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パーティの準備【アラン&ノエラ&リエル】

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 アランのもとに、侍従が一通の招待状を持ってやって来た。
 それを見たアランはわずかに眉をひそめた。

「アストレア帝国主催のパーティか?」
「はい。去年は陛下がご欠席なさっておりますので、今年はご出席されたほうがよろしいかと思います」

 侍従は頭を下げたまま返答する。
 アランが考え込む様子を見た侍従は不安そうな顔になる。
 しかし、アランの反応は思わぬものだった。

「わかった」
「え?」
「何だ? 変な顔をして」
「いいえ。まさかすぐに了承をいただけると思いませんでしたので」

 あまりにあっさりしたアランの返事に侍従は戸惑っていた。

「ふんっ! 皇太子に怖気おじけづいたと思われたくないからな!」
「……はぁ」

 侍従は気の抜けたような声を出し、同時に安堵の表情を浮かべた。
 しかし、アランのパーティ出席の理由は皇太子ではなかった。


(パーティへ行けばリエルに会えるだろう。会えなければ探させればいい)

 アランはにやりと笑みを浮かべた。

(リエル、お前は逃げられない。いずれ俺のところへ戻ってくることになるんだ)

 アランは招待状を見下ろし、そこにリエルの面影を見てつい笑い声を洩らす。

(どんな手を使ってもリエルを取り戻してやる)

 そばにいた侍従は怪訝な表情をしていた。


 *


 アランとともにパーティに出席することが決まったノエラのところに王室御用達の衣装屋が訪れていた。
 しかし――。

「これじゃないわよ!」

 ドレスの試着したあと、ノエラは衣装屋に怒りをぶつけた。

「帝国のパーティへ出席するのよ。アラン殿下の妃として恥ずかしくない格好でないといけないのに、あなたにはセンスってものがないのよ!」

 ノエラはソファにあるクッションを衣装屋に投げつけた。
 衣装屋はそれを顔面で受けとめたが、なんとか平静を保ち、深々と頭を下げる。

「申しわけございません。ふたたび新しいドレスをご用意いたします」
「絶対に間に合わせるのよ。できなかったらタダじゃおかないわ」

 ノエラがぎろりと睨みつけると、衣装屋はびくっと震え上がった。
 そんなとき、侍女が大きな箱を持って部屋へ戻ってきた。

「妃さま、ナグレタ衣装店に注文していたストールが届きました」

 それを聞いたノエラは急にご機嫌になり、急いで侍女に駆け寄った。

「ああ、待っていたわ。早く開けなさい」

 ノエラに命じられて、侍女は丁寧に包装された箱のリボンをほどく。
 蓋を開けると中にはきらめくラメの入ったピンクのストールがあった。
 ノエラはそれを手に取り、ひらりと広げてみせた。

「きゃあっ、素敵! あたしのストールだわ」

 大喜びのノエラを見て、使用人たちは安堵したようにため息をついた。
 ノエラは満面の笑みを衣装屋に向ける。

「いいわ。このストールに合うドレスがあるから、もうお前は来なくて結構よ」
「かしこまりました」

 衣装屋は硬い表情をしたまま深く頭を下げて退出した。
 だが、部屋を出るときには安堵の表情をしていた。

 ノエラはストールを肩にかけてみたり、首に巻いてみたりして、触り心地なども確かめた。
 そして、にんまり笑う。

(最近の殿下はそっけないから、パーティであたしが男たちに注目されるのを見せて嫉妬させちゃおう)

 ノエラの久しぶりの無邪気な笑顔に使用人たちは心底安堵していた。


 *


 一方のアストレア帝国ではパーティの開催に合わせて貴族たちが皇都へ集まっていた。
 リエルはその日、早朝から高級な香油を使って湯浴みをしたあと、宝石が散りばめられたブルーのドレスに身を包んだ。
 髪は半分ほど頭上でまとめて、あとは流すようなハーフアップにこちらも宝石を散りばめたようなきらめきがある。
 最後にラメの入った淡いブルーのストールをふわっと首に巻いた。
 これは試作品として作ったもので、これほど貴族が集まる機会はそうそうないので、当たり前のように売り込む気満々だった。

「リエルさま、本当に素敵ですわ!」
「すでに皇妃の貫禄がおありですわね!」
「殿下と並ばれたら美男美女ですわ!」

 使用人たちがきゃあきゃあ騒ぐ中、エマはお茶を飲みながら不貞腐れていた。

「私の仕事なのに……」

 しばらくするとグレンが現れた。
 こちらもシルバーグレーの正装にいくつもの宝石や装飾品を身につけ、以前に見た公爵家のパーティのときよりもきらびやかである。
 リエルはその姿にうっかり見惚れてしまった。

「ご覧ください、殿下。今日はとびきりお美しいでしょう?」
「私たち頑張りました!」
「殿下のとなりにお似合いの令嬢ですわ」

 使用人たちにべた褒めされて、リエルは照れくさくなり、ますます頬を赤らめた。
 黙っていると、グレンが近くでじっと見つめて言った。

「ああ、本当に綺麗だ」

 リエルはどきりとしてグレンを見上げる。

(演技、なのよね……?)

 戸惑うリエルに、グレンは笑顔で手を差し伸べる。

「さあ、行こう」

 リエルは頬を赤らめながら遠慮がちにその手を取って「ええ」と笑顔で返事をした。

(演技でもいいわ。今は心から楽しむことにしよう)

 エマと使用人たちはにこにこしながらふたりを見送る。

「リエルさま、頑張ってくださいね!」
「留守をお願いね、エマ」
「お任せください」

 リエルとグレンが手をつないで屋敷を出ていったあと、エマと使用人たちは紅茶とケーキをおともにふたりの将来についての話で盛り上がった。

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