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皇太子の告白
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パーティの日から頻繁にリエルのもとを訪れるようになったグレンは、そのまま泊まってしまうことが多かった。
最近ではリエルのいる屋敷から皇城へ通う日々だ。
この日の夜もふたりで食事をした。
リエルはナイフとフォークで丁寧にソテーを切り分けながら呆れ顔で言った。
「いい加減にお城へ戻ったらどうなの?」
「正式に婚約したんだ。一緒に暮らしてもいいだろう?」
「ずっとここから通うつもり? 御者も大変だわ」
「仕事があって退屈しないだろう」
グレンはそばに控えている執事と使用人に目を向けた。
すると彼らは満面の笑みでぺこりを頭を下げて、静かに部屋を出て行った。
「え? どうして出て行ったの? あの人たち」
「君とふたりきりで話したいからだよ」
「いつも話しているじゃない」
グレンは怪訝な表情のリエルをじっと見て、少し考えるそぶりを見せた。
それから彼は真剣な表情で告げた。
「今晩、君と朝まで過ごしたい」
「うっ……ごほっ!」
リエルはうっかり噴き出してしまい、慌ててナプキンで口もとを拭った。
「大丈夫?」
「あなたがおかしなことを言うから!」
「俺は本気だ」
「まさか、あの日の続きをしようなんてバカなことを考えているんじゃないでしょうね?」
パーティの日にリエルを抱きしめたまま放さなかったグレンの姿を思い出し、リエルは頬を赤らめた。
グレンは肩をすくめながら真面目な顔で話す。
「ああ、あのときは惜しいことをした。邪魔さえなければそのまま君を俺の部屋へ連れ帰ったのに」
リエルはじろりと睨みつける。
しかしその胸中はかなり狼狽えていた。
(ルッツの言うことは本当だったの? ほんとにグレンは私のことが……)
と考えて、もう面倒だから訊いてみることにした。
「グレン、あなた私のことが好きなの?」
「うん、そうだよ」
「えっ……?」
あまりにもすんなりグレンが認めたので、リエルは呆気にとられた。
すると彼は首を傾げて訊いた。
「あれ? 気づいてない? おかしいな。あれだけ態度で示したのに」
リエルは驚愕のあまり固まっている。
(待って。いつ態度で示したの? ぜんぜんわからなかったわよ)
黙り込んでしまったリエルに、グレンが淡々と告げる。
「君と再会したとき、君の手の甲にキスをしただろう?」
アランとノエラの目の前で、グレンがリエルの手の甲にキスをしたときのことだ。
リエルはそれを思い出し、ますます顔が熱くなった。
「あれは、帝国流の挨拶だって……」
「あれは帝国流では相手に好意を持っているという意味だよ」
「な、何を言って……だって、あのとき2回しか会っていないのに」
「ひと目惚れなんだ。初めて君と出会ったとき、衝撃を受けた。運命かと思った」
「ど、どこが……?」
あれはただ、事件を明るみにするためにリエルはわざとすっとぼけたふりをして犯人に近づいたのだ。
まったく惚れる要素などどこにもなかったはずだ。
「あなた、本当におかしかったのね。あのときの私に惚れ込んじゃうなんて」
「人を好きになるのに理由なんかない!」
ドヤ顔でそう言い放つグレンにリエルは少々呆れた。
「そうやって他の女性も口説いてきたの?」
「まさか。ひと目惚れは初めてだ」
熱烈な告白を受けた気分になり、リエルの鼓動は急激に高鳴った。
最近ではリエルのいる屋敷から皇城へ通う日々だ。
この日の夜もふたりで食事をした。
リエルはナイフとフォークで丁寧にソテーを切り分けながら呆れ顔で言った。
「いい加減にお城へ戻ったらどうなの?」
「正式に婚約したんだ。一緒に暮らしてもいいだろう?」
「ずっとここから通うつもり? 御者も大変だわ」
「仕事があって退屈しないだろう」
グレンはそばに控えている執事と使用人に目を向けた。
すると彼らは満面の笑みでぺこりを頭を下げて、静かに部屋を出て行った。
「え? どうして出て行ったの? あの人たち」
「君とふたりきりで話したいからだよ」
「いつも話しているじゃない」
グレンは怪訝な表情のリエルをじっと見て、少し考えるそぶりを見せた。
それから彼は真剣な表情で告げた。
「今晩、君と朝まで過ごしたい」
「うっ……ごほっ!」
リエルはうっかり噴き出してしまい、慌ててナプキンで口もとを拭った。
「大丈夫?」
「あなたがおかしなことを言うから!」
「俺は本気だ」
「まさか、あの日の続きをしようなんてバカなことを考えているんじゃないでしょうね?」
パーティの日にリエルを抱きしめたまま放さなかったグレンの姿を思い出し、リエルは頬を赤らめた。
グレンは肩をすくめながら真面目な顔で話す。
「ああ、あのときは惜しいことをした。邪魔さえなければそのまま君を俺の部屋へ連れ帰ったのに」
リエルはじろりと睨みつける。
しかしその胸中はかなり狼狽えていた。
(ルッツの言うことは本当だったの? ほんとにグレンは私のことが……)
と考えて、もう面倒だから訊いてみることにした。
「グレン、あなた私のことが好きなの?」
「うん、そうだよ」
「えっ……?」
あまりにもすんなりグレンが認めたので、リエルは呆気にとられた。
すると彼は首を傾げて訊いた。
「あれ? 気づいてない? おかしいな。あれだけ態度で示したのに」
リエルは驚愕のあまり固まっている。
(待って。いつ態度で示したの? ぜんぜんわからなかったわよ)
黙り込んでしまったリエルに、グレンが淡々と告げる。
「君と再会したとき、君の手の甲にキスをしただろう?」
アランとノエラの目の前で、グレンがリエルの手の甲にキスをしたときのことだ。
リエルはそれを思い出し、ますます顔が熱くなった。
「あれは、帝国流の挨拶だって……」
「あれは帝国流では相手に好意を持っているという意味だよ」
「な、何を言って……だって、あのとき2回しか会っていないのに」
「ひと目惚れなんだ。初めて君と出会ったとき、衝撃を受けた。運命かと思った」
「ど、どこが……?」
あれはただ、事件を明るみにするためにリエルはわざとすっとぼけたふりをして犯人に近づいたのだ。
まったく惚れる要素などどこにもなかったはずだ。
「あなた、本当におかしかったのね。あのときの私に惚れ込んじゃうなんて」
「人を好きになるのに理由なんかない!」
ドヤ顔でそう言い放つグレンにリエルは少々呆れた。
「そうやって他の女性も口説いてきたの?」
「まさか。ひと目惚れは初めてだ」
熱烈な告白を受けた気分になり、リエルの鼓動は急激に高鳴った。
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