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第1章 番(つがい)になるまで
4、悲劇の前触れ
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目の端にいる婚約者であるテオを意識しながら、背後から抱きしめているシルヴィス様に話しかけるため、僕は首だけ後ろに向けた。
「シルヴィス様、お離しください」
「それはできない」
がっしりとしていて、背の高いシルヴィス様と目を合わせるのは、一苦労だ。
首が苦しい。
だからお願いしてみたが、思ってもみなかった、この異常事態に頭が働かず、言葉が足りないせいで、予想通り、シルヴィス様に即座に却下された。
でも、ここで引いたらダメだ!
ライの言う通り、僕は当事者だ。
しかも、日頃、美貌の弟への羨望と機能不全な身の板挟みで、例えるなら、人生の端っこや日陰を好んで歩いている僕。
突然、ど真ん中の、しかも、中心人物にされて身が竦む思いをしているが、ここで自分の意見を主張しておかないと、大変な事になってしまう。
「シルヴィス様、まずは落ち着いてください」
話を聞いてもらうため、仕方なく、シルヴィス様の逞しい腕で作られた囲いの中で、くるりと身体を回転させ向き合う。
至近距離で、自分よりかなり背が高い人を見上げるのも首が痛むが、先ほどよりはマシだ。
「そもそも今日は、弟のライとシルヴィス様の婚約式です。
僕たちの両親は、既に亡くなっておりますので、本来なら、親代わりの年が離れた姉が出席するはずでした。
しかし、つい最近、待望の懐妊が分かり、それに伴う体調不良のため、急遽私が参りました」
本題はここからだ。間違えてはならない。
「さきほど、ライではなく、私のことを『運命の番』と仰っていましたが……『運命の番』とは、別の言い方をすれば、優れた次世代を産み出すのに最も確率が高い相手だと……私は思います。
そもそも番の本能とは、自分たちにとって、優秀な種族の保存、つまり遺伝子的に優秀な子を産み出すためのものではないでしょうか?
そう考えた場合、いくらシルヴィス様がお世継ぎが不要と申しても、子を産めない私は、この点で既に不適格です。
私の親族は、この点を重要視したのでしょう。
だから、親族がライを推したことに関して、私は憤りを持ちません。むしろ、それで正解だと思っております。
次に、シルヴィス様は、遺伝子レベルでライではなく私の方を求められていますが……ライと私は双子。
残念ながら、私たちは一卵性ではなく、二卵性の双子ですので、遺伝子情報に限って言えば、約半分が同じです。
残り半分の差異は……少し乱暴な方法ですが、科学の力を借りれば、その差を埋めることができるかと……。
今は、番に先立たれたバース用の薬も開発されているほどです。
難しい試みだとは思いますが、バース性の研究が進む中、我が国の高水準の医学であれば、何らかの薬が効く可能性があると思います。
現に先ほど、シルヴィス様はギリギリの状態とは言われましたが、最強クラスの抑制剤の服用で、まだ正常な意識は保たれています。
身体に少し負担はかかるかもしれませんが、様々な薬と、物理的な距離を置く、つまり顔を合わせなければ……私と番わなくても……楽観的な憶測も入っておりますが、何とかなりそうな気がします。
そして最後に……この5年間、あなたの妃になるために、ライは教育を受け、ずっと努力を重ねてきました。
その姿に私は感銘を受けております。
自分がその立場になった時、あくまでも候補という不安定な立ち位置の中、そこまで自分を律して、長年努力はできません。
だから……どうか、シルヴィス様、私ではなく、このままライヨーダを婚約者としてお迎えください」
しばしの間、物音一つ聞こえない、完全なる静寂に包まれる。
どんな回答をするのか待ち望んでいるかのように、シルヴィス様に皆の熱い視線が注がれたのを僕は背中で感じた。
「シルヴィス様、お離しください」
「それはできない」
がっしりとしていて、背の高いシルヴィス様と目を合わせるのは、一苦労だ。
首が苦しい。
だからお願いしてみたが、思ってもみなかった、この異常事態に頭が働かず、言葉が足りないせいで、予想通り、シルヴィス様に即座に却下された。
でも、ここで引いたらダメだ!
ライの言う通り、僕は当事者だ。
しかも、日頃、美貌の弟への羨望と機能不全な身の板挟みで、例えるなら、人生の端っこや日陰を好んで歩いている僕。
突然、ど真ん中の、しかも、中心人物にされて身が竦む思いをしているが、ここで自分の意見を主張しておかないと、大変な事になってしまう。
「シルヴィス様、まずは落ち着いてください」
話を聞いてもらうため、仕方なく、シルヴィス様の逞しい腕で作られた囲いの中で、くるりと身体を回転させ向き合う。
至近距離で、自分よりかなり背が高い人を見上げるのも首が痛むが、先ほどよりはマシだ。
「そもそも今日は、弟のライとシルヴィス様の婚約式です。
僕たちの両親は、既に亡くなっておりますので、本来なら、親代わりの年が離れた姉が出席するはずでした。
しかし、つい最近、待望の懐妊が分かり、それに伴う体調不良のため、急遽私が参りました」
本題はここからだ。間違えてはならない。
「さきほど、ライではなく、私のことを『運命の番』と仰っていましたが……『運命の番』とは、別の言い方をすれば、優れた次世代を産み出すのに最も確率が高い相手だと……私は思います。
そもそも番の本能とは、自分たちにとって、優秀な種族の保存、つまり遺伝子的に優秀な子を産み出すためのものではないでしょうか?
そう考えた場合、いくらシルヴィス様がお世継ぎが不要と申しても、子を産めない私は、この点で既に不適格です。
私の親族は、この点を重要視したのでしょう。
だから、親族がライを推したことに関して、私は憤りを持ちません。むしろ、それで正解だと思っております。
次に、シルヴィス様は、遺伝子レベルでライではなく私の方を求められていますが……ライと私は双子。
残念ながら、私たちは一卵性ではなく、二卵性の双子ですので、遺伝子情報に限って言えば、約半分が同じです。
残り半分の差異は……少し乱暴な方法ですが、科学の力を借りれば、その差を埋めることができるかと……。
今は、番に先立たれたバース用の薬も開発されているほどです。
難しい試みだとは思いますが、バース性の研究が進む中、我が国の高水準の医学であれば、何らかの薬が効く可能性があると思います。
現に先ほど、シルヴィス様はギリギリの状態とは言われましたが、最強クラスの抑制剤の服用で、まだ正常な意識は保たれています。
身体に少し負担はかかるかもしれませんが、様々な薬と、物理的な距離を置く、つまり顔を合わせなければ……私と番わなくても……楽観的な憶測も入っておりますが、何とかなりそうな気がします。
そして最後に……この5年間、あなたの妃になるために、ライは教育を受け、ずっと努力を重ねてきました。
その姿に私は感銘を受けております。
自分がその立場になった時、あくまでも候補という不安定な立ち位置の中、そこまで自分を律して、長年努力はできません。
だから……どうか、シルヴィス様、私ではなく、このままライヨーダを婚約者としてお迎えください」
しばしの間、物音一つ聞こえない、完全なる静寂に包まれる。
どんな回答をするのか待ち望んでいるかのように、シルヴィス様に皆の熱い視線が注がれたのを僕は背中で感じた。
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