85 / 110
パーティの準備【アラン&ノエラ&リエル】
しおりを挟む
アランのもとに、侍従が一通の招待状を持ってやって来た。
それを見たアランはわずかに眉をひそめた。
「アストレア帝国主催のパーティか?」
「はい。去年は陛下がご欠席なさっておりますので、今年はご出席されたほうがよろしいかと思います」
侍従は頭を下げたまま返答する。
アランが考え込む様子を見た侍従は不安そうな顔になる。
しかし、アランの反応は思わぬものだった。
「わかった」
「え?」
「何だ? 変な顔をして」
「いいえ。まさかすぐに了承をいただけると思いませんでしたので」
あまりにあっさりしたアランの返事に侍従は戸惑っていた。
「ふんっ! 皇太子に怖気づいたと思われたくないからな!」
「……はぁ」
侍従は気の抜けたような声を出し、同時に安堵の表情を浮かべた。
しかし、アランのパーティ出席の理由は皇太子ではなかった。
(パーティへ行けばリエルに会えるだろう。会えなければ探させればいい)
アランはにやりと笑みを浮かべた。
(リエル、お前は逃げられない。いずれ俺のところへ戻ってくることになるんだ)
アランは招待状を見下ろし、そこにリエルの面影を見てつい笑い声を洩らす。
(どんな手を使ってもリエルを取り戻してやる)
そばにいた侍従は怪訝な表情をしていた。
*
アランとともにパーティに出席することが決まったノエラのところに王室御用達の衣装屋が訪れていた。
しかし――。
「これじゃないわよ!」
ドレスの試着したあと、ノエラは衣装屋に怒りをぶつけた。
「帝国のパーティへ出席するのよ。アラン殿下の妃として恥ずかしくない格好でないといけないのに、あなたにはセンスってものがないのよ!」
ノエラはソファにあるクッションを衣装屋に投げつけた。
衣装屋はそれを顔面で受けとめたが、なんとか平静を保ち、深々と頭を下げる。
「申しわけございません。ふたたび新しいドレスをご用意いたします」
「絶対に間に合わせるのよ。できなかったらタダじゃおかないわ」
ノエラがぎろりと睨みつけると、衣装屋はびくっと震え上がった。
そんなとき、侍女が大きな箱を持って部屋へ戻ってきた。
「妃さま、ナグレタ衣装店に注文していたストールが届きました」
それを聞いたノエラは急にご機嫌になり、急いで侍女に駆け寄った。
「ああ、待っていたわ。早く開けなさい」
ノエラに命じられて、侍女は丁寧に包装された箱のリボンをほどく。
蓋を開けると中にはきらめくラメの入ったピンクのストールがあった。
ノエラはそれを手に取り、ひらりと広げてみせた。
「きゃあっ、素敵! あたしのストールだわ」
大喜びのノエラを見て、使用人たちは安堵したようにため息をついた。
ノエラは満面の笑みを衣装屋に向ける。
「いいわ。このストールに合うドレスがあるから、もうお前は来なくて結構よ」
「かしこまりました」
衣装屋は硬い表情をしたまま深く頭を下げて退出した。
だが、部屋を出るときには安堵の表情をしていた。
ノエラはストールを肩にかけてみたり、首に巻いてみたりして、触り心地なども確かめた。
そして、にんまり笑う。
(最近の殿下はそっけないから、パーティであたしが男たちに注目されるのを見せて嫉妬させちゃおう)
ノエラの久しぶりの無邪気な笑顔に使用人たちは心底安堵していた。
*
一方のアストレア帝国ではパーティの開催に合わせて貴族たちが皇都へ集まっていた。
リエルはその日、早朝から高級な香油を使って湯浴みをしたあと、宝石が散りばめられたブルーのドレスに身を包んだ。
髪は半分ほど頭上でまとめて、あとは流すようなハーフアップにこちらも宝石を散りばめたようなきらめきがある。
最後にラメの入った淡いブルーのストールをふわっと首に巻いた。
これは試作品として作ったもので、これほど貴族が集まる機会はそうそうないので、当たり前のように売り込む気満々だった。
「リエルさま、本当に素敵ですわ!」
「すでに皇妃の貫禄がおありですわね!」
「殿下と並ばれたら美男美女ですわ!」
使用人たちがきゃあきゃあ騒ぐ中、エマはお茶を飲みながら不貞腐れていた。
「私の仕事なのに……」
しばらくするとグレンが現れた。
こちらもシルバーグレーの正装にいくつもの宝石や装飾品を身につけ、以前に見た公爵家のパーティのときよりもきらびやかである。
リエルはその姿にうっかり見惚れてしまった。
「ご覧ください、殿下。今日はとびきりお美しいでしょう?」
「私たち頑張りました!」
「殿下のとなりにお似合いの令嬢ですわ」
使用人たちにべた褒めされて、リエルは照れくさくなり、ますます頬を赤らめた。
黙っていると、グレンが近くでじっと見つめて言った。
「ああ、本当に綺麗だ」
リエルはどきりとしてグレンを見上げる。
(演技、なのよね……?)
