上 下
5 / 85
第1章 番(つがい)になるまで

4、悲劇の前触れ

しおりを挟む
 目のはしにいる婚約者であるテオを意識しながら、背後はいごから抱きしめているシルヴィス様に話しかけるため、僕は首だけ後ろに向けた。

「シルヴィス様、おはなしください」

「それはできない」

 がっしりとしていて、背の高いシルヴィス様と目を合わせるのは、一苦労ひとくろうだ。

 首が苦しい。

 だからお願いしてみたが、思ってもみなかった、この異常事態いじょうじたいに頭が働かず、言葉がりないせいで、予想通り、シルヴィス様に即座そくざ却下きゃっかされた。

 でも、ここで引いたらダメだ!

 ライの言う通り、僕は当事者とうじしゃだ。
 しかも、日頃ひごろ美貌びぼうの弟への羨望せんぼう機能不全きのうふぜんな身の板挟いたばさみで、たとえるなら、人生のはしっこや日陰ひかげこのんで歩いている僕。

 突然、どん中の、しかも、中心人物ちゅうしんじんぶつにされて身がすくむ思いをしているが、ここで自分の意見を主張しておかないと、大変な事になってしまう。

「シルヴィス様、まずは落ち着いてください」

 話を聞いてもらうため、仕方しかたなく、シルヴィス様のたくましい腕で作られたかこいの中で、くるりと身体を回転させ向き合う。

 至近距離しきんきょりで、自分よりかなり背が高い人を見上げるのも首が痛むが、先ほどよりはマシだ。

「そもそも今日は、弟のライとシルヴィス様の婚約式です。

 僕たちの両親は、すでに亡くなっておりますので、本来ほんらいなら、親代わりの年が離れた姉が出席するはずでした。

 しかし、つい最近、待望たいぼう懐妊かいにんが分かり、それにともな体調不良たいちょうふりょうのため、急遽きゅうきょ私がまいりました」

 本題ほんだいはここからだ。間違えてはならない。

「さきほど、ライではなく、私のことを『運命のつがい』とおっしゃっていましたが……『運命のつがい』とは、別の言い方をすれば、すぐれた次世代じせだいを産み出すのにもっと確率かくりつが高い相手だと……私は思います。

 そもそもつがいの本能とは、自分たちにとって、優秀な種族しゅぞく保存ほぞん、つまり遺伝子的いでんしてきに優秀な子を産み出すためのものではないでしょうか?

 そう考えた場合、いくらシルヴィス様がお世継よつぎが不要と申しても、子を産めない私は、この点ですで不適格ふてきかくです。

 私の親族は、この点を重要視じゅうようししたのでしょう。

 だから、親族がライをしたことに関して、私はいきどおりを持ちません。むしろ、それで正解だと思っております。

 次に、シルヴィス様は、遺伝子いでんしレベルでライではなく私の方を求められていますが……ライと私は双子。

 残念ながら、私たちは一卵性いちらんせいではなく、二卵性にらんせいの双子ですので、遺伝子情報いでんしじょうほうに限って言えば、約半分が同じです。

 残り半分の差異さいは……少し乱暴らんぼうな方法ですが、科学の力を借りれば、その差を埋めることができるかと……。

 今は、つがい先立さきだたれたバース用の薬も開発かいはつされているほどです。

 難しいこころみだとは思いますが、バース性の研究が進む中、我が国の高水準こうすいじゅんの医学であれば、何らかの薬が効く可能性があると思います。

 げんに先ほど、シルヴィス様はギリギリの状態とは言われましたが、最強クラスの抑制剤よくせいざい服用ふくようで、まだ正常な意識はたもたれています。

 身体に少し負担はかかるかもしれませんが、様々さまざまな薬と、物理的ぶつりてきな距離を置く、つまり顔を合わせなければ……私とつがわなくても……楽観的らっかんてき憶測おくそくも入っておりますが、何とかなりそうな気がします。

 そして最後に……この5年間、あなたの妃になるために、ライは教育を受け、ずっと努力をかさねてきました。

 その姿に私は感銘かんめいを受けております。

 自分がその立場になった時、あくまでも候補こうほという不安定な立ち位置の中、そこまで自分をりっして、長年ながねん努力はできません。

 だから……どうか、シルヴィス様、私ではなく、このままライヨーダを婚約者としてお迎えください」

 しばしの間、物音ものおと一つ聞こえない、完全なる静寂せいじゃくつつまれる。

 どんな回答をするのか待ち望んでいるかのように、シルヴィス様に皆の熱い視線がそそがれたのを僕は背中で感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

Tally marks

あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。 カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。 「関心が無くなりました。別れます。さよなら」 ✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。 ✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。 ✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。 ✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。 ✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません) 🔺ATTENTION🔺 このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。 そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。 そこだけ本当、ご留意ください。 また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい) ➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。 ➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。 ➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。 個人サイトでの連載開始は2016年7月です。 これを加筆修正しながら更新していきます。 ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。

無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました

かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。 ↓↓↓ 無愛想な彼。 でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。 それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。 「私から離れるなんて許さないよ」 見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。 需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...