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私を陥れたモノの正体①

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 リエルが無事に帝国へ戻ったことを聞いたグレンがザスター商会の事務所へ足を運んだ。
 リエルはカイルとグレンにディアナ王国でのことを報告する。
 すると、それを聞いたふたりは爆笑した。

「俺もその場にいたかったなあ」
「やめてちょうだい。あなたがいたらアランが壊れてしまうわ」
「むしろそれを望んでいるんだけど」

 ふふっと笑うグレンを見て、リエルは呆れ顔になる。

(この人はどこまで本気なのかしら?)

 にこにこ笑うグレンを見つめながら、リエルは話題を変えた。

「それにしてもルッツの威嚇がすごかったわ。アランを一瞬で黙らせたもの」

 それを聞いたカイルが嬉しそうに話す。

「兄さんは顔だけはめちゃくちゃ怖いって言われますから」
「本当にあなたと兄弟なのか不思議なくらい似ていないわね」
「あれでも家族には優しいんですよ。自慢の兄です」

 カイルは照れくさそうに頬を赤らめた。

 リエルは離れた場所にいる弟に向かって声をかける。

「ところでセビー。そんなところにいないで、こっちに来たら?」
「結構です。僕は隅っこが好きなんだ」

 セビーは小さな椅子に座って分厚い本を読んでいる。
 彼はグレンに笑顔を向けられて赤面し、慌てて本で顔を隠した。
 リエルはセビーのそばに行き、本を覗き込む。

「あなた、さっきから何を読んでいるの?」
「ああ、これは薬草学の本ですよ。僕はアカデミーで薬草について学ぶつもりです。この国の薬学は非常に優れていますからね」

 アストレア帝国の薬学が発達していることはリエルも知っている。
 だが、弟がそれを学んでいることは知らなかった。
 カイルが興味深そうにセビーに話しかける。

「もし薬草学に詳しいなら教えてほしいことがあるんですけど」
「何ですか?」
「とある薬師から栄養にいいからと大量に譲り受けた薬草があるんです。でもほとんど味がしないから正直これを売るのはどうなのかなあと思って」

 カイルが木製の箱を開けるとそこには大量の薬草が入っていた。

 セビーはそれを手に乗せて匂いを嗅いだ。

「これは、えっと……ラグ、ラグルエ……」
「ラグレンスの葉だ」

 グレンが近づいて薬草を指で掴む。
 セビーは驚愕のあまり硬直した。

「日常的に服用すると身体にいいとされている。体内の毒を分解して排出する働きがある。たいていの毒に効果的だが劇的な解毒はできない。だから毎日少しずつ飲む」

 カイルは正体がわかったことで明るい表情になった。

「詳しいですね、グレンさま」
「幼い頃から毒を盛られてきたからね。だいたいの毒は経験済みだ」
「……笑えないです」

 にっこり笑うグレンに対し、カイルは真顔で答えた。
 リエルはその葉をじっと見て、眉をひそめる。
 そして、回帰前のある出来事を思い出した。

 ――――
 ―――――――

 リエルは度重なるアランからの叱責と大量の仕事に追われ、精神的に参って食事ができなくなっていた。
 そんなとき、ノエラが栄養にいいと言って薬をくれたのだ。

「あなたのことが心配なの。食事が喉を通らないならいい薬があるわ」

 液体の薬が入った小さな瓶をリエルは何の疑いもなく受けとった。

「これを2、3滴ずつ紅茶に入れて飲めばいいわ」
「ありがとう、ノエラ」
「いいのよ。親友としてできる限りあなたの助けになりたいもの」
「嬉しいわ。さっそく今日から飲んでみるわね」
「ええ。頭が働くようになれば殿下もあなたを認めてくれるはずよ」

 アランが認めてくれる。
 その言葉がリエルの励みになっていた。

 彼が怒るのはリエルの要領が悪いから。
 彼の機嫌が悪いのはリエルの気遣いが足りないから。
 リエルはそう思い込んでいた。

「きっとノエラのように気遣いのできる女性が殿下には必要なんだわ」
「何を言っているのよ。あなたもこれから頑張ればいいだけよ」
「ええ、頑張るわ」

 それからリエルは毎日紅茶にその薬を混ぜて飲んだ。
 味はまったく変わらないので飲みやすかった。
 効果はよくわからなかった。

 それからひと月後、あの事件が起こった。

「リエル? あなた、なんてことを……」
「違うわ、ノエラ。私は彼とお茶を飲んでいただけなの。急に彼がこんなことに……」

 リエルは血を吐いて絶命するユリウスを抱きかかえ、それをノエラは驚愕の表情で見つめた。
 そして、アランはリエルを問い詰めたのだ。

「リエル、なぜ殺した?」
「違います、殿下! 私ではありません」
「なぜお前は同じ茶を飲んで平気なんだ?」

 ―――――――
 ――――

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