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どうしてうまくいかない!?【アラン】
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アランは必死にリエルのあとを追いかけた。
そしてリエルたちの姿を見つけると、にやりと口もとに笑みを浮かべた。
「リエル、待つんだ!」
呼び止められたリエルはくるりと振り返る。
アランは息を荒らげながら追いつき、喜びのあまり口もとが緩んだ。
しかし、リエルは冷めた表情をしている。
「王太子殿下、声をかけていただくときは令嬢とお呼びください。親しくしていると思われては困ります」
「はっ……? 何を言っているんだ、リエル」
「カーレン令嬢、とお呼びくださいませ」
強い口調で言われて、アランは呆気にとられた。
リエルは真顔でただ冷たい目を向けるだけだ。
アランは苛立ちを顔に出すが、すぐに笑顔を取り繕った。
「そんなことを言うなよ。ついこの前まで婚約していただろう。皇太子さえいなければ俺たちは夫婦になれるはずだったんだ」
「過去のことです。話がなければ急いでいるのでこれにて失礼いたします」
リエルはそっけなくそう言って、くるりと背中を向ける。
すると、アランは急いで呼び止めた。
「待て。ここは俺の城だ。勝手に出て行くことは許さん!」
リエルは背中を向けたまま返答する。
「私はあくまで客人です。出て行くのに主人の許可が必要など聞いたことがありません。それに……」
リエルは少し顔を傾けて、ちらりと横目でアランを見やる。
「あなたが私を追い出したのでしょう? きっちり婚約破棄されたではありませんか。大勢の前で」
「なっ……! あれは、お前が浮気をしたからだろう! 俺という婚約者がいながら他の男と関係を持ちやがって! あのときお前が素直に頭を下げて謝れば俺は許してやったんだぞ!」
そばで聞いていたエマが「うわあっ」とドン引きするような声を上げた。
リエルはあくまで平静を保つ。
「殿下のそのお言葉、そのままお返しいたしますわ。私が王宮入りする前から愛人をお持ちになっておられましたでしょう?」
「俺はいいんだ。次期国王だからな! 王族は妃を何人も娶るもんだ。貴族の連中も妾のひとりくらい持っているだろう」
「ええ存じておりますわ。ですから私も堂々とお相手を見つけましたの。歴代の妃も愛人を持つことを王は容認されていたようですし。なぜ殿下がそれほどお怒りだったのか理解に苦しみますわ」
アランは怒りを滲ませながら声を上げる。
「相手が悪い! グレイアム皇太子だけは絶対にだめだ」
リエルは背中を向けたまま、他の者たちはアランを見て険しい表情をしている。
アランはふと思いついたように、にやりと笑った。
「そうだ、リエル。皇太子は多くの愛人を持ち、飽きたらすぐに捨てる。お前もどうせ捨てられるぞ。それだけじゃない。あいつは女に暴力を振るうらしい。やめておいたほうがいいぞ」
しんと不気味な静けさが広がる。
周囲はどう反応していいか困っているようだ。
アランだけがにやけている。
(ショックを受けているのだろう。ここで甘い言葉をかけたらリエルは戻ってくる!)
「リエル、今なら謝れば許してやる……」
「先ほどの殿下のお言葉はまるでご自身のことをおっしゃられているようですね?」
「はっ……?」
リエルはくるりと振り返って満面の笑みを見せる。
そして、堂々と言い放つ。
「たしかにアラン殿下は愛人を何人も持ち、飽きたら捨てて、婚約者だった私に暴力を振るいましたもの」
「なっ……!」
「ご心配いただき、ありがとうございます。殿下のおっしゃる通り、そういう男はやめておいて正解でしたわ」
アランは赤面し、怒りの形相でリエルに掴みかかろうとした。
「リエル! お前は……」
アランの伸ばした手を掴んだのはルッツだ。
リエルの近くで黙っていた彼はすぐに反応し、アランの手がリエルに触れる前に制止した。
アランは驚き、その人物を凝視する。
「何だ貴様?」
「グレイアム皇太子殿下より何者も令嬢に触れさせないよう仰せつかっている」
「な、何ぃ!?」
アランは苛立ち、表情を歪めた。
リエルは笑顔でアランに声をかける。
「ご忠告いただき恐縮です、殿下。ですが私は、とても大切にしていただいておりますので、とうぞご心配なく」
アランは放心状態で絶句した。
そばで見ていたエマはぶふっと笑いを洩らす。
そして、ルッツは恐ろしい形相でアランを睨みつけている。
「それではごきげんよう」
リエルはくるりと背を向けて颯爽と立ち去った。
ルッツだけはアランが追いかけてこないか監視の目を向けていた。
残されたアランはその場に立ち尽くし、呆然とした。
(くそっ、どうしてこんなことに)
グレンの顔を思い出すと急激に怒りが込み上げてきて、アランは苛つきながら何度も足でダンッダンッと床を踏みつけた。
(あいつのせいだ。あいつがいなければ今頃リエルは俺の妃になっていた。昔から俺のものを奪ってばかり。あいつさえ、いなければ……!)
