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訪れたしあわせ
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その日、リエルは純白のドレスを着て、自室のバルコニーから空を見上げた。
雑に切り落とされた髪はその後、肩より上で丁寧に整えられている。
(ついにこの日を迎えたわ)
1年前の今日、リエルはアランによって殺された。
暗い地下牢で、アランとノエラの茶番劇を見せつけられながら、後悔の涙を流して息絶えたあの日だ。
(どうにか生き延びられたわ)
この1年のことを思い出すと、少し疲れを感じてしまうこともある。
しかし、同時にすっきりした気持ちもあった。
「リエル」
声をかけられて振り向くと、そこには正装したグレンの姿があった。
(回帰したから彼に出会えた)
回帰前にはまったく接点のなかったグレンと出会えたことは奇跡なのか運命なのか。
そして死ぬはずだった今日は、グレンとの婚約披露パーティだ。
(これからは自分の道を生きるの)
リエルはにこやかにグレンの手を取った。
ところが、グレンはリエルの手を握るとすぐに抱き寄せてしまった。
せっかく着飾ったのに崩れてしまうのを恐れたリエルは抗議の声を洩らす。
「ちょっと……」
「ごめん、少し」
「え?」
グレンはリエルをぎゅっと抱きしめた。
彼の様子が少し変なので、リエルはしばらくそのままでいた。
しかし、あまりに長いので焦ってしまう。
「パーティが始まってしまうわ」
「さぼるか」
「バカなこと言わないで。信用なくすわよ」
「今さらだ」
いつもなら冗談を言っても行動はするのに、今日はなぜかじっとして動かない。
本当に様子がおかしいと思い、リエルは眉をひそめた。
「グレン、どうしたの?」
「生きていることを実感しているんだ」
「え? それ今やること?」
「そうだよ。生きていられるのは奇跡でしかないからね」
そう言われると、リエルは何も言えなくなる。
前にもグレンは『人生は一度きりだ』と妙に真剣な表情で言った。
いつもの軽い冗談ではなく、割と深刻に。
何かあるのではないかと思うが、リエルにはわからない。
わざわざ訊くような野暮なこともしたくない。
いつか彼から話してくれるまで待つつもりだ。
「……そうね。本当に、奇跡だわ」
そう言うと、リエルは胸の奥が熱くなった。
リエルはグレンの背中に手を回して抱きしめる。
その体温を感じて安堵した。
彼に触れているときが、一番生きている実感を持てる。
しばらくして、リエルはそっと離れた。
「さすがに時間が迫っているから」
「残念だな。じゃあ、キスでもしとくか」
「バカ。早く行くわよ」
リエルは半眼でグレンを見つめたあと、彼の手を引いてさっさと歩き出した。
しかし、ふと思い立って立ち止まる。
(でも、今のこの瞬間は二度と戻らないものね)
そう思い、くるりと振り返るとグレンに抱きついてキスをした。
グレンは驚いて目を丸くする。
リエルは少し恥ずかしくなったが、それでもふふっと笑った。
だって、グレンが拍子抜けして顔を赤らめているのだから。
彼も不意打ちされるとは思っていなかったのだろう。
「リエルさん、結構大胆だね」
まんざらでもなさそうに笑うグレンに向かって、リエルは満面の笑みで告げた。
「大好きよ」
今日は婚約披露にふさわしいすっきりと晴れた穏やかな日だ。
〈 完 〉
雑に切り落とされた髪はその後、肩より上で丁寧に整えられている。
(ついにこの日を迎えたわ)
1年前の今日、リエルはアランによって殺された。
暗い地下牢で、アランとノエラの茶番劇を見せつけられながら、後悔の涙を流して息絶えたあの日だ。
(どうにか生き延びられたわ)
この1年のことを思い出すと、少し疲れを感じてしまうこともある。
しかし、同時にすっきりした気持ちもあった。
「リエル」
声をかけられて振り向くと、そこには正装したグレンの姿があった。
(回帰したから彼に出会えた)
回帰前にはまったく接点のなかったグレンと出会えたことは奇跡なのか運命なのか。
そして死ぬはずだった今日は、グレンとの婚約披露パーティだ。
(これからは自分の道を生きるの)
リエルはにこやかにグレンの手を取った。
ところが、グレンはリエルの手を握るとすぐに抱き寄せてしまった。
せっかく着飾ったのに崩れてしまうのを恐れたリエルは抗議の声を洩らす。
「ちょっと……」
「ごめん、少し」
「え?」
グレンはリエルをぎゅっと抱きしめた。
彼の様子が少し変なので、リエルはしばらくそのままでいた。
しかし、あまりに長いので焦ってしまう。
「パーティが始まってしまうわ」
「さぼるか」
「バカなこと言わないで。信用なくすわよ」
「今さらだ」
いつもなら冗談を言っても行動はするのに、今日はなぜかじっとして動かない。
本当に様子がおかしいと思い、リエルは眉をひそめた。
「グレン、どうしたの?」
「生きていることを実感しているんだ」
「え? それ今やること?」
「そうだよ。生きていられるのは奇跡でしかないからね」
そう言われると、リエルは何も言えなくなる。
前にもグレンは『人生は一度きりだ』と妙に真剣な表情で言った。
いつもの軽い冗談ではなく、割と深刻に。
何かあるのではないかと思うが、リエルにはわからない。
わざわざ訊くような野暮なこともしたくない。
いつか彼から話してくれるまで待つつもりだ。
「……そうね。本当に、奇跡だわ」
そう言うと、リエルは胸の奥が熱くなった。
リエルはグレンの背中に手を回して抱きしめる。
その体温を感じて安堵した。
彼に触れているときが、一番生きている実感を持てる。
しばらくして、リエルはそっと離れた。
「さすがに時間が迫っているから」
「残念だな。じゃあ、キスでもしとくか」
「バカ。早く行くわよ」
リエルは半眼でグレンを見つめたあと、彼の手を引いてさっさと歩き出した。
しかし、ふと思い立って立ち止まる。
(でも、今のこの瞬間は二度と戻らないものね)
そう思い、くるりと振り返るとグレンに抱きついてキスをした。
グレンは驚いて目を丸くする。
リエルは少し恥ずかしくなったが、それでもふふっと笑った。
だって、グレンが拍子抜けして顔を赤らめているのだから。
彼も不意打ちされるとは思っていなかったのだろう。
「リエルさん、結構大胆だね」
まんざらでもなさそうに笑うグレンに向かって、リエルは満面の笑みで告げた。
「大好きよ」
今日は婚約披露にふさわしいすっきりと晴れた穏やかな日だ。
〈 完 〉
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