上 下
103 / 110

皇太子の告白

しおりを挟む
 パーティの日から頻繁にリエルのもとを訪れるようになったグレンは、そのまま泊まってしまうことが多かった。
 最近ではリエルのいる屋敷から皇城へ通う日々だ。

 この日の夜もふたりで食事をした。
 リエルはナイフとフォークで丁寧にソテーを切り分けながら呆れ顔で言った。

「いい加減にお城へ戻ったらどうなの?」
「正式に婚約したんだ。一緒に暮らしてもいいだろう?」
「ずっとここから通うつもり? 御者も大変だわ」
「仕事があって退屈しないだろう」

 グレンはそばに控えている執事と使用人に目を向けた。
 すると彼らは満面の笑みでぺこりを頭を下げて、静かに部屋を出て行った。

「え? どうして出て行ったの? あの人たち」
「君とふたりきりで話したいからだよ」
「いつも話しているじゃない」

 グレンは怪訝な表情のリエルをじっと見て、少し考えるそぶりを見せた。
 それから彼は真剣な表情で告げた。

「今晩、君と朝まで過ごしたい」
「うっ……ごほっ!」

 リエルはうっかり噴き出してしまい、慌ててナプキンで口もとを拭った。

「大丈夫?」
「あなたがおかしなことを言うから!」
「俺は本気だ」
「まさか、あの日の続きをしようなんてバカなことを考えているんじゃないでしょうね?」

 パーティの日にリエルを抱きしめたまま放さなかったグレンの姿を思い出し、リエルは頬を赤らめた。
 グレンは肩をすくめながら真面目な顔で話す。

「ああ、あのときは惜しいことをした。邪魔さえなければそのまま君を俺の部屋へ連れ帰ったのに」

 リエルはじろりと睨みつける。
 しかしその胸中はかなり狼狽えていた。

(ルッツの言うことは本当だったの? ほんとにグレンは私のことが……)

 と考えて、もう面倒だから訊いてみることにした。

「グレン、あなた私のことが好きなの?」
「うん、そうだよ」
「えっ……?」

 あまりにもすんなりグレンが認めたので、リエルは呆気にとられた。
 すると彼は首を傾げて訊いた。

「あれ? 気づいてない? おかしいな。あれだけ態度で示したのに」

 リエルは驚愕のあまり固まっている。

(待って。いつ態度で示したの? ぜんぜんわからなかったわよ)

 黙り込んでしまったリエルに、グレンが淡々と告げる。

「君と再会したとき、君の手の甲にキスをしただろう?」

 アランとノエラの目の前で、グレンがリエルの手の甲にキスをしたときのことだ。
 リエルはそれを思い出し、ますます顔が熱くなった。

「あれは、帝国流の挨拶だって……」
「あれは帝国流では相手に好意を持っているという意味だよ」
「な、何を言って……だって、あのとき2回しか会っていないのに」
「ひと目惚れなんだ。初めて君と出会ったとき、衝撃を受けた。運命かと思った」
「ど、どこが……?」

 あれはただ、事件を明るみにするためにリエルはわざとすっとぼけたふりをして犯人に近づいたのだ。
 まったく惚れる要素などどこにもなかったはずだ。

「あなた、本当におかしかったのね。あのときの私に惚れ込んじゃうなんて」
「人を好きになるのに理由なんかない!」

 ドヤ顔でそう言い放つグレンにリエルは少々呆れた。

「そうやって他の女性も口説いてきたの?」
「まさか。ひと目惚れは初めてだ」

 熱烈な告白を受けた気分になり、リエルの鼓動は急激に高鳴った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

王子様、あなたの不貞を私は知っております

岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。 「私は知っております。王子様の不貞を……」 場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で? 本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた

ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。 夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。 令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。 三話完結予定。

処理中です...