「くそ――――っ!」
アランの怒鳴り声は王宮の回廊で高らかに響きわたった。
そしてリエルたちの姿を見つけると、にやりと口もとに笑みを浮かべた。
「リエル、待つんだ!」
呼び止められたリエルはくるりと振り返る。
アランは息を荒らげながら追いつき、喜びのあまり口もとが緩んだ。
しかし、リエルは冷めた表情をしている。
「王太子殿下、声をかけていただくときは令嬢とお呼びください。親しくしていると思われては困ります」
「はっ……? 何を言っているんだ、リエル」
「カーレン令嬢、とお呼びくださいませ」
強い口調で言われて、アランは呆気にとられた。
リエルは真顔でただ冷たい目を向けるだけだ。
アランは苛立ちを顔に出すが、すぐに笑顔を取り繕った。
「そんなことを言うなよ。ついこの前まで婚約していただろう。皇太子さえいなければ俺たちは夫婦になれるはずだったんだ」
「過去のことです。話がなければ急いでいるのでこれにて失礼いたします」
リエルはそっけなくそう言って、くるりと背中を向ける。
すると、アランは急いで呼び止めた。
「待て。ここは俺の城だ。勝手に出て行くことは許さん!」
リエルは背中を向けたまま返答する。
「私はあくまで客人です。出て行くのに主人の許可が必要など聞いたことがありません。それに……」
リエルは少し顔を傾けて、ちらりと横目でアランを見やる。
「あなたが私を追い出したのでしょう? きっちり婚約破棄されたではありませんか。大勢の前で」
「なっ……! あれは、お前が浮気をしたからだろう! 俺という婚約者がいながら他の男と関係を持ちやがって! あのときお前が素直に頭を下げて謝れば俺は許してやったんだぞ!」
そばで聞いていたエマが「うわあっ」とドン引きするような声を上げた。
リエルはあくまで平静を保つ。
「殿下のそのお言葉、そのままお返しいたしますわ。私が王宮入りする前から愛人をお持ちになっておられましたでしょう?」
「俺はいいんだ。次期国王だからな! 王族は妃を何人も娶るもんだ。貴族の連中も妾のひとりくらい持っているだろう」
「ええ存じておりますわ。ですから私も堂々とお相手を見つけましたの。歴代の妃も愛人を持つことを王は容認されていたようですし。なぜ殿下がそれほどお怒りだったのか理解に苦しみますわ」
アランは怒りを滲ませながら声を上げる。
「相手が悪い! グレイアム皇太子だけは絶対にだめだ」
リエルは背中を向けたまま、他の者たちはアランを見て険しい表情をしている。
アランはふと思いついたように、にやりと笑った。
「そうだ、リエル。皇太子は多くの愛人を持ち、飽きたらすぐに捨てる。お前もどうせ捨てられるぞ。それだけじゃない。あいつは女に暴力を振るうらしい。やめておいたほうがいいぞ」
しんと不気味な静けさが広がる。
周囲はどう反応していいか困っているようだ。
アランだけがにやけている。
(ショックを受けているのだろう。ここで甘い言葉をかけたらリエルは戻ってくる!)
「リエル、今なら謝れば許してやる……」
「先ほどの殿下のお言葉はまるでご自身のことをおっしゃられているようですね?」
「はっ……?」
リエルはくるりと振り返って満面の笑みを見せる。
そして、堂々と言い放つ。
「たしかにアラン殿下は愛人を何人も持ち、飽きたら捨てて、婚約者だった私に暴力を振るいましたもの」
「なっ……!」
「ご心配いただき、ありがとうございます。殿下のおっしゃる通り、そういう男はやめておいて正解でしたわ」
アランは赤面し、怒りの形相でリエルに掴みかかろうとした。
「リエル! お前は……」
アランの伸ばした手を掴んだのはルッツだ。
リエルの近くで黙っていた彼はすぐに反応し、アランの手がリエルに触れる前に制止した。
アランは驚き、その人物を凝視する。
「何だ貴様?」
「グレイアム皇太子殿下より何者も令嬢に触れさせないよう仰せつかっている」
「な、何ぃ!?」
アランは苛立ち、表情を歪めた。
リエルは笑顔でアランに声をかける。
「ご忠告いただき恐縮です、殿下。ですが私は、とても大切にしていただいておりますので、とうぞご心配なく」
アランは放心状態で絶句した。
そばで見ていたエマはぶふっと笑いを洩らす。
そして、ルッツは恐ろしい形相でアランを睨みつけている。
「それではごきげんよう」
リエルはくるりと背を向けて颯爽と立ち去った。
ルッツだけはアランが追いかけてこないか監視の目を向けていた。
残されたアランはその場に立ち尽くし、呆然とした。
(くそっ、どうしてこんなことに)
グレンの顔を思い出すと急激に怒りが込み上げてきて、アランは苛つきながら何度も足でダンッダンッと床を踏みつけた。
(あいつのせいだ。あいつがいなければ今頃リエルは俺の妃になっていた。昔から俺のものを奪ってばかり。あいつさえ、いなければ……!)
「くそ――――っ!」
アランの怒鳴り声は王宮の回廊で高らかに響きわたった。
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