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彼らの最後①【アラン&ノエラ】

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 ディアナ王国の王が危篤という情報がリエルの耳にも入った。
 リエルはその日、朝食をとりながらセビーとそのことについて話した。

「王宮は混乱しているでしょうね」
「はい。一応、王位継承権はユリウス殿下に移ったようですが、アラン殿下の派閥貴族が邪魔をするでしょう」
「カーレン家もどちらにつくか、はっきりさせるときが来たわね」

 セビーが少し考えて、話を切り出した。

「僕は一度帰ろうと思います。両親のことも心配ですし」
「そうね。あなたなら、状況を把握してどうすべきかわかっているでしょう」

 セビーは食事をしながら黙って頷く。
 リエルは食事の手を止めて、少し話題を変えた。

「あのね、セビー」
「はい、何でしょう?」
「私、あなたのこと好きよ」
「えっ!? い、いきなり何を?」

 真顔で冷静だったセビーの表情が崩れた。
 それを見たリエルは驚いたが、表情を変えない。

(あらま、セビーったら本当に純粋ピュアだったのね)

「お、お姉さま、今はふざけている場合では……」
「本当のことよ。これまでずっとあなたのお母さまから、あなたと話してはいけないと言われてきたから我慢していたの。だけど、本当はずっと話したかったのよ」
「……お姉さま」

 セビーは頬を赤らめながら、感動しているのか目をキラキラさせている。
 その表情も初めてで、リエルは嬉しくなった。

「遠回りになったけど、あなたに気持ちを伝えられてよかったわ。これからも、私の家族でいてくれる?」
「あ、当たり前じゃないですか……だって、僕は血の繋がったお姉さまの弟ですよ?」
「ふふっ、そうね」

 リエルがにっこりと笑みを向けると、セビーはますます真っ赤になった。


 そして翌日、セビーはディアナ王国へ帰国した。
 その後の手紙でカーレン侯爵家はユリウス殿下の支持にまわったと報告があった。





 その頃、ディアナ王国は国王の容態が悪く城内がざわついていた。
 そのことはノエラの耳にも入ったが、何せ自室から出してもらえないのでいまいち実感がわかないでいた。
 自室に監禁状態でストレスが溜まっていたノエラは部屋中の物に八つ当たりをした。

「あたしをここから出しなさいよ! 殿下に会わせて!」

 ノエラは扉を何度も叩いて騒いだ。
 すると、扉が開いておずおずと使用人が入室した。

「アラン殿下が、ともにお食事をと申しております」

 それを聞いたノエラはぱあっと明るい顔になった。

「やっと殿下とお会いできるのね。ほら、やっぱり殿下にはあたししかいないのよ」

 久しぶりに部屋の外へ出ることを許されたノエラが向かった先は広いダイニングルームだ。
 赤い絨毯が敷かれ、豪華なシャンデリアがきらめき、テーブルには数々の料理が並んでいる。
 まさにこれが妃の食事だ。ここしばらくは部屋で簡素なものしか出されていなかったノエラは感動した。

 テーブルにはアランがすでに着席していた。

「待たせて悪かったな。邪魔者はいなくなったからゆっくり食事をしよう」

 アランは笑みを浮かべながらノエラに声をかけた。
 ノエラは大喜びで席に着く。

「殿下、あたくし寂しかったですわ」
「これからは君とふたりきりだ。もう寂しい思いはさせないぞ」
「嬉しいですわ」

 久しぶりの豪華な食事にノエラは夢中で食べた。
 前菜は新鮮だし、ステーキがあるし、パンは硬くないし、最高だった。

(もうリエルのことなんてどうでもいいわ。この幸せが続くなら)

 ノエラはワインをごくんと飲んだ。

(もうすぐあたしはこの国の王妃よ。国で一番高貴な身分に……)

 ノエラは笑顔のまま、げほっと血を吐いた。

 「えっ……?」

 ノエラはだらだらと口から流血する。
 そして急に胸を押さえて苦しみ出した。

「う……ぐっ……苦し……」

 ノエラはそのまま床に倒れ込む。
 アランが慌てた様子でノエラのそばに駆け寄った。

「ノエラ、どうしたんだ? 誰か宮廷医を呼べ」

 周囲が騒々しくなるが、ノエラの耳にはもはや雑音しか聞こえていなかった。

「殿下、お助け……」

 ノエラが涙目で訴えると、アランはにやりと笑った。

「……殿下?」
「お前はもう必要ない。早く消えてくれ」

 ノエラは驚愕と苦痛で表情が歪んだ。

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