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第3章 ウワサの行方(ゆくえ)

32、近衛騎士の落とし物<後>

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 えぇ!
 その愛称あいしょうと約束を知っているってことは!!

「もしかして……」

 マーガレットがそう問いかけた時、エドワード様の背後はいごから、けたたましい悲鳴ひめいが上がる。

「いやぁ~!エドワード様!!」

 12795番さんだ!

 ヤバい!
 今の場面見られた?

 ファンクラブメンバーに先ほどの場面を見られたとしたら、間違いなく今から地獄が始まる。

 エドワード様にからんでファンクラブメンバーに目をつけられたら、あの大先輩の例はもちろん、おおやけになっていないだけで、何人もの人々がひそかにほうむりさられたというのは、城内では有名な話だからだ。

 マーガレットの身体からだは、恐怖でさらに固まったが、12795番さんが続けた言葉にホッとし、力を抜いた。

「通行人をかばうだなんて、エドワード様、素晴らしすぎる~ぅ!」

 そうだ!

 ラッキーなことに私のうしろかべで、前はエドワード様の大きな身体からだ目隠めかくしとなり、どうやら肝心かんじんのエドワード様ご乱心らんしん場面は、12795番さんに見られていないらしい。

 確か、こちらに来られた時、いつものスカ……いや、スマしたエドワード様じゃなかったわ!

 きっと今日のエドワード様は、お加減かげんが悪いに違いない!!

 とにかく早くこの状態から抜け出さないと、明日から城内では働けないので、急いで脳内を検索けんさくした結果……マーガレットは再び、「なかったことにする」作戦を選択せんたくした。

 今の私にとって大事なのは……イケメンではなく、

 仕事で給金きゅうきんゲットだぜぇ!

 マリコ語で気合きあいを入れたマーガレットは、このまま12795番さんに乗っかることにする。

 もちろん今のマーガレットの状態は、まだエドワード様にガン見され、ガッチリ抱きしめられたままだ。

 どうしよう?!と一瞬戸惑とまどったマーガレットだったが、ちょうど最近雑談ざつだんで、マリコさんから聞いた別の必殺ひっさつわざためしてみるいい機会だと思いつく。

 うん、うん、今日のワタシはえているぅ~!

 嬉しくなって思わずニンマリしてしまったマーガレットを見て、エドワード様は怪訝けげんそうな表情をした。

 あまりにもととのったエドワード様の顔立かおだちは、どんな表情でもサマになり、何回間近まじかで見ても心臓に悪い。

 だからマーガレットは、マリコさんから前に教えてもらった、最強の呪文じゅもんを胸の中でとなえることにした。

 いい?
 ワタシは女優よ!

 もちろんマーガレットは、意味を分かってない……だが、この呪文じゅもんとなえると、どんな人の前でも落ち着いて行動できる気がした。

 ヨシ!イケる!!

 マーガレットは目をせ、少しだけ顔をゆがめてこう言った。

「ちょっと、腕が……」

 あわててエドワード様が、マーガレットを抱きしめる力をフッとゆるめる。

 今だ!

 マーガレットは拘束こうそくゆるんだ腕を、素早くエドワード様の目の前にき出す。

 さすが近衛このえ騎士のエドワード様、瞬時しゅんじに顔を遠ざけられた。

 ふふっ、コレからよ!

 マーガレットは、歯を食いしばる。

 くらえっ!
 必殺ひっさつ「ねこだまし」!!

 足をり、大きく両手を広げたマーガレットは、渾身こんしん一打いちだり出した。

 パンっ!

 かわいた空気に、見事な破裂はれつおんひびきわたる。

 なぐられると思ったのか、マーガレットから身体からだを離し、マーガレットの腕をつかもうとしたエドワード様は、呆気あっけにとられたように、動きを一瞬止めた。

 キタ~~!!

 その瞬間を見逃みのがさず、マーガレットは一歩横に身体からだをズラすと、動きを止めたままでいるエドワード様に向かって一礼いちれいした。

「助けていただいて、ありがとうございましたぁ~~」

 それから瞬時しゅんじに身をひるがえし、今、来た道を全速力ぜんそくりょくで走り出す。

 逃げるが勝ち!!

 マーガレットの脳内に、マリコさんの毅然きぜんとした声が聞こえた気がした。

 背後はいごで、エドワード様の「おい、待て!」と、12795番さんの「エドワード様、ステキですぅ~」という声が廊下ろうかひびいていたが、聞こえない!今の私には聞こえないわ~!と自分に言い聞かせ、マーガレットはとにかく走った。

 ありがとう、12795番さん!
 エドワード様を、できるだけ長く足止あしどめしといてね!

 マーガレットは12795番さんに深く感謝しながら、廊下ろうか爆走ばくそうし続けた。

 マーガレットが来た方向をハンドサインでエドワードに教えた衛兵えいへいたちが、鎮痛ちんつう面持おももちで、ひたいおさえていることに気がつかないまま。
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