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第1章 番(つがい)になるまで

13、理性と本能の狭間で

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 いやいや、このまま流されるんじゃない!
 ここでとどまれ!!

 ハッと我にかえり、自分の理性に叱咤激励しったげきれいするが、目は本能にしたがい、シルヴィス様に釘付くぎづけだ。

 シルヴィス様も相当そうとう暑かったのだろう。

 水差しピッチャーおもむろつかむと、グイッと一気いっきあおった。

 いきおいよく飲んだせいか、口内こうないはいりきれなかった水が、おとこらしくき出た喉仏のどのとけにツゥーっと一筋ひとすじ流れた。

 ゴクッ、ゴクッ

 上下に動く喉仏のどぼとけに水が流れ落ちた部分だけ、差し込まれた日光により肌が黒光くろびかりした。

 なんとも淫靡いんびなオーラが漂い、その光景から僕は目が離せない。

 それから続けて三口みくちほど飲んだシルヴィス様は、口元くちもとをグイッと腕でぬぐい、水差しピッチャーを持ったまま、横たわったままの僕のもとへ戻ってきた。

「レンも飲むだろ?」

 ポォーッとシルヴィス様を見つめていた僕は、あわてて答えた。

「じっ、自分で飲みますので、威圧いあついてもらえませんか?」

「なんだ、レンがさそってくれたと思ってうれしかったのに……飲ませてやるぞ」

 そう言いながらシルヴィス様は、サイドテーブルに水差しピッチャーき、僕のすぐ横に座った。

「そんな、さそうだなんて誤解ごかいです!

 のどがすごくかわいていて……本当に水が飲みたいだけですから」

 分かってもらおうと僕は必死に言いつのる。

「ははっ。
 そんな力いっぱい否定しなくても……そうもハッキリことわられると結構けっこう傷つくぞ」

「でっ……でも……」

「レンにそう言った意図いとがないことなんて分かっている。

 逆にこの状況からのがれようとしたんだよな?」

 シルヴィス様から笑いながらそう言われた。

 やっぱり僕の思考回路しこうかいろはシルヴィス様にバレバレだった。

威圧いあついたぞ」

 しばらくすると僕の身体がフッと軽くなった。

「ありがとうございます」

 僕はお礼を言って、一旦いったん、身体を横向きにし、両手をシーツにつけて上半身じょうはんしんを起こすことに成功したが……あしに全く力が入らず完全に起き上がることができない。

「あっ……あれ?どうして??」

「どうした?」

 シルヴィス様は不思議ふしぎそうに僕の顔を見た。

あしに力が入らなくて……どうしたんだろう?」

「色んな出来事がありぎたから、もしかして腰を抜かしたんじゃないのか?」

 えっ?うそっ!!

 シルヴィス様の見解けんかいを聞いた途端とたん、僕はカァ~ッとほおに血がのぼった。

「真っ赤になってかわいいな」

 くっくっと笑いをこらえながら、シルヴィス様は僕の方へ身を乗り出し、僕の背中と膝裏ひざうらに両腕を差し入れたと思ったら、あっと言う間に、足を組み左右に広げたご自身のきゃくの上に僕を抱き上げた。

 サイドテーブルから水差しピッチャーつかみ、一口ひとくち水をふくむと、背中に回していた手を後頭部こうとうぶへスライドして僕の頭を固定させ、口移しに飲ませてくれた。

 ゴックン

 一連いちれん動作どうさがあまりにもなめらかなうえ、合わせられた唇は純粋じゅんすいに水を飲まそうという意図いと以外、一切いっさいなかったので、水分にえてた僕は素直すなおに飲んでしまう。

「もう少し飲むか?」

 何でもないような表情をしてシルヴィス様が聞くので、まだのどかわいていた僕は、すぐにうなずいた。

 また口移しだが、さっきより、多めに、かつ慎重しんちょうに飲ませられる。

 ゴクッゴクッ……ゴックン

 ようやくのどうるおいいを取り戻し、ホッと僕は息をいた。

 僕のりた表情をシルヴィス様は優しい目で見下ろし、そっと僕をまた元の位置へ横たえた後、水差しピッチャーを戻しに行かれた。

 口移しという僕にとっては衝撃しょうげき的な方法だったけど、ただ僕が起き上がれなくて自分で水が飲めなかったからだ。

 唇もれちゃったけど、性的な雰囲気ふんいき仕草しぐさも全くなかったから、これは、救命行為きゅうめいこういみたいなものなんだよね?

 そう考えていると、僕の元へ戻ってきたシルヴィス様が、ややまゆを寄せて僕の上へおおかぶさってきた。

 なぜ、またこの体勢たいせいに?

「レン、オレは心配になったぞ。
 こうやって無防備むぼうびに水をもらうのは、オレだけにすると、約束してくれ」

 僕は身を固くして、何度もうなずく。

「本当に分かったのか?
 こうやって無防備むぼうびに水をもらうってことはな……」

 話途中とちゅうで、一度シルヴィス様は口をざすと、再度さいど僕の顔を両手で固定し、視線を強制きょうせい的に合わせてきた。

オオカミに食べられるってことだぞ」

 強い眼差まなざしで僕の動きを止めたシルヴィス様は、大きな舌で僕の唇をベロンとめ上げた。

 えっ?
 アレってやっぱり救命行為きゅうめいこういじゃなかったってこと?

 急速きゅうそくオスフェロモンに包まれながら、僕は自分の迂闊うかつさをのろった。
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