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7、魔法師は不信感を抱く【グレン視点】
しおりを挟む魔法師グレンはナスカ家の周辺をうろついていた。
ナスカ家について調べてみると、最近魔法師が訪れたという事実がわかった。
あくまで想像に過ぎなかったが、やはりナスカ家には何かがある。
家族に身体の弱い者がいて、医師の力ではどうにもならないときに、魔法師が呼ばれることがある。
だが、それは非常に珍しいことである。
この国は魔法師が多くいるが、正式に国王陛下から認定された者と、闇の呪術師とが存在する。
呪術師は正式な魔法師ほどの実力を持たず、違法で人々に呪いをかける者。
その代わり安価であるため、隠れて呼び寄せる人々もいるらしい。
もちろん違法であり、それを行った者たちは術師も客も罰せられる。
「きな臭いなあ、ナスカ家」
とグレンは訝しむ。
というのも、この家は昔、魔法師と問題事を起こしている。
数年前、前伯爵夫人が死ぬ前から、この家には定期的に魔法師が呼び出されていた。
前伯爵夫人は不治の病で医者もお手上げだったらしい。
そこで、伯爵は最後の砦として魔法師を呼び寄せ、何とか夫人を救おうとしたらしい。
しかし、彼のその思いも虚しく、夫人は帰らぬ人となった。
数年後、当時ナスカ家に出入りしていた魔法師は、違法の力を使っていたことがわかり、王国を追放されている。
ナスカ家は特に調べられることはなかったが、関与していることは明白だ。
「お? お嬢さまのお帰りか?」
グレンの視線の先には立派な馬車が到着したところだった。
馬車の中から出てきたのは淡いピンクのドレスを着た金髪の女性だ。
「特に何も感じないな」
とグレンは呟いた。
フローラ・ナスカには術がかけられている形跡がない。
魅了の術は持続するものではないので、定期的に術をかけ続けなければならない。
しかし、フローラにはその気配は微塵も感じられなかった。
「今日のところは帰るか」
グレンがナスカ家を離れようとしたとき、背後から妙な気配を感じた。
彼が急いで振り向くと、そこには使用人と見られる女がいた。
「あ、あの……ナスカ家に何か、ご用でしょうか?」
女は震えながら訊ねた。
グレンは絶句してしばらく女を見つめた。
この女には術がかけられている。
それも、不完全でありながら、強力な術だった。
つまり、正式な魔法師によるものではなく、呪術師によるものだ。
そして、彼女にかけられているのは魅了ではなく、何か別の、とんでもない術である。
「ご用でないなら、失礼します」
女が屋敷に向かおうとした瞬間、グレンは彼女の手をつかんだ。
「あんた、魔法師に何かされたのか? 一体、何の術をかけられた?」
「な……なんの、ことで、ございますか?」
女は酷く震えている。
グレンには彼女にかけられた術が何か、判断できない。
「は、放してください!」
必死に手を振りほどこうとする女に、グレンは詰め寄る。
このまま帰すわけにはいかない。
「あんたの名前は? いつからこの家で働いている?」
何でもいい。
情報を手に入れたかった。
だが、女は首を横に振るだけだ。
グレンは舌打ちし、困惑の表情で彼女に話す。
「あんたを助けられるかもしれない。なぜ、そうなったのかだけでも教えてくれ」
見ず知らずの女を無償で助けるなど、グレンの性格ではあり得ないことだ。
しかし、あまりにも奇妙だ。
グレンは単純にその術の正体を知りたかった。
「どうか、放っておいてください。私はもう、どうなってもよいのです」
「何を言っている?」
「だって、私はもう、愛する人に名乗ることができないのだから」
「何を言って……?」
意味不明なことを言う女に、グレンは首を傾げる。
グレンの手の力が弱まったのを悟ったのか、女はすぐさま振りほどいて、逃げるように走り去ってしまった。
愛する人に名乗れない。
得体の知れない術をかけられた女。
ナスカ嬢と同じ金髪碧眼。
伯爵夫人は後妻。
「いや、待てよ……おいおい、まさか」
グレンの脳裏にひとつの疑惑が浮かんだ。
昔、師匠から聞いた話にこういう事例がある。
その貴族の家門を乗っ取るために、令嬢に似た者を送り込み、本物と入れ替えるということを。
そして、本物は殺されるか。あるいは、口封じの術をかけられるか。
その術は違法である。
なぜならば、その術をかけられた者は身体が蝕まれ、体力が低下し、最終的には死に至るというのだから。
「くそっ、早くしないとあの女の命が……」
グレンは拳を握りしめながら毒づいた。
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