79 / 110
私を陥れたモノの正体②
しおりを挟む
頭の中にあのときのことが鮮明によみがえり、リエルはとっさにカイルの持っている箱の中に手を突っ込んで薬草の匂いを嗅いだ。
(この匂い……かすかだけど、似ているわ。ノエラのくれたあの薬に)
深刻な顔をするリエルにまわりが不思議そうにしている。
「リエルさま、どうかしましたか?」
カイルが声をかけるとリエルはすぐに質問した。
「この薬、どんな毒にも効くの?」
それにはグレンが答えた。
「すべてに効くわけではないよ。毒によって効果が変わる。だから、これを飲んでおけば必ず解毒できるとは限らない」
「じゃあ、これが効く毒だと知っていれば可能なのね」
グレンとカイルは怪訝な表情で顔を見合わせる。
リエルが慌てる理由がいまいちわからないからだ。
しかし、リエルはひとつの仮説を頭に思い浮かべていた。
(ノエラは最初から計画していたのよ。毒とこの薬を準備して、私とユリウスが一緒にお茶をすることを知っていたからそれを利用した)
リエルの仮説はこうだ。
当時、ノエラはキッチンで使用人の目を盗んで紅茶のポットに毒を盛り、リそれをリエルとユリウスが飲んだ。
毎日解毒薬を飲んでいたリエルだけが助かった。
そして、偶然を装って部屋を訪れたノエラによって、リエルが犯人に仕立て上げられたのだ。
(けれど、同じ日に国王陛下も毒殺されそうになっていた。私の処刑はそれが一番の理由だったはず。まさかノエラは陛下にも毒を……?)
じっと黙って考え込むリエルに、グレンが声をかける。
「リエル、何か気になることでもあるのか?」
「この薬草はどこで手に入るの?」
「この国の辺境にあるエセルの森でしか取れない。稀少な代物だから皇宮と一部の貴族が手に入れられるだけで民のあいだには出回っていない。外国とも取引きしていないよ」
リエルは訝しげな表情で訊いた。
「たとえばこれが外国で使われているとしたら?」
それにはグレンが複雑な表情をした。
リエルはぴんと来た。
「何か知っているのね?」
「闇商人が他国と高値で取引きしている。正式ルートを通していないから記録に残らない。その薬だけではないが」
グレンの説明を聞いて、リエルはふと思いついた。
「あなたが素性を隠して他国を動き回っているのは、その闇商人を捕らえるためなの?」
「まあ、それもあるし、単に旅行が好きなだけってのもある」
「何それ」
リエルは呆れた表情をする。
「ところでリエルはなぜその薬草が気になるんだ?」
事実を言ったところで、回帰前の出来事などどうやっても信じてもらえないだろう。
「興味本位よ。だって解毒作用のある薬だなんてすごいじゃない」
リエルは笑顔で誤魔化した。
すると、セビーがリエルの邪魔をするようにグレンとのあいだに割って入る。
「僕も大変興味があります! ぜひ皇太子殿下の詳しいお話がお聞きしたいと思います!」
目をキラキラさせながら乗り気なセビーを見て、グレンは微妙な表情になった。
「そっか。じゃあまた暇なときにでも話そうか」
(あ、これ絶対面倒だって思ってるわね)
リエルはグレンを半眼で見つめながら胸中で呟く。
「みなさーん、クッキーが焼けましたよ」
エマの明るい声が響きわたると、カイルが一番にすっ飛んでいった。
(この匂い……かすかだけど、似ているわ。ノエラのくれたあの薬に)
深刻な顔をするリエルにまわりが不思議そうにしている。
「リエルさま、どうかしましたか?」
カイルが声をかけるとリエルはすぐに質問した。
「この薬、どんな毒にも効くの?」
それにはグレンが答えた。
「すべてに効くわけではないよ。毒によって効果が変わる。だから、これを飲んでおけば必ず解毒できるとは限らない」
「じゃあ、これが効く毒だと知っていれば可能なのね」
グレンとカイルは怪訝な表情で顔を見合わせる。
リエルが慌てる理由がいまいちわからないからだ。
しかし、リエルはひとつの仮説を頭に思い浮かべていた。
(ノエラは最初から計画していたのよ。毒とこの薬を準備して、私とユリウスが一緒にお茶をすることを知っていたからそれを利用した)
リエルの仮説はこうだ。
当時、ノエラはキッチンで使用人の目を盗んで紅茶のポットに毒を盛り、リそれをリエルとユリウスが飲んだ。
毎日解毒薬を飲んでいたリエルだけが助かった。
そして、偶然を装って部屋を訪れたノエラによって、リエルが犯人に仕立て上げられたのだ。
(けれど、同じ日に国王陛下も毒殺されそうになっていた。私の処刑はそれが一番の理由だったはず。まさかノエラは陛下にも毒を……?)
じっと黙って考え込むリエルに、グレンが声をかける。
「リエル、何か気になることでもあるのか?」
「この薬草はどこで手に入るの?」
「この国の辺境にあるエセルの森でしか取れない。稀少な代物だから皇宮と一部の貴族が手に入れられるだけで民のあいだには出回っていない。外国とも取引きしていないよ」
リエルは訝しげな表情で訊いた。
「たとえばこれが外国で使われているとしたら?」
それにはグレンが複雑な表情をした。
リエルはぴんと来た。
「何か知っているのね?」
「闇商人が他国と高値で取引きしている。正式ルートを通していないから記録に残らない。その薬だけではないが」
グレンの説明を聞いて、リエルはふと思いついた。
「あなたが素性を隠して他国を動き回っているのは、その闇商人を捕らえるためなの?」
「まあ、それもあるし、単に旅行が好きなだけってのもある」
「何それ」
リエルは呆れた表情をする。
「ところでリエルはなぜその薬草が気になるんだ?」
事実を言ったところで、回帰前の出来事などどうやっても信じてもらえないだろう。
「興味本位よ。だって解毒作用のある薬だなんてすごいじゃない」
リエルは笑顔で誤魔化した。
すると、セビーがリエルの邪魔をするようにグレンとのあいだに割って入る。
「僕も大変興味があります! ぜひ皇太子殿下の詳しいお話がお聞きしたいと思います!」
目をキラキラさせながら乗り気なセビーを見て、グレンは微妙な表情になった。
「そっか。じゃあまた暇なときにでも話そうか」
(あ、これ絶対面倒だって思ってるわね)
リエルはグレンを半眼で見つめながら胸中で呟く。
「みなさーん、クッキーが焼けましたよ」
エマの明るい声が響きわたると、カイルが一番にすっ飛んでいった。
2,254
お気に入りに追加
5,350
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
【完結】ありのままのわたしを愛して
彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。
そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。
私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?
自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる