと見つめる。

 またそのぬくもりが欲しい

 僕の胸の内を読んだかのように、シルヴィス様はじっと僕の目を見つめたまま、何度もれるだけのキスをする。

 いつの間にか、僕の右手はシルヴィス様のほおれており、こうつぶやいていた。

綺麗きれいな青……吸い込まれてしまいそう」

 僕のつぶやきを耳にしたシルヴィス様は、小さく笑い、唇だけではなく、僕の顔中かおじゅうにキスのシャワーをらした。

 なんだかとてつもない幸福感こうふくかんに包まれ、僕は小さく笑ってしまう。

「あんまり見るな。
 ずかしいだろ?」

 そう言われても、まるで磁石じしゃくのようにその青にきつけられた僕は視線をはずすことができない。

 しばらくれた表情で、僕の眼差まなざしを受け止めていたシルヴィス様だが、ふいにニヤリとすると、両手で僕の両目をふさいでしまった。

 僕が少し前に強くめて作った下唇の傷を、シルヴィス様がご自身の唇で優しく包み込む。

 ピクン

 そのまま、はむ、はむ、はむ、と横へ移動し、口端くちはしまできたら、そのまま上唇も同じようにまれた。

 自然と小さく開いた口の中に、シルヴィス様の舌が静かに忍び込み、僕の舌にからむ。

 僕も条件反射じょうけんはんしゃのようにシルヴィス様の舌を追い、しばらく追いかけっこのように、たがいの舌を巻きつけ合った。

 クチュクチュ、クチュン

 とても気持ち良くて、あふれ出てくる唾液だえきを、ゴクンと飲み込んでしまう。

 ふと気がつくと、目をおおっていたシルヴィス様の手は、いつの間にか僕の耳たぶをキスに合わせて、優しくみ込んでいた。

「甘いなぁ……」

 思わずと言うように小さくつぶやいたシルヴィス様の言葉に、深いキスに夢中になっていた僕は、意味を理解するのが一瞬遅れた。

 えっ?

「レンの体液は甘く感じる。
 他の者にはそう感じることがないから……これは求愛きゅうあい行動の一種いっしゅになるのか」

 求愛きゅうあい行動?
 確か、異性を引きつける行動だったっけ?
 唇を合わせるたびに、シルヴィス様の唾液だえき美味おいしく感じて、もっともっとキスが欲しくなるのはそのせい?

「レン、舌を出して」

 気持ち良すぎて、何も考えず、シルヴィス様の言葉通りにしたがってしまう。

 差し出した舌をシルヴィス様の唇にくわえられ、ゆっくり上下にしごかれる。

 気持ちいい……

 うっとりとその感触かんしょくあじわっていたが、タイムラグを起こしたシルヴィス様の言葉が、やっと僕の中に落ちてきて、咄嗟とっさに唇を離してしまった。

「他の者?」

 口に出した途端とたん、胸の奥にカッと怒りの炎がともった。

 えっ?
 なんで僕が怒りをおぼえるの?

 思いもしなかった感情に僕は戸惑とまどいをかくしきれない。

 僕の言葉をひろったシルヴィス様は、まゆを下げられて神妙しんみょうな顔であやまられた。

「すまない。
 この場で口にするのは、マナー違反いはんだったな。
 言い訳させてもらうなら、激しい戦闘せんとうが終わった後など、生理現象せいりげんしょう心身しんしんともたかぶってしまい……解消かいしょうするために……その生業なりわいの者と……」

 シルヴィス様の申し訳なさそうな表情を見ているうちに、僕の胸に一瞬でともった感情の正体しょうたいを知った。

 うそぉ?!
 まさか僕、嫉妬しっとしてる?!

 いだいた疑問の思わぬ正体しょうたい愕然がくぜんとしていると、シルヴィス様は、振りかれた唇を、手でれていた僕の耳に移動させ、耳たぶをほんのりかじりながら、耳孔じこうに直接、言葉をき込んできた。

「運命を見つけたからには、今後こんごは、レン、そなただけだ」

 唇はそのまま耳にとどまり、そぉ~っと、シルヴィス様の舌だけが、あなの周りをなぞり上げる。

 ゾクゾクっ

 そのままシルヴィス様の唇は降下こうかし続け、僕の首筋をゆっくりっていく。

「うぅっ……うっん」

 もう声はおさえられない。

不当ふとうつがい防止の保護プロテクトはかかっているのだが、こうした物理的刺激ぶつりてきしげきはじかれないんだな」

 シルヴィス様はそう言うと、ゆっくりと唇をわせる範囲はんい徐々じょじょに広げ……僕の鎖骨さこつ中央まで辿たどりつくと、一度いちど強く吸い上げた。

 チクン

 かすかに走った痛みに、足のつま先から頭上ずじょうまで稲妻いなずまが走り抜ける。

 そのままあっという間に、上着のボタンをスルスルとはずされ、シルヴィス様の唇はさらに下へとりていく。
 未知みちなる感覚を次々とつむぎ出していくシルヴィス様に、僕は言い知れないこわさをいだいてしまった。

「おやめください、シルヴィス様。
 僕にはテオがいます」

 そう僕が口にした瞬間、僕の胸元むなもとから顔を上げたシルヴィス様は、ギロリと僕をにらみ上げた。

「レン、先ほどオレは言ったな。
 この場ベッドで、他の名を言うのはマナー違反いはんだと」

 甘い雰囲気ふいんきが一瞬にして狩猟しゅりょうの場へ変わったことを、僕は感じた。
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