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最後の危機③

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 周囲がざわついている。
 リエルは眩暈がしたが、どこも痛みは感じなかった。
 グレンが安堵したような顔をするので、不思議に思った。

「……グレン?」
「リエル、よかった。どこも怪我はない」
「え……?」

 グレンはリエルをぎゅっと抱きしめる。
 リエルはうまく状況が把握できず呆然としている。

「これは夢? それとも私は死んでいないの?」
「君は生きている。ほら、さわれるだろ?」

 グレンはわざわざリエルの手を握って確かめさせた。

「あなたの手が温かいわ」
「大丈夫だ。君は生きているから」

 グレンはふたたびリエルを強く抱きしめた。
 さらっと短くなった髪がリエルの頬に当たる。
 先ほどの矢が結い上げた髪に当たったのだと気づくと、リエルは安堵の笑みを浮かべた。

(エマが今日に限って結い上げてくれたから助かったわ)

 綺麗に伸ばした長い髪はばっさり切り落とされた。
 けれど、生きている。
 リエルはグレンに抱きついて、安堵のあまり涙がこぼれ落ちた。



 その後。
 捕らえられたアランは、裁判ののち極刑が下された。
 ノエラは辺境の地にある療養施設へ入り、その後の情報は一切ない。

 ノエラの父メイゼル伯爵はアランによる拷問のあと、ユリウスに助けられたが、重傷を負ったためにひと月後に死亡した。


 ディアナ王国の国王は奇跡的な回復により意識を取り戻したが、寝たきりの状態のため、ユリウスに譲位することになった。
 ユリウスは3カ月後に戴冠式を控えており、リエルはグレンとともに出席するつもりだ。


 一方、リエルの実家であるカーレン侯爵家はユリウス殿下の支持に回ったものの、今までアランに陶酔していたために、他の貴族たちから忌み嫌われていた。
 しかし気まずい思いをする父と違って、継母はリエルが帝国の皇妃になる未来が決まると、ご機嫌で「リエルはわたくしの娘よ」と吹聴していた。

 リエルもセビーも呆れたが、グレンが継母に釘を刺した。

「俺はリエルの家族まで面倒を見る気はさらさらありません」
と清々しい笑顔で継母に告げたとき、リエルは思わず大笑いしそうになったほどだ。


 そしてセビーはふたたびアストレア帝国に留学し、今はアカデミーでの勉学に励んでいる。
 カイルとエマは事務所の近くに小さな家を買い、一緒に暮らし始めた。


 皇宮で暮らし始めたリエルは、帝国の歴史や皇宮について勉強し、歴代皇妃が受け継ぐ記録書も譲り受けた。

 そして、リエルはその日を迎えることとなる。

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