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私を陥れたモノの正体②

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 頭の中にあのときのことが鮮明によみがえり、リエルはとっさにカイルの持っている箱の中に手を突っ込んで薬草の匂いを嗅いだ。

(この匂い……かすかだけど、似ているわ。ノエラのくれたあの薬に)

 深刻な顔をするリエルにまわりが不思議そうにしている。

「リエルさま、どうかしましたか?」

 カイルが声をかけるとリエルはすぐに質問した。

「この薬、どんな毒にも効くの?」

 それにはグレンが答えた。

「すべてに効くわけではないよ。毒によって効果が変わる。だから、これを飲んでおけば必ず解毒できるとは限らない」
「じゃあ、これが効く毒だと知っていれば可能なのね」

 グレンとカイルは怪訝な表情で顔を見合わせる。
 リエルが慌てる理由がいまいちわからないからだ。
 しかし、リエルはひとつの仮説を頭に思い浮かべていた。

(ノエラは最初から計画していたのよ。毒とこの薬を準備して、私とユリウスが一緒にお茶をすることを知っていたからそれを利用した)

 リエルの仮説はこうだ。
 当時、ノエラはキッチンで使用人の目を盗んで紅茶のポットに毒を盛り、リそれをリエルとユリウスが飲んだ。
 毎日解毒薬を飲んでいたリエルだけが助かった。
 そして、偶然を装って部屋を訪れたノエラによって、リエルが犯人に仕立て上げられたのだ。

(けれど、同じ日に国王陛下も毒殺されそうになっていた。私の処刑はそれが一番の理由だったはず。まさかノエラは陛下にも毒を……?)

 じっと黙って考え込むリエルに、グレンが声をかける。

「リエル、何か気になることでもあるのか?」
「この薬草はどこで手に入るの?」
「この国の辺境にあるエセルの森でしか取れない。稀少な代物だから皇宮と一部の貴族が手に入れられるだけで民のあいだには出回っていない。外国とも取引きしていないよ」

 リエルは訝しげな表情で訊いた。

「たとえばこれが外国で使われているとしたら?」

 それにはグレンが複雑な表情をした。
 リエルはぴんと来た。

「何か知っているのね?」
「闇商人が他国と高値で取引きしている。正式ルートを通していないから記録に残らない。その薬だけではないが」

 グレンの説明を聞いて、リエルはふと思いついた。

「あなたが素性を隠して他国を動き回っているのは、その闇商人を捕らえるためなの?」
「まあ、それもあるし、単に旅行が好きなだけってのもある」
「何それ」

 リエルは呆れた表情をする。

「ところでリエルはなぜその薬草が気になるんだ?」

 事実を言ったところで、回帰前の出来事などどうやっても信じてもらえないだろう。

「興味本位よ。だって解毒作用のある薬だなんてすごいじゃない」

 リエルは笑顔で誤魔化した。
 すると、セビーがリエルの邪魔をするようにグレンとのあいだに割って入る。

「僕も大変興味があります! ぜひ皇太子殿下の詳しいお話がお聞きしたいと思います!」

 目をキラキラさせながら乗り気なセビーを見て、グレンは微妙な表情になった。

「そっか。じゃあまた暇なときにでも話そうか」

(あ、これ絶対面倒だって思ってるわね)

 リエルはグレンを半眼で見つめながら胸中で呟く。

「みなさーん、クッキーが焼けましたよ」

 エマの明るい声が響きわたると、カイルが一番にすっ飛んでいった。

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