上 下
24 / 34
第2章 朝チュンの混乱

24、食堂の日常風景<後>

しおりを挟む
 彼の言動げんどうは、あの王太子の近衛このえ騎士としては、とりわけ異例いれいなものとされている。

 なぜなら王太子は、自らの近衛このえ騎士隊について、諜報ちょうほう活動能力をみが一環いっかんとして、婚姻状態を問わず、自由恋愛を推奨すいしょうしているからだ。

 諜報ちょうほう活動は、いかに欲しい情報をターゲットから収集しゅうしゅう出来るかがかぎとなるらしい。

 そのターゲットとなる相手にどうアプローチするかの実践じっせんを、自由恋愛という場を借りてテクニックをみがいてこい……というのが王太子の意図いとらしいが、この話を聞いた時のマリコさんは『ナチュラルにゲスな案件あんけんなんだけど、確かに一理いちりあるかも……』と一定いっていの評価をしていた。

 ただし、お互いが人間である以上、こういったことを堂々どうどうと行うと、必ずトラブルが発生するものである。

 そのため唯一ゆいいつの禁止事項として、決してお相手たち(複数可!)とめないことが、決められていた。

 例え表面上、お相手たちとめてないにしても、うわさが出た時点じてんで、人心じんしん把握はあく能力が欠如けつじょしているとみなされ、王太子の近衛このえ騎士隊から除隊じょたいされる、というきびしいルールが存在するのである。

 ただ裏を返せば、めなければ、例え既婚きこん者の近衛このえ騎士さえも、恋愛は自由なのだ!

 しかもお相手の数も問われないため、二股、三股、何股でもOK!

 それに王太子の近衛このえ騎士という職業上、ある程度ていどの身分を持つ者が多く、一時ひとときの夢でいいからと全てを承知の上、王太子の近衛このえ騎士にむらがる女性たちは後をたなかった。

 表面上おだやかそうに見えるが、かくされた女性関係が派手はでな王太子付き近衛このえ騎士が多い中、想い人に一途いちず姿勢しせいつらぬくエドワード様に好意こうい的な女性は多く、その人気は今や城内じょうないにおいて、とどまるところを知らない。

 だが時には、エドワード様は人心じんしん把握はあく能力がないため一途いちずなフリをしているだけだ!と主張する男性もいた。

 しかし我が国をおとずれ、例え短時間にせよ、エドワード様が警備けいびを担当したしょ外国の王族女性たちが、帰国するにあたり、こぞってエドワード様を自国へ連れ帰ろうと必ず一波乱ひとはらん起こすので、その主張は、あくまでもモテない男性のひがみとしてあつかわれているのであった。

 そんなエドワード様なので、あくまでも非公式だが、ファンクラブが存在するのはもちろん、「おはよう」「お疲れ様」という挨拶あいさつと同じように、「エドワード様」のことがいつでもどこでも、城内で働く者たち、特に女性たちの話題に登場するのである。

 実はマーガレット、城内じょうない勤め歴は長いが、まだ残念ながら、 うわさのエドワード様を一度も見たことがなかった。

 そもそも仕事上、マーガレットは滅多めった刺繍ししゅう担当部屋から出ない。

 あまりにも人気者ゆえ、互いの職務しょくむさまたげになるような行動はつつしむべしとの通達つうたつは出ているが、エドワード様が歩くだけで、大勢の女性たちがアレコレもっともな理由をつけて、遠巻きとはいえ、へばり付いているので、あの場所にエドワード様がいるらしいとは分かっても、ファンクラブの女性たちの姿にかくされて、肝心かんじんのお姿を見ることができないのであった。

 まぁ……別に、エドワード様は自分には何ら関係ないし、興味きょうみもないしね

 食べ終わった食器を片付けながら、うわさを聞くたびにマーガレットは思う。

 ただ、時折ときおり思うことは、今はエドワード様の想い人がかされていないので平和だが、もしエドワード様が想いを寄せている相手があきらかになった場合、はたしてファンクラブメンバーや、うれしそうにうわさ話をする女性たちはどういう態度を取るのだろう?と。

 嫉妬しっとの嵐はもちろん、血の雨がるのは間違いなく……そのお相手を亡き者にしようと、例えばこの食堂にファンクラブメンバー全員が集まり、呪詛じゅそを行ったりして?

 ふと浮かんだ自分の考えに、人ごととはいえ、ブルリと身体からだふるわせながら、マーガレットは今度こそ自室に戻って睡眠を取るべく、足早あしばやに食堂を後にした。

 近い将来、自分が当事者とうじしゃとして、その大きな騒動そうどうに巻き込まれるとは……全く予想すらしないままに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?

待鳥園子
恋愛
幼馴染みで従兄弟の王太子から、女避けのための婚約者になって欲しいと頼まれていた令嬢。いよいよ自分の婚期を逃してしまうと焦り、そろそろ婚約解消したいと申し込む。 女避け要員だったはずなのにつれない王太子をずっと一途に好きな伯爵令嬢と、色々と我慢しすぎて良くわからなくなっている王太子のもだもだした恋愛事情。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...