戸惑うリエルに、グレンは笑顔で手を差し伸べる。
「さあ、行こう」
リエルは頬を赤らめながら遠慮がちにその手を取って「ええ」と笑顔で返事をした。
(演技でもいいわ。今は心から楽しむことにしよう)
エマと使用人たちはにこにこしながらふたりを見送る。
「リエルさま、頑張ってくださいね!」
「留守をお願いね、エマ」
「お任せください」
リエルとグレンが手をつないで屋敷を出ていったあと、エマと使用人たちは紅茶とケーキをおともにふたりの将来についての話で盛り上がった。
それを見たアランはわずかに眉をひそめた。
「アストレア帝国主催のパーティか?」
「はい。去年は陛下がご欠席なさっておりますので、今年はご出席されたほうがよろしいかと思います」
侍従は頭を下げたまま返答する。
アランが考え込む様子を見た侍従は不安そうな顔になる。
しかし、アランの反応は思わぬものだった。
「わかった」
「え?」
「何だ? 変な顔をして」
「いいえ。まさかすぐに了承をいただけると思いませんでしたので」
あまりにあっさりしたアランの返事に侍従は戸惑っていた。
「ふんっ! 皇太子に怖気づいたと思われたくないからな!」
「……はぁ」
侍従は気の抜けたような声を出し、同時に安堵の表情を浮かべた。
しかし、アランのパーティ出席の理由は皇太子ではなかった。
(パーティへ行けばリエルに会えるだろう。会えなければ探させればいい)
アランはにやりと笑みを浮かべた。
(リエル、お前は逃げられない。いずれ俺のところへ戻ってくることになるんだ)
アランは招待状を見下ろし、そこにリエルの面影を見てつい笑い声を洩らす。
(どんな手を使ってもリエルを取り戻してやる)
そばにいた侍従は怪訝な表情をしていた。
*
アランとともにパーティに出席することが決まったノエラのところに王室御用達の衣装屋が訪れていた。
しかし――。
「これじゃないわよ!」
ドレスの試着したあと、ノエラは衣装屋に怒りをぶつけた。
「帝国のパーティへ出席するのよ。アラン殿下の妃として恥ずかしくない格好でないといけないのに、あなたにはセンスってものがないのよ!」
ノエラはソファにあるクッションを衣装屋に投げつけた。
衣装屋はそれを顔面で受けとめたが、なんとか平静を保ち、深々と頭を下げる。
「申しわけございません。ふたたび新しいドレスをご用意いたします」
「絶対に間に合わせるのよ。できなかったらタダじゃおかないわ」
ノエラがぎろりと睨みつけると、衣装屋はびくっと震え上がった。
そんなとき、侍女が大きな箱を持って部屋へ戻ってきた。
「妃さま、ナグレタ衣装店に注文していたストールが届きました」
それを聞いたノエラは急にご機嫌になり、急いで侍女に駆け寄った。
「ああ、待っていたわ。早く開けなさい」
ノエラに命じられて、侍女は丁寧に包装された箱のリボンをほどく。
蓋を開けると中にはきらめくラメの入ったピンクのストールがあった。
ノエラはそれを手に取り、ひらりと広げてみせた。
「きゃあっ、素敵! あたしのストールだわ」
大喜びのノエラを見て、使用人たちは安堵したようにため息をついた。
ノエラは満面の笑みを衣装屋に向ける。
「いいわ。このストールに合うドレスがあるから、もうお前は来なくて結構よ」
「かしこまりました」
衣装屋は硬い表情をしたまま深く頭を下げて退出した。
だが、部屋を出るときには安堵の表情をしていた。
ノエラはストールを肩にかけてみたり、首に巻いてみたりして、触り心地なども確かめた。
そして、にんまり笑う。
(最近の殿下はそっけないから、パーティであたしが男たちに注目されるのを見せて嫉妬させちゃおう)
ノエラの久しぶりの無邪気な笑顔に使用人たちは心底安堵していた。
*
一方のアストレア帝国ではパーティの開催に合わせて貴族たちが皇都へ集まっていた。
リエルはその日、早朝から高級な香油を使って湯浴みをしたあと、宝石が散りばめられたブルーのドレスに身を包んだ。
髪は半分ほど頭上でまとめて、あとは流すようなハーフアップにこちらも宝石を散りばめたようなきらめきがある。
最後にラメの入った淡いブルーのストールをふわっと首に巻いた。
これは試作品として作ったもので、これほど貴族が集まる機会はそうそうないので、当たり前のように売り込む気満々だった。
「リエルさま、本当に素敵ですわ!」
「すでに皇妃の貫禄がおありですわね!」
「殿下と並ばれたら美男美女ですわ!」
使用人たちがきゃあきゃあ騒ぐ中、エマはお茶を飲みながら不貞腐れていた。
「私の仕事なのに……」
しばらくするとグレンが現れた。
こちらもシルバーグレーの正装にいくつもの宝石や装飾品を身につけ、以前に見た公爵家のパーティのときよりもきらびやかである。
リエルはその姿にうっかり見惚れてしまった。
「ご覧ください、殿下。今日はとびきりお美しいでしょう?」
「私たち頑張りました!」
「殿下のとなりにお似合いの令嬢ですわ」
使用人たちにべた褒めされて、リエルは照れくさくなり、ますます頬を赤らめた。
黙っていると、グレンが近くでじっと見つめて言った。
「ああ、本当に綺麗だ」
リエルはどきりとしてグレンを見上げる。
(演技、なのよね……?)
戸惑うリエルに、グレンは笑顔で手を差し伸べる。
「さあ、行こう」
リエルは頬を赤らめながら遠慮がちにその手を取って「ええ」と笑顔で返事をした。
(演技でもいいわ。今は心から楽しむことにしよう)
エマと使用人たちはにこにこしながらふたりを見送る。
「リエルさま、頑張ってくださいね!」
「留守をお願いね、エマ」
「お任せください」
リエルとグレンが手をつないで屋敷を出ていったあと、エマと使用人たちは紅茶とケーキをおともにふたりの将来についての話で盛り上がった。
2,136
お気に入りに追加
5,350
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた
ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。
夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。
令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。
三話完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる