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第1章 番(つがい)になるまで

7、斬撃(ざんげき)の果てに

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「僕がいなくなればいいって……?
 えっ?どういうこと?」

 ライがレイラ様に述べた内容を、はからずとも、僕は復唱ふくしょうしてしまった。

 僕のつぶやきを受け、目だけをくらほのうでギラギラさせたライが、いつものうるわしい美貌はそのままに、赤にれた唇をにぃ~っとり上げた。

「簡単だよ?
 レンが死ねば良いんだ。」

 ライが、あまりにもサラリと物騒ぶっそうなコトを言うので、脳への言葉の伝達でんたつ一瞬いっしゅん遅れる。

 レン ガ シネバイイ……

 その言葉だけが、再び脳内にひびきわたる。

 本当に驚いた時、身体はかたまってしまう……とよく聞くけど、うん、本当にその通りだ。

 ライが放った言葉の意味を、脳内で解読かいどくした瞬間、僕の生命活動せいめいかつどう凍結とうけつした。

「そう!レンが死ね~~~!!」

 ライのうるわしい笑顔が、一瞬いっしゅん憤怒ふんぬの表情に変わる。

 その表情変化ひょうじょうへんかは、ゾッとするほど恐ろしさを感じつつも、同じくらいパッとあでやかで、『なるほど、美人はどんな表情をしても美人だなぁ~』と場違ばちがいな感想を持つ自分に、なんだか笑えてきた。

 一定いってい以上の恐怖にさらされると、心は身体から切り離されてしまうらしい。

 それからは、全ての事象じしょうがスローモーションに見えた。

 音声おんせいは、全ての行動から少し遅れて聞こえる。

 だが、まるで音量おんりょう部分だけがこわれているようで、すごく小さくて聞き取りにくい。

 僕の世界からあらゆる色彩しきさいが消え、白黒モノクロに変わった。

 ライは、手を握っていたレイラ様を思い切り横へき飛ばすと、素早すばやふところから短剣タガーを取り出し、僕に向かって振り上げた。

 レイラ様は不意打ふいうちだったようで、言葉をはっする前に、床に打ちつけられる。

 振り上げられた短剣タガーを見て、僕は、『あっ!』と短く叫んだ。

 あの短剣タガーは知っている!!

 姉と僕たち双子の三兄弟は、全員オメガだ。
 オメガ性はやはり、性犯罪せいはんざいに巻き込まれやすい。

 もしもの時にそなえて、亡き両親は、僕たちに護身用ごしんようの短剣タガーをプレゼントしてくれた。

 短剣タガーのデザインは全て同じ。

 ただ、持ち手の柄頭つかがしらに、各自かくじの瞳の色に合わせた宝石がめ込まれていた。

 僕は元々もともとライのすぐ近くに立っていたが、ライの行動に何の反応も出来ず、ただ無防備むぼうびっ立っているだけだった。

 に合わない!!

 よりによって、護身用短剣ごしんようタガーを向けられるなんて……。

 ライにとって僕はてきとして認定にんていされたんだ。

 色が消滅しょうめつした視界に唯一ゆいいつ色がついている、エメラルドグリーンが僕の胸に向かって飛び込んでくるのをながめながらそう思った。

 その時、僕の視界にうつらなかったので、のちに振り返ってからの推測すいそくになるが、次の二つの行動は同時に行われたらしい。

 背後から僕はいきおいよく腕を引かれ、熱い体温と甘いにおいに包まれる。

 先ほどと同じ体勢たいせいなので、こちらは誰だかすぐに分かった。

 シルヴィス様だ!!

 そして僕の目の前には、突然とつぜん、黒い影が出現しゅつげんした。
 その影はライにおおかぶさる。

 うぐっ。

 押し殺された声が、くぐもって聞こえた。

 どうやら、ライの短剣タガーは、黒い影の左肩辺りにき刺さったらしい。

 それでも、ライはあきらめない。

 すぐに、黒い影から短剣タガーを抜き取ると、僕を標的ひょうてきとして見据みすえたまま、何度も短剣タガーを振り下ろす。

 グサっ、ザクっ。

 黒い影がライを抱きしめたままなので、ライの攻撃こうげきは全て黒い影にい込まれる。

 黒い影は、ただ刺されるがままだった。

 僕に近づけないことに苛立いらだったライが、黒い影を罵倒ばとうする。

邪魔じゃまをするなぁ~、テオ~っっ!!」

 えっ!?テオ!?

 ライの罵声ばせいで、あまりの惨状さんじょうに停止していた全てものが動き出す。

「ライヨーダをとらえよ!!」

 シルヴィス様の怒声どせい

 王宮の兵士たちが、ライのもとへ一斉いっせいけ寄る足音。

 黒い影……テオの身体からほとばし血飛沫ちしぶき

 最後にテオは僕を振り返り、いつも僕に見せていたおだやかな笑みを浮かべながら、こう言った。

「ご無事ぶじですか?レン様?」

 直後ちょくごにその身体は、くずれ落ち、音を立てて、地面にころがった。
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