86 / 110
皇帝陛下と謁見①
しおりを挟む
アストレア帝国の皇城には多くの賓客が訪れて賑やかだった。
ディアナ王国の城とは比較にならないほど広大で、リエルは圧倒された。
パーティが始まる前に目立つことを避けるため、グレンはリエルを連れて父のもとへ向かった。
豪奢な貴賓室には赤い絨毯が敷かれ、きらびやかなシャンデリアが部屋全体の金の装飾を照らしキラキラしている。
そのソファ席にドカッと腰を下ろしているのはこの国の皇帝である。
立派な髭を生やしきらびやかな装飾品を身につけた皇帝の顔はいかつい。
リエルは緊張のあまり硬直してしまった。
皇帝は険しい顔つきでリエルを品定めするように上から下までじっくりと眺める。
そして、低い声でリエルに声をかける。
「そなたがグレイアムの恋人というのは本当か?」
リエルはどきりとした。
偽物であることに今さら罪悪感を抱く。
その質問にはグレンが答えた。
「そうだよ。俺は彼女と結婚しようと思う」
あまりにあっさりとした返答にリエルは驚く。
(えっ……皇帝陛下にそんな口の利き方でいいの? 私でもお父さまに敬語なのに)
皇帝はじろりとリエルを見つめた。
その視線にリエルはびくっと震え、慌てて頭を下げる。
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。私はリエル・カーレンと申します」
「ふむ。そなたはディアナ王国の人間だと聞いたが?」
「はい。その通りでございます」
リエルは緊張のあまり鼓動が高鳴る。
(小国の令嬢という目で見られているのかしら?)
リエルはぎゅっと唇を引き結び、まっすぐ皇帝を見つめた。
リエルがあまりにガチガチになっているせいか、となりでグレンがそっとささやく。
「大丈夫」
グレンはリエルの背中に手を添えた。
そのおかげで少しばかりリエルは安堵した。
「では訊かせてもらおう。令嬢は息子のどこに惚れたのかね?」
「えっ……?」
いきなり予定外の質問をされて、リエルは戸惑った。
こんな質問をされるとは思わなかったのだ。
もっと経済や情勢の話でもされるのかと思い、そちらの準備はしっかりしておいたのに、まさかの事態である。
(グレンのどこに惚れたですって!?)
当の本人はとなりでにこにこしている。
リエルは返答に困っている。
(本当の恋人じゃないんだから、そんなことわかるわけないわ)
リエルはぐっと口をつぐんだまま黙り込んでしまった。
わずかに期待してグレンを横目で見やる。しかし彼はまったくフォローしてくれない。
困ったリエルは少し記憶を整理してみることにした。
グレンとは町で偶然出会った。最初は軽そうな男だと思った。
王宮で再会したときは驚いたが、彼と仕事の話をするうちに誠実であると気づいた。
皇太子という立場なのに見栄を張ったり体裁を保とうとしたりしない。
常に自分を客観的に捉えて見ている。
自分を犠牲にして民のために動くというのはやり過ぎかもしれないと思うが、それが彼のやり方ならリエルには何も言えない。
普段は軽い口を叩くくせに、リエルのことに関してはとても真面目に考えてくれた。
『君を必要とする場所はこの世界にいくらでもある』
グレンのあの言葉をリエルは忘れることができない。
死を回避してもリエルは身を潜めて暮らすことになると思っていた。
それを、彼が光ある世界へ連れ出してくれたのだ。
ディアナ王国の城とは比較にならないほど広大で、リエルは圧倒された。
パーティが始まる前に目立つことを避けるため、グレンはリエルを連れて父のもとへ向かった。
豪奢な貴賓室には赤い絨毯が敷かれ、きらびやかなシャンデリアが部屋全体の金の装飾を照らしキラキラしている。
そのソファ席にドカッと腰を下ろしているのはこの国の皇帝である。
立派な髭を生やしきらびやかな装飾品を身につけた皇帝の顔はいかつい。
リエルは緊張のあまり硬直してしまった。
皇帝は険しい顔つきでリエルを品定めするように上から下までじっくりと眺める。
そして、低い声でリエルに声をかける。
「そなたがグレイアムの恋人というのは本当か?」
リエルはどきりとした。
偽物であることに今さら罪悪感を抱く。
その質問にはグレンが答えた。
「そうだよ。俺は彼女と結婚しようと思う」
あまりにあっさりとした返答にリエルは驚く。
(えっ……皇帝陛下にそんな口の利き方でいいの? 私でもお父さまに敬語なのに)
皇帝はじろりとリエルを見つめた。
その視線にリエルはびくっと震え、慌てて頭を下げる。
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。私はリエル・カーレンと申します」
「ふむ。そなたはディアナ王国の人間だと聞いたが?」
「はい。その通りでございます」
リエルは緊張のあまり鼓動が高鳴る。
(小国の令嬢という目で見られているのかしら?)
リエルはぎゅっと唇を引き結び、まっすぐ皇帝を見つめた。
リエルがあまりにガチガチになっているせいか、となりでグレンがそっとささやく。
「大丈夫」
グレンはリエルの背中に手を添えた。
そのおかげで少しばかりリエルは安堵した。
「では訊かせてもらおう。令嬢は息子のどこに惚れたのかね?」
「えっ……?」
いきなり予定外の質問をされて、リエルは戸惑った。
こんな質問をされるとは思わなかったのだ。
もっと経済や情勢の話でもされるのかと思い、そちらの準備はしっかりしておいたのに、まさかの事態である。
(グレンのどこに惚れたですって!?)
当の本人はとなりでにこにこしている。
リエルは返答に困っている。
(本当の恋人じゃないんだから、そんなことわかるわけないわ)
リエルはぐっと口をつぐんだまま黙り込んでしまった。
わずかに期待してグレンを横目で見やる。しかし彼はまったくフォローしてくれない。
困ったリエルは少し記憶を整理してみることにした。
グレンとは町で偶然出会った。最初は軽そうな男だと思った。
王宮で再会したときは驚いたが、彼と仕事の話をするうちに誠実であると気づいた。
皇太子という立場なのに見栄を張ったり体裁を保とうとしたりしない。
常に自分を客観的に捉えて見ている。
自分を犠牲にして民のために動くというのはやり過ぎかもしれないと思うが、それが彼のやり方ならリエルには何も言えない。
普段は軽い口を叩くくせに、リエルのことに関してはとても真面目に考えてくれた。
『君を必要とする場所はこの世界にいくらでもある』
グレンのあの言葉をリエルは忘れることができない。
死を回避してもリエルは身を潜めて暮らすことになると思っていた。
それを、彼が光ある世界へ連れ出してくれたのだ。
1,886
お気に入りに追加
5,350
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
【完結】ありのままのわたしを愛して
彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。
そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。
私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?
自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた
ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。
夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。
令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。
三話完